第32話 彼女たちの意気込み
「練習試合!?」
翌日、俺は彼女たちに浮島高校との練習試合が決まったことを伝えると、全員一斉に驚きの声を上げた。
「あぁ、今度男子がインターハイに向けて練習試合を行うらしいんだが、相沢さんが女子バスケ部もどうですかって声を掛けてくれたみたいなんだ」
「練習試合……練習試合……」
梨世は何度も練習試合という言葉を繰り返していた。
規定人数に達しない川見高校では、練習試合を組むにも物理的に無理なこともあり、梨世にとっては高校に入学して初めての練習試合になるのだから。
「いーじゃん練習試合! 燃えて来た!」
ティアがぎゅっと両手を握りしめて闘志を燃やしている。
「そうね、実践に近い練習が一番実力が身に付くもの。いい機会だと思うわ」
倉田も髪を靡かせながら賛同してくれる。
「浮島高校……」
「どうした静?」
「別に何でもない。練習試合久しぶりだから楽しみ」
静は少々複雑な表情を浮かべていたものの、すぐに笑みを浮かべた。
「練習試合楽しみー!」
「わ、私達なんかが出ていいんでしょうか?」
柚と亜美の未経験組みは、それぞれ対照的な反応を示していた。
恐らく柚は、サッカー部時代に経験があるのだろう。
一方の亜美は、運動部に入って初めての練習試合。
実戦経験がない亜美にとっては不安でしかないのだろう。
「俺としても、練習試合が一番実践的な経験は見に付く場だと思ってる。浮島高校はこの前のインターハイ予選は県ベスト8。全国を目指すなら、倒さなければいけない相手だ。今の実力差を知る上でもいい機会だと思ってる」
「何言ってるの大樹君!」
「そうよ。私たちは勝ちに行くわ」
ティアと静が俺の意気込みに対してさらなる欲を滲ませている。
「なら、まずはみっちり練習しないとな?」
「もちろん!」
「勝つために努力は惜しまない」
ティアと静は勝利のためにきつい練習でもどんとこいと言った様子。
「う”ぇ……走り込み」
「仕方ないわよ。諦めなさい」
「友ちゃんまで酷い」
一方で、梨世は走り込みの練習が嫌なのか、しかめっ面を浮かべているのに対して、倉田が諦めろと諭している。
「私、体力だけは自信あるんだよね」
「……」
腰に手を当てて自信満々に答える柚に対して、亜美は青ざめた表情を浮かべている。
昨日、三対三の練習だけで倒れてしまった亜美からすれば、体力づくりは必須であるものの、最も忌み嫌う練習であることに間違いないのだから。
「練習試合は来週の水曜日の午前中。場所は浮島高校の体育館。集合時間は後で追って連絡する。ってことで、まずはこの一週間、練習試合に向けて出来る限りのベストを尽くして練習に励んでくれ」
「はい!」
全員が一斉に返事をしたのと同時に、俺は間髪入れずに空気を引き締める。
「言っとくが、まだこのチームはまともに機能するレベルに達してない! この能力がバラバラ過ぎるからな。ただ、戦術よりもまずは基礎。そこをきっちり固めていく! ってことで、まずは気の言ってた通り走り込みだ。試合は10×4クォーターの40分。メンバーが6人しかいないことを考えても、体力がなきゃ試合出来ないからな!」
俺はそう言って、彼女達に激を飛ばした。
「特に柚と亜美、お前たちはこの一週間、それ相応の覚悟をしておくように!」
「ラジャー」
「は、はい……!」
元気よく返事をする柚と、対照的に弱気な声を上げる亜美。
「まあ、最悪私たちがフォローするから任せてよ!」
「お前もだ梨世!」
「え”ぇ⁉ なんで私まで!?」
「昨日の課題がこなせないようじゃ戦力とは言えないぞ。この1週間、基礎技術向上の個別トレーニングを覚悟しておくんだな……」
「いやーん♡ 個別でみっちりトレーニングなんて、大樹ったら何を教えるつもりなのぉー?」
「今日一日走り込みにしてもいいんだぞ?」
「ごめんなさい! ちゃんとやりますから!」
懇願するように頭を下げる梨世。
どうやらそれほどまでに走り込みの練習をやりたくないらしい。
「よし、じゃあ練習を始めるぞ!」
こうして、俺たちは浮島高校との練習試合に向けて、1週間のハードなトレーニングを始めるのであった。
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