第27話 それぞれの実力

 三対三のチーム分けは、梨世、ティア、亜美チームと、倉田、静、柚チームに分けた。

 正直、実力で言えば静のチーム優勢かもしれないが、ひとまず様子を見てみることにする。


「それじゃあ、先行梨世チーム。スタート!」


 梨世にマッチアップするのは倉田。

 倉田が梨世にバウンドパスを出して、梨世が受け取ったところでゲームがスタートする。

 梨世はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ドリブルを突いて倉田へ声を上げた。


「友ちゃん。私は手加減なんてしないからね!」

「……」


 倉田は梨世の挑発に乗ることなく、無言で梨世が攻めてくるタイミングを冷静に見極めている。

 梨世も梨世で、ドリブルしながら倉田を抜きに行くタイミングを見計らっていた。


 右手から、左手へとボールを持ち替える。

 ドリブルをしたまま、数秒の時間が経過した。

 梨世がダンっと大きくボールを打ち付けて、左手から右手へとボールを持ち替えると、そのまま一気に加速して倉田の横すれすれをドリブルで抜き去ろうとする。

 しかし、倉田も梨世が仕掛けてくるタイミングを読んでいた。

 上手く間合いを取り、梨世の鋭い出足を阻止する。

 この前の生ぬるい練習が嘘のように、梨世と倉田の動きは別人のように思えた。


「まだまだっ!」


 今度は梨世が左へと切り返して、倉田を左右に揺さぶって抜きにかかる。

 そこで倉田は、梨世からさらに一歩離れて間合いを取った。

 梨世のスピードについて行けないと判断しての判断。

 自身の能力を理解した上で対戦相手に応じて、最適解のディフェンス方法を自ら導き出していた。

 流石は倉田、成績も優秀であることながら、バスケットIQも高いとは恐れ入る。


「甘いよ友ちゃん!」


 すると、梨世は足の間にボールを通すレッグスルーと言う技を繰りだして、そのままステップを踏んで一歩後ろに下がると、すっとボールを両手で持ってそのままシュートモーションへと入った。

