第38話 謎の男と船木さん
そこで、一人の少女から声を掛けられる。
見れば、声を掛けてきたのは船木さんだった。
「イス使いますか?」
船木さんはパイプいすを一つ俺の元へ運んで来てくれていた。
どうやら立ちっぱなしで試合を観戦していた俺に気づいて持ってきてくれたらしい。
「ありがとう」
俺は、船木さんが持ってきてくれたパイプ椅子を受け取り、ゆっくりと腰掛けた。
「そっちの男子の四番は一年生?」
「え?」
ついでに質問を問いかけると、船木さんは急に質問をされて驚いていたのか、手を胸の前に置きおどおどしていた。
「ごめん、急に質問しちゃって……」
俺が謝ると、船木さんも冷静さを取り戻したのか、手を胸に当てながら深呼吸をした。
「いえ、私こそすみません。ちょっとビックリしちゃって……」
そんな会話をしていると男子コートの方から鋭い視線が注がれる。
コートの方を見ると、梨世がこちらを睨みつけていた。
梨世の視線に、苦笑の笑みを浮かべる。
「えっと。男子の四番って、
「名前は分からないんだけど、あの金髪にピアスの子」
「はい、上田君ですね。彼は二年生です」
「えっ二年? 前に練習試合やった時、あんなやついたっけな?」
俺が不思議そうに思っていると船木さんが重苦しそうに答える。
「上田くん、うちの高校でも有名な問題児で……こないだまで停学処分になってたんです。学校に復帰したばかりで……」
「そうだったのか」
「サボり癖もあるので、お兄ちゃんが今まで顔を合わせなかったのも無理ないかもしれないね……」
おかっぱの髪の毛をくるくると手でいじりながら、船木さんは俺の質問に答えてくれた。
「なるほどな。通りで初めてみる顔だと思ったわけだ……」
「あの、瀬戸さんはどうして女子バスケ部のコーチに?」
「まあ、怪我でバスケが出来なくなっちまったのが要因だけど……」
船木さんが、俺の話を聞き入るように前屈みになりながら熱心に耳を傾けている。
「一番は……輝きを取り戻させてあげたい奴がいるから……かな」
俺はコートの後ろでストレッチをしているティアを見つめながら、自分の気持ちを伝えた。
「って、ごめんごめん。なんか変なこと語っちゃって……」
「いや、私から聞いたことだから……」
「そう? ならいいんだけど……」
「ホント。昔から変わってないんだね、お兄ちゃんは……」
「え、今なんて?」
「ううん。なんでもないよ。それじゃ、私は練習に戻ります」
「え? あ、うん……。椅子ありがとう!」
船木さんはぺこりとお辞儀をして、ささっと練習に戻って行ってしまう。
やっぱりどこかで見たことある気がする。
それに、俺のことお兄ちゃんって……。
俺が首をかしげていると、またコートの方から梨世たちの鋭い目線を感じた。
「はぁ、罪な男ね全く」
「どわっ! なんだ、びっくりした倉田か」
いつの間にか背後には倉田がいて、ため息をつきながら呆れたように俺に下げ炭の視線を向けてきていた。
急に背後に立つのやめてくれますかね?
刺されるのかと思っちゃうから。
「ストレッチ終わったんだけど。なんかやっておいた方がいい?」
倉田が俺に聞いてくる。
「え?」
俺が後ろを振り返ると、ストレッチを終えたティア達が手持無沙汰になっていた。
「じゃあ、せっかくだし2対1の練習とドリブルシュートの練習をブロックする人つけてそれぞれやってくれ」
「わかったわ」
倉田はそういうと他三人を集合させて、アップを始めた。
俺が倉田とやり取りをしている間に、いつの間にかタイムアウトは明けていて、スコアは6対6の同点になっているではないか。
航一が決めたのか?
と思いきや、センターの筒香先輩が3連続ホームラ……。
じゃなくて、3連続得点を決めたらしい。
ここから川見高校は
センターの筒香先輩が得点量産して、高橋先輩のここぞというスリーポイントシュートシュートなどを決めて点数を重ねていく。
しかし、相手の四番上田君を中心とした速攻は止まることなく続き。
第一クォーター終了時点で十六対二十七と十一点差を付けられる苦しいスタート。
第二クォーター。
メンバーを変えずに望んだ川見高校の速攻攻撃が徐々に目を覚まし始める。
相手のシュートが外れ、筒香先輩がリバウンドでボールを回収すると、そのボールをすぐさま高橋先輩が受け取り、走っていた航一にパス。
航一は二人に囲まれながらも、浮き球のパスをゴール前へ送ると、待ち構えていた小野田先輩がノーマークでゴールを決めるという流れのいい連携を見せていた。
これぞ、川見高校男子バスケ部の速攻だともいえるような流れる攻撃が炸裂。しかし、相手に得点を決められた後のセットオフェンス、いわゆる遅攻になると、パスミスが散見され、相手にまた速攻攻撃を食らってしまう。
第二クォーターが終了し、三十三対四十八。
バスケットボールでは逆転できるギリギリの点差と言われている十五点差を付けられて、前半を終了するのであった。
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