第26話 練習開始

 全国出場という目標に向けて、合同チームが結成された翌日。

 俺は病院へとやってきていた。

 経過観察の診察とリハビリを終えて、診察の待合室へと戻る。

 すると、そこには梨世の姿があった。

 梨世は俺の姿に気付くと急ぎ足でこちらへと近づいてくる。


「どうだった?」


 心配した様子で尋ねてくる梨世。


「見ての通り、器具は付けたままだけど、リハビリの負荷を増やしていくことになった」

「それってつまり……」

「あぁ、順調に回復してるって事だ」

「それなら良かった」


 怪我の回復具合に、ほっと安堵の息を漏らす梨世。


「それで、お前はどうだったんだ?」


 今度は俺が梨世に尋ねる。

 梨世はばつが悪そうに後ろ手で頭を掻く。


「いやぁーっ、やっぱり食べ過ぎは良くないね。胃腸の薬貰っちゃったよ」

「だから言ったんだ。食い過ぎだって」

「ごめんなさーい」


 ペロっと舌を出す梨世。

 反省する様子はまるで見られない。

 昨日、合同チーム結成を祝して、そのままファミレスでチーム結成祝いの宴をしたのだが、梨世はハンバーグセット二つにドリアにマルゲリータ、締めのパスタは大盛で、ぺろりと平らげてしまったのだ。

 そりゃ胃腸の調子が悪くなって当然だろう。

 朝俺の家に来た時、ずっと『お腹が痛い』と言っていたので、病院に行くついでに診察して貰えと言ったのだ。 


 


「少しは自重ってのを覚えろお前は」

「いいもん。私は好きなものを好きなだけ食べて生きて行くんだから」

「……太っても知らねぇぞ?」

「部活でカロリー消費するから実質ゼロだよ!」

「お腹いっぱいで動けないとか言っても容赦しないからな?」


 食いすぎで胃腸悪くするとか、身体に悪いから本当はやめてほしいんだけどな。

 にしても、梨世は一体このスタイルでどこにそんな胃袋を持ってるんだろうか。

 俺なんて怪我をしてから食事制限の毎日だというのに……。

 世の中というのは不条理である。


 そんな爆食幼馴染と一緒に病院を後にして、俺達は練習するべくとある場所へとっ向かった。



 ◇◇◇



 俺達が向かったのは、ティアが女子バスケ部に入ることを決め、俺がコーチに就任することを決めた地である地元の地区センター。

 ここで、初めての合同練習を行う予定となっていた。


「大樹、おそーい!」


 俺と梨世が体育館へ足を踏み入れると、既に他の五人は練習着姿で待っていた。


「ほら大樹コーチ。さっそく私たちに練習を教えてー!」


 俺の元へ近づいてきたティアは、ぐいぐい服の袖を引っ張って催促してくる。


「悪い、遅くなった」


 他の四人に向かって詫びを入れると、倉田が心配そうに膝を見つめてくる。


「怪我の状態はどう?」

「あぁ、術後の経過も順調とのことだ。足の筋力が衰えないよう、負荷の強いリハビリメニューを教えてもらってきた」

「そう、順調に回復しているようで何よりだわ」


 倉田は安堵した笑みを浮かべてくれる。

 俺はパチンと手を叩いて全員の視線をこちらへ集めた。


「さぁ、今日から川見高校と城鶴高校女子バスケットボール部の合同練習を開始する。改めて、コーチをすることになった瀬戸大樹だ。全国に行けるよう、ビシバシ指導していくから、よろしく頼む」


 俺が挨拶をすると、部員達から拍手が沸き起こる。

 拍手が鳴り終わったところで、俺は再び口を開く。


「今日はまず、みんなの実力を計るために、三対三をやる。ルールは簡単。シュートを外して守備のチームがボールを取ったら、スリーポイントラインまで戻って攻守交替。それを五分間にセットで行う。三対三をやる前に、アップとしてコート三周とストレッチ。二人組でのパス練習とレイアップを行う。早速始めてくれ!」


 俺が手を叩くと、二列になって六人そろってコートをランニングし始める。

 こうして、俺のコーチとしての活動が本格始動した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る