 倉田もすぐさま反応し、ジャンプしながら手を高く伸ばしてプレッシャーを掛ける。

 梨世が放ったシュートは、倉田の伸びた手が圧力として掛かったのか、体制を少し崩しながらのシュートになってしまう。

 梨世が放ったシュートはリングへと向かっていくものの、飛距離が足らずにリングの淵に当たって跳ね返る。


「リバウンド!」


 梨世が叫ぶものの、時すでに遅し。

 ボールが跳ね返った直後、ゴール前で待ち構えていた静がジャンプ一番。

 そのままリングに届いてしまいそうなほどの跳躍をみせ、がっちりボールをキャッチした。


「だぁぁぁぁー=!!!」


 静にボールを取られ、頭を抱える梨世。


「攻守交替!」


 俺が鋭い口調で言うと、静がボールをスリーポイントラインへと運んでいき、静チームの攻撃が始まる。

 静に付いているのはティアだ。

 ティアと静の身長差は二十センチほど。

 体格差では圧倒的に静が有利だろう。

 ティアも負けじと腰を低く下げ、静に絶対に抜かせないという気迫を感じる。

 すると、静はボールを手に持つなり、すっとボールを頭の上に持ち上げてジャンプする。


 右手にボールを乗せて、左手は添えるだけ。

 男子が打つワンハンドシュートで、スリーポイントシュートを放ったのだ。


「なっ⁉」


 最高到達点で放たれたシュートは、直線的な軌道を描いて行き、スパッとネットへと突き刺さる。


「そんなのあり!?」


 決まった瞬間、ティアはそりゃないよと言った様子で悔しそうに地団駄を踏む。


「次! 柚ボールからスタート」


 攻守交替はなく、静チームの攻撃が続く。

 ただ、静がボールを保持してしまうと、誰も止められる人がいないと判断して、俺は最初のボール保持の選手を指定することにした。


「はい柚ちゃん」


 静が柚へとボールを渡す。

 柚はスリーポイントラインでボールを受け取ると、待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべる。


「行くよ亜美ちゃん! 私の華麗なボールハンドリングについて来れるかな?」

「おぉ……」


 柚のドリブルに、俺は思わず感嘆の声を上げてしまう。

 四月からバスケを始めて三カ月ほどだというのに、経験者さながらのドリブル。

 やはり、サッカーをやっていたこともあり、元々運動神経がいいのだろう。


「あっ……あぁ……!」


 一方の亜美はというと、右に左へとボールを移動させる柚のハンドリング捌きに惑わされ、ボールを奪おうと手を出しては空を切り、身体のバランスを崩し手を繰り返していた。

 亜美にはまず、ディフェンスの基礎から教えないといけないな。


「隙あり!」

「あぁっ⁉」


 そんなことを思っていると、亜美がバランスを完全に崩したところで、柚が一気にドリブルで亜美を抜き去り、ゴール前へと突進していく。

 亜美が抜かれたことで、倉田のマークについていた梨世が慌ててフォローに入る。


「食らえ! 私の炎のシュートを!」


 柚はスピードに乗ったままジャンプすると、ボールを両手で持つと、頭の後ろまで持ってきた。

 それはまるで――


「いや、サッカーのスローインかよ!」


 思わず突っ込んでしまうほどに、柚のシュートは素人のそれだった。


 ファッ!


 っと後ろ投げで放たれたシュートは、直線的にリングへと向かって行き、ガッとフレームに当たって外れてしまう。


「なぁ⁉」


 シュートが外れたことで、奇声を上げる柚。

 しかし、そのリバウンドを静が当然のように回収して、ゴール下のシュートを決めきった。


「次、倉田スタート」


 静チームの攻撃は続く。

 今度は倉田がスリーポイントラインからボールを保持してスタート。


「友ちゃん。私を抜くことが出来るかな?」


 すると、倉田は冷静に身長差を生かして、梨世の上を通すパスを送った。

 その先には静がいて、静はフリースローライン際でゴールに背を向けたまま倉田からのパスを受け取る。


「なっ! 友ちゃん勝負を放棄するなんて卑怯だ!」

「単なる戦略よ」

「ぐぬぅ……!」


 勝負を仕掛けて来なかった倉田に対して、不満を呈する梨世。


「梨世ちゃん、倉田ちゃんはいいからヘルプ来て!!」


 ティアから静のマークについて欲しいと言われ、梨世は渋りながらもティアのフォローへと入る。

 静をティアと梨世の二人でマークするダブルチームという方法で、静にプレッシャーをかけ、自由に攻撃を差せない作戦に出た。

 それでも、身長差があるため、静はさほどプレッシャーを感じていない様子。

 二人にマークをされているにもかかわらず、表情一つ変えずに落ち着いて周りの状況を確認していた。

 こりゃ、静を止めるのはきついか?


「0度!」


 とそこで、いつの間にかコートの右端へ移動していた倉田が鋭い声を上げる。

 静は体格を生かして真上にジャンプすると、そのまま身体を反転させて倉田へパスを送った。

 倉田が静からのパスをゴールラインぎりぎりの右隅0度の位置で受け取ると、そのままノーマークでスリーポイントシュートを放つ。

 綺麗な放物線を描いたシュートは、スパっとゴールに突き刺さった。

 シュートが決まり、静と倉田は無言で近づくと、パシンっとハイタッチを交わした。


「ぐぬぬぬぬ……」


 梨世は悔しそうに歯噛みする。


「梨世、フォローありがと。おかげで静にシュート打たれずに済んだよ。ナイスディフェンス」

「えへへっ、そうかな?」


 すかさずティアが梨世に良かった点を指摘すると、梨世はデレデレとした表情を浮かべながら頭を掻き始めた。


「も、もう無理です……」


 バタンッ。


「ちょ、亜美ちゃん⁉」


 その時、コート左側で柚と対峙していた亜美が、ヘナヘナとコート上にへたり込んでしまった。


「亜美ちゃん⁉ 大丈夫⁉」


 柚の声を聞き付け、みんなが急いで亜美の元へと駆け寄る。


「た、体力の限界……」

「亜美ちゃーん!!」


 完全に倒れ込んで意気消沈してしまう亜美。

 練習は一時中断。

 亜美の手当てに追われることとなる。


「うん。大体全員の特性は把握した」


 そう一言添えてから、俺は盛大なため息を吐いた。

 これはかなり骨が入る指導になりそうな予感がプンプンと漂っている。


 三対三をやらせてみて、一つ分かったことがある。

 それは、協調性ゼロだということ。

 普段からクールで冷ややかな視線を向けてきて、一番協調性がなさそうな倉田が一番チーププレーに徹していたという事実ことが、彼女たちのすべてを物語っていた。


 この合同チーム。

 果たして歯車が上手くかみ合う日は来るのだろうか?

 俺の手腕が試される。

 どちらにせよ、相当な労力が必要であることに変わりはないのだけれど……。

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