第41話 バチバチのやり合い

 静は闘志を燃やしつつ、ジャンプボールのジャンパーに入る。

 一方で、相手はみとちゃんがジャンパーとして入ってきた。

 そして、挑発するような笑みを向けてくる。


「言っとくけど、静と一緒にやってた時の私とは一味違うから」

「ふぅーん」

「なっ……」


 軽い挑発には乗らず、静は闘志を集中させる。

 審判がボールを上に放つ。

 ボールの軌道をしっかりと見つめる。

 ボールが最高到達点に達したところで、私は大きく膝を曲げてジャンプした。


「とりゃ!」

「なっ⁉」


 静の方が十五センチほど身長が高いというのに、みとちゃんは信じられないほどの跳躍力で、私と同じ目線で空中に浮いていた。

 目が合い、にやりとした笑みを浮かべるみとちゃん。

 がしかし、手のリーチの長さで静が上回り、何とか競り勝つことに成功する。


「OK!」


 弾いたボールは、梨世が回収してくれて、川見・城鶴チームのオフェンスから試合が始まった。

 みとちゃんのジャンプ力に動揺しつつも、私は相手陣内へと入っていく。


「マークOK」


 すると、なんとみとちゃんがそのまま私のマークについてくる。


「ふふっ」


 先ほどからずっと、みとちゃんは不敵な笑みを浮かべている。

 目の奥からは、ボコボコにしてやると言ったような闘争心のようなものが窺えた。


「なるほど、そう言う事」


 この試合で、みとちゃんは私と真っ向から挑もうとしているのだ。


「その挑戦、受けて立ってやろうじゃない」


 私はすぐに体格を生かしてポジショニングを取る。


「梨世!」


 私が大きく叫んでボールを要求する。

 しかし、梨世はパスを出そうとしない。


「隙あり!」


 もたついている間に、みとちゃんが私の前に入り、パスコースを防がれてしまう。

 私はもう一度動き直して、ポジショニングを取り直す。


「ドリャァァァー!!!」


 とそこで、梨世が一対一を仕掛けて相手を抜き去った。

 そのままドリブルでゴール前へと突っ込んでくる。

 みとちゃんは、すかさずフォローに行くかと思いきや、私に付いたまま持ち場を離れない。


「もらったぁー!」


 そのまま梨世は、スピードに乗ったままレイアップシュートを放つ。

 ガッ。


「あっ……」


 しかし、梨世のシュートは無情にもリングに当たって弾かれてしまう。

 リバウンドを取ろうとしたものの、みとちゃんがしっかりスクリーンアウトをして私をスペースに入らせない。


「高さだけじゃないんだよ!」


 みとちゃんがそう言いながら、ベストポジションでジャンプする。


「っ!」


 私は、みとちゃんの背中に身体を預けるようにしてジャンプした。


「なっ⁉」


 今度はみとちゃんが驚きの声を上げる番だった。

 私は手の長さとみとちゃんの身体を利用して、みとちゃんの手の上からボールを横取りするような形で奪い取ったのである。

 そのまま、ボールを抱え込むようにして手でボールをキャッチ。

 ガシっとボールを両手で掴んで地面に着地して、そのまま反転して膝を曲げて手を上に伸ばす。


「させるか!」


 私がシュートへ行こうとしたところで、みとちゃんが負けじと手を伸ばしてくる。

 みとちゃんの足が完全に宙に浮いたところで、私はボールを下に下げてドリブルを突いた。


「しまった!?」


 フェイクでみとちゃんを抜き去り、私は落ち着いてレイアップシュートを放った。

 ボールは見事ゴールネットに吸い込まれ、先制点を奪うことに成功する。


「ぐぬぅ……」


 歯を食いしばり、悔しさを露わにするみとちゃん。


「言っとくけど、私だってパワーアップしてるのよ」

「……チッ」


 私がそう言い放って自陣に戻って行くと、みとちゃんは軽く舌打ちを打ってきた。どどうやら、私に相当な怨念がある様子。

 まっ、気が済むまで勝負してやろうじゃない。


 自陣に戻ってのディフェンス。

 みとちゃんは、ゴール下へと進入してくる。

 どうやら、オフェンスでも真っ向勝負を挑んで来るらしい。


「パス!」


 みとちゃんがフリースローライン手前でボールを受けると、こちらへ身体を反転させて相対する。

 真っ向勝負での一対一。

 私は長い手を広げて、細かいステップを踏みながら、みとちゃんとの間合いを詰めていく。

 そこで、みとちゃんが一気にドリブルで仕掛けてきた。

 私は一瞬反応が遅れたものの、身体の大きさを生かしてみとちゃんを抜かせない。

 彼女はボールを抱え、無理やりシュートを打ちに来ようとする。


「甘い!」


 私はそのままシュートブロックの体勢に入った。


 スパッ。

 その時、みとちゃんはあろうことか、目線をゴールの方へ向けたまま横へパスを選択したのだ。


「⁉」


 みとちゃんのドリブルに合わせてゴール前に入って来ていたノーマークの女の子がパスを受け取り、そのままシュートへと持っていく。

 このシュートが決まり、あっという間に2-2の同点とされてしまう。


「私が真っ向から勝負するとでも思った。それぐらい弁えてるに決まってるでしょ。言っとくけど、バスケはチームでプレイするものよ。アンタ一人の力じゃ勝てない」

「……」


 してやったりという表情を浮かべて、みとちゃんは自陣へと戻って行く。


「ナイスパス!」


 シュートを決めた子とハイタッチして、喜びを露わにするみとちゃん。


「ぐぬぬぬ……」


 一方で、決められた梨世は悔しそうに歯を食いしばっていた。

 ゴールライン上で、倉田がボールを持つ。


「友。私にボールを頂戴」

「えっ?」

「いいから」

「えぇ、分かったわ」


 有無を言わせぬ威圧感に気圧された倉田は、そのまま私へパスを送ってくれる。

 ボールを受け取った私は、相手陣内を見つめて、そのまま一気にスピードを上げてドリブルを開始した。


「ちょ、静!?」


 チームメイトのみんなも、驚きを隠せない様子だったが、私は構わず猛スピードでドリブルしていき、相手陣内へ一人で突っ込んでいく。

 一人、二人とドリブルで抜き去り、ゴール前へと一気に進入して、みとちゃんと対峙する。

 そのまま私は、みとちゃんと対峙してドリブルを突くのをやめると、すっと手を上に伸ばしてシュートを放った。

 高い位置から放たれたシュートは、直線的な軌道を描きながらゴールネットへと吸い込まれる。


「バスケがチームスポーツねぇ。ならまず、私一人を止めてから言ってみなさい」


 個人技でやり返して、みとちゃんに言い返す。


「……相変わらず生意気」

「あなたこそ」


 もちろんバスケがチームスポーツであることに異論はない。

 けれど、それ以前に私は大の負けず嫌いなのだ。


 ピィー


 とそこで、審判の笛が鳴り響く。


「タイムアウト、川見・城鶴」


 せっかくここからという所で、水を差すように大樹がタイムアウトを取ったのだ。

 大樹の方を見れば、眉間に皺を寄せ、少し不機嫌そうにしている。

 その時、私に対して怒っているのだと分かった。

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