第45話 ゾーンディフェンス

 浮島高校の攻撃。

 やはりと言うべきか、梨世がファールを二つしていることもあり、相手は梨世の所から攻めてこようとしてきた。

 美優ちゃんがボールを持ち、ドリブルの間合いを見極める。


「倉田、カバーに入ってくれ」


 俺はベンチから倉田に梨世のディフェンスのカバーに入るよう指示を出す。

 倉田が自身のマークから少し距離を置いたところで、美優ちゃんがドリブルを仕掛けた。

 梨世は必死に美優ちゃんのドリブルを防ごうとコースを切りに行く。


「梨世、ファール気を付けろ!」


 俺の声ではっとなった梨世は、美優ちゃんから少し距離を取った。 

 刹那、倉田はカバーに入り、美優ちゃんを二人がかりで止めにかかる。

 しかし、美優ちゃんも逃げるように対角線上へパスを出す。


 倉田が元々ついていたマークの選手へパスが通る。

 試合前に静と一発触発になりかけていた子だ。

 ボールを受けると、躊躇うことなくノーマークで外からのスリーポイントシュートを放ってくる。

 これを決められ、二十四対二十九の五点差に広げられてしまう。


 川見・城鶴の攻撃。

 ティアがドリブルでボールを運んでいく。

 静が再びセンターポジションを取る。

 がしかし、相手の様子がおかしい。


 それぞれ決まった選手にマークするマンツーマンディフェンスではなく、スペースを守るゾーンディフェンスを組んでいた。


「相手ゾーンディフェンスだぞ! 気を付けろ!」


 しかし、ティアは躊躇わず静へパスを出してしまう。

 静がボールを受け取った途端、一気に四人の選手が静に襲い掛かった。

 四方向から取り囲まれる静。

 すぐさま、倉田へパスを出そうとゴールラインぎりぎりのスリーポイントラインを見るが、倉田には美優ちゃんがぴったりとくっ付いて徹底マーク。

 静も四人がかりは個人技で打開するのは無理だと判断して、一旦ティアへパスを戻す。

 ティアはスリーポイントラインの外で受け取り、もう一度ドリブルを突いて攻撃の立て直しを行う。


 しかし、相手も持ち場へ戻るだけで、ティアへ無理にプレッシャーを掛けようとはしない。


 ティアは相手のゾーンをかき乱そうと自らドリブルを試みる。

 しかし、ゴール前をがっちり相手の四人の選手が固められているため、ドリブルのコースを塞がれてしまう。

 静と倉田へのパスコースも潰されてしまっているため、攻撃の糸口を見つけられない。


 ブブーッ。

 とそこで、24秒のブザーが鳴り響く。

 攻撃時、24秒以内にシュートを打つことが出来なければ相手ボールとなってしまうのだ。

 オーバータイムとなってしまい、ティアは悔しそうにしながら自陣へと戻って行く。


 流石は県ベスト8の強豪校。

 こちらのストロングポイントをすぐに潰しにかかってきた。

 持田さんの手腕に感服する。


「ティア、柚! レイアップに行けなくてもシュートまでもっていっていい! 静を信じろ」


 結局、ティアと柚のシュートが外れたリバウンドを、静がリバウンドで取るのを祈るしかない単調な攻撃になってしまう。


 浮島高校は徹底して梨世の所から攻撃を仕掛けてくる。

 倉田がフォローに入ったところで、再び倉田がマークしていた選手へとパスを回されて、外からのシュートを決められてしまう。


「柚! 倉田とマーク交代!」


 守備時のマークを入れ替え、柚が徹底マークしたことで、スリーポイントの流れを止めることには成功したものの、今度は柚が付いていた選手がノーマークになると、ドリブルを仕掛けてきて、ゴール前で2対1の状況を作られてしまう。

 身長があるとはいえ、連携で崩されてしまったら静もブロックは難しい。

 ゴール下のシュートを決められてしまい、点差がジワジワと開いていく。

 その後も、攻撃の糸口を見つけ出せぬまま、第二クォーター終了のブザーが鳴り響いた。

 一時は二点差まで詰めたスコアも、三十四対四十六と再び離されてしまい、点差が二桁に開いてしまったところで前半を終了。


 浮島高校の対策に後手を踏んでしまった。

 後半開始まで十分のインターバルの中、俺は次なる作戦を考えていく。

 この一週間という短い練習期間で、ゾーンディフェンスを教えられるわけがない。

 だからと言って、柚、亜美というバスケ未経験者がいる中で、即席でやらせるにも無理がある。

 オールコートのマンツーマンディフェンスで勝負に出てもいいが、まだ試合時間が二十分残っていることを考えると、六人だけで回すのは体力的にきつい。


 であれば、残った最善策を取るしかない。

 俺はベンチに座る六人の前に立ち、作戦ボードを片手に指示を出していく。


「守備でマンツーマンディフェンスはそのまま続行。ただ、そんなに距離を詰めてマークに行かなくていい。外のシュートは打たれても構わないから、ドリブルで抜かれない事だけを心掛けよう」


 リングから遠くなればなるほど、シュートが外れる確率は落ちる。

 先ほどまでは、ノーマークで打たれていたので得点をされたが、マークがついていれば、ディフェンスの距離が多少離れていてもプレッシャーはかかるだろう。

 外からのシュートが決まる確率も、少しは悪くなるはずだ。

 ディフェンスの策は打った、問題は攻撃である。


 第二クォーター最初は、いわば奇襲みたいな形で、倉田のスリーポイントシュートが二発決まったものの、そこからはすべて静のリバウンドによる二次攻撃からの得点。

 ティア、柚にミドルのシュートはない。

 そうなってくると、徹底して愚直に同じ攻撃を繰り返すしかないだろう。


「次は攻撃だが、まずボールを運ぶ選手は中央から運ぶんじゃなくて、左右どちらからかのサイドに寄って相手陣内へ侵入していくこと。例えば、ティアが左サイドからボールを運んだら、他の四人は全員右サイドに寄ってスペースを空けてあげる。これは一対一をやりやすいようにするためだ。相手もカバーに行きづらいからな。そこでティアはドリブルを仕掛ける。それを見て、倉田はトップの位置へ、静はティアに寄っていってスクリーンを掛けてくれ。ティアは相手が静に引っ掛かってそのまま行けそうだったらレイアップシュート。相手が上手くディフェンスしてきたらトップにいる倉田にパスを出す。ドリブルを仕掛けるのは、柚とティアの二人だ。後半はこれで行く」


 それぞれの能力値で今できる最大限の策を練った。

 これで上手くいかなかったら仕方がない。

 試合開始1分前のブザーが鳴り響く。


「よし、まずは後半の入り、これ以上点差を放されぬよう、粘り強く入って行こう!」


 俺が手を叩いて五人をコートへ送り出す。

 頼む、上手く行ってくれと願いながら……。

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