第37話 練習試合開始

 練習試合に向けて、男女に分かれて準備運動を始める。

 今日は男子が先に練習試合を一本行い、その後に女子が一試合。

 さらに男子がもうハーフゲームを行う予定になっていた。


 浮島高校の男子バスケ部は、今回のインターハイ予選県ベスト16まで行った強豪。

 相手は三年生が抜けて世代交代したとはいえ、インターハイを控える男子バスケ部にとって練習相手としてはもってこいだ。


 一方の女子バスケ部は、部員数が十五名ほどとそれほど多くはないものの、こちらも県大会出場常連校であることにかわりはなく、前回のインターハイ予選はベスト8まで進んだ。

 川見・城鶴としても、初の練習試合として腕試しにはもってこいの相手である。

 

 体育館の入り口から手前のコートで練習試合を行い、奥側のコートはアップ用の練習場所として開放されている。

 

 手前のコートでは、男子の第一試合がまもなく始まろうとしていた。

 

 基本的に高校のバスケットは、10分を4セットの計40分でゲームが行われる。

 審判は向こうの男子部員のベンチメンバーが審判を行うらしい。

 そして、各ゴールラインのところにも1年生とみられる男子生徒が笛を加えてスタンバイをしている。

 どうやら審判は3人体制で行うらしい。


 

 俺は奥側のコートで、ネット越しから男子の試合を観ることにした。

 梨世はアップをせず、マネージャーとして男子のベンチへ入り、得点者や各選手のファールの数などを確認するランニングスコアを書いている。

 また、静と黒須はスコアーボードをめくる係を行っていた。

 静に関しては、未だにうたた寝をしているが……試合までには起きてくれるよな?

 

 他のメンバーは手持無沙汰なので、俺の後ろのコートでストレッチなどを入念に行っていた。


「試合中、白(浮島)、青(川見)で行きます。礼!」

「よろしくお願いします」


 最初はジャンプボールから始まる、浮島は身長百八十センチほどありそうな四番の選手がジャンパー。

 一方で川見は航一。

 航一の身長も同じぐらいなので、どちらが勝つか分からない。


 審判がセンターサークルの中に入りふっとボールを上へあげて試合が始まった。

 両者一斉にジャンプして、ほぼ同時にボールに触れる。

 両者はボールを右に弾き飛ばすと、どちらのボールにもならずにボールはコートを転がっていく。

 ボールを最初に掴んだのは浮島高校だった。

 そのまま、浮島高校が攻撃を開始する。

 浮島高校は三年生が引退しているため、全員が一年生と二年生のチームで構成させているとのこと。

 ボールを拾った選手が四番の選手へパスを送る。

 どうやら、この四番の選手が浮島高校のエースはこいつらしい。


 マークについているのは航一。

 浮島高校の四番は、バスケットをしている風貌とは思えぬいかつい表情で、金髪に染めた髪にさらにはピアスという、いかにもチャラそうな見た目の男である。

 四番の男は、早速航一を左サイドから抜きにかかった。

 それを読んでいた航一は四番がカットインしてくるコースへ身体を入れる。

 しかし、四番はすぐにドリブルを辞めたかと思うと、瞬時にジャンプをしてシュートモーションに入った。

 航一の反応が一瞬遅れ、四番の手から既にボールが離れている。


「早い!」


 つい独り言が漏れてしまうほどに、四番のシュートを放つスピードが速かった。

 四番が放ったシュートは、見事ゴールネットを揺らして浮島高校が先制に成功する。

 

 川見の攻撃。

 川見高校男子バスケットボール部は超攻撃的。

 俺と航一を中心に、全員が速攻を何度も繰り返して得点を重ねていくスタイルが持ち味だ。

 怪我をしてから、川見の攻撃を初めてみる。

 俺がいなくなってどう変化したのか、お手並み拝見と行こうじゃねーか。

 

 俺の代わりにガードを役割をしているのはキャプテンの高橋たかはし先輩。

 高橋たかはし先輩はゆっくりとドリブルを突きながら相手陣内へ攻め込んでいく。

 航一がセンターの筒香つつごう先輩をおとりに使い、相手の四番のマークを外すことに成功する。

 高橋先輩は迷わす航一へパスを送るった。

 航一は右45度の位置でボールを受け取ると、迷うことなくシュートを放つ。

 

 バシンッ!


 しかし、航一の放ったシュートは無残にも弾き飛ばされてしまった。

 なんと、マークを振り切ったはずの金髪の四番が、ものすごい跳躍力で航一のスリーポイントシュートをブロックしたのである。


「なっ!」

「速攻!」


 航一は驚きを隠せない様子。

 コートの外で見ていた俺でさえ驚いた。

 以前浮島高校と練習試合をした時、あんなやついただろうか?

 一年生か?

 一年生で四番を与えられているということは、相当な実力者と言う事なのだろう。


 相手の速攻は見事に決まり、あっという間に0対4となってしまう。

 高橋先輩が再びボールを相手陣内へと運んでいく。

 航一はコートを縦横無尽に走り回り、なんとかマークを外そうとするが、なかなかあの金髪四番を振り切ることが出来ない。


 高橋先輩は苦し紛れに、サイドに開いていた小野田おのだ先輩へパスを送る。

 しかし、無残にもそのパスをカットされてしまい、再び速攻を食らってしまう。

 試合が一分経過したところで、あっという間にスコアは0対6となってしまう。

 相沢さんは早くも1回目のタイムアウトを要求。

 川見がやりたい攻撃を、逆に浮島高校にやられてしまってるという印象だった。


「これは、中々に手ごわいな……」


 俺がそんな独り言をつぶやいていると


「あの……」


 その時である。

 一人の少女が俺に声を掛けてきたのは……。

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