第24話 なんだこのラブコメの波動は?
中学時代の梨世は、俺に抱き付く静を引き剥がして、『私の大樹に近づかないで!』とか口実をつけながら、よく俺にバグをしてきていたのだ。
そのおかげで中学のクラスメイトから、『毎日幼馴染二人に愛されてますなー旦那!』と、からかわれていたのが懐かしい。
別にモテてたわけじゃないのに、なぜか二人にだけはずっとひっつかれてたんだよなぁ……。
今思うとなんでだ?
ちなみに、中学で一番モテていたのは航一である。
アイツ、女子のファンクラブとかあったし。
懐かしいな……などと感慨に耽りながら現実逃避していたのも束の間、みんなからの視線を受けた梨世が、恥ずかしそうに顔を赤らめ身を捩っていた。
「わっ、私はもう高校生だし⁉ そんなことしてないから! 静が見境なさ過ぎるのよ!」
「そうなの? 同じ高校になったから、てっきり私がいないところで毎日バグしてるのかと――」
「なわけあるか!!」
梨世がすかさず大きな声を上げて突っ込みを入れる。
「それに? 中学の時は、アンタが毎日汗かいた状態で大樹に抱き付くから、その汚れを私が除菌してあげてただけだし!」
「えっ、でもお前、ハグしてた時まんざらでもない顔して……」
「大樹は黙ってて!!」
「は、はい……」
梨世に鬼の形相で怒鳴られ、俺はシュンっと小さく縮こまってしまう。
除菌ってどんないい訳だよ……。
何? 梨世の身体には強力消臭効果でも備え付けられてるわけ?
それってもう炭じゃね?
「はぁ、大体の状況は把握したわ。梨世が渋っていたのはこういうことだったのね」
倉田がこめかみを抑えながら、盛大なため息を吐いた。
「常々噂は聞いてたんですけど、まさかここまでとは……」
あんまりこういうのに無頓着そうな柚ですら若干引いている。
やっぱり噂って言うのは、ろくなことじゃなかった。
「大樹くんと毎日ハグ……私だってまだしたことないのに……ユルサナイ」
ティアはティアで、ずっと呪詛を唱えている。
怖いから声もかけられない。
俺が他の人の状況を確認している間にも、静と梨世の言い争いは続いていた。
「大体、練習終わった直後によくまあ堂々と抱き付けるわね! 乙女としての恥じらいとかないわけ?」
といいつつ、梨世は俺の腰に手を回してきた。
やっぱりコイツ、俺が静とハグしたの気にしてんじゃねーか!
「別に汗のにおい気にならないって大樹は言ってくれたよ? むしろ私の汗のにおいを嗅いで、大樹も満更でもないみたいだったし」
「それ、本当なの大樹……?」
梨世がジト目でこちらを睨みつけてくる。
あれっ、さっきまで二人で言い争ってたのに、俺に矛先が向いたぞおかしいな?
「な、なわけないだろ。はははは……」
確かに、部活後の女の子の汗の匂いって、どうして男子のむさ苦しい感じと違って嫌な感じがしないんだろうか。
むしろいい香りに感じてしまうことすらある。
さっきバグされた時も、ちょっといい匂いだなって……俺は何を考えてるんだ⁉
どうも、匂い大好き変態フェチですはい。
俺が一人で自己嫌悪に陥っていると、梨世が唇を尖らせながら――
「変態」
と、クリティカルな矢を突き刺してきた。
こうかばつぐん。
大樹のライフポイントはもうゼロよ!
すでにズタズタで瀕死状態だ。
「たくしょうがないわね……」
すると、梨世は何故か頬を赤らめながら、掴んでいた俺の腕をさらに自身の身体に密着させてきた。
「わ、私もここに歩いてくるまでに汗かいちゃってるから……その恥ずかしいけど……これでいい?」
ちょっと、なに血迷ったことしてるのこの子は?
そんなに近づかれたら、梨世のかすかに漂う汗ばんだ匂いと、柑橘系の甘い香りが交わって頭がくらくらしてきてしまう。
それに、俺の腕に当たる、梨世の控え目なCカップがぁぁぁぁ!
沈まりたまえ、俺の煩悩。
「あーずるーい!」
静がゆっくり起きあがりながら、羨ましそうにこちらを見つめてくる。
「ふん、言ったでしょ、除菌よ除菌!」
「むーっ」
静は顔をぷくっと膨らませ、不満げな表情を浮かべている。
「ど……どう? ちゃんと除菌されてる?」
梨世は顔を真っ赤にして尋ねてくる。
いや、どうといわれましても……。
正直言って最高ですけどなにか?
また、俺の半径一メートル以内に、甘い空気が漂い始める。
だからなんだよこのラブコメみたいな展開は!
「大樹いいぃぃぃぃ!!!」
そんな甘い雰囲気をブチ壊したのはティアだった。
ティアは梨世を大樹から引き剥がし、ぜぇぜぇと息を切らしている。
「アンタらね! 毎日大樹君とバグとか……! なんという羨ましいイベントを……! 許せないわ!」
「べ、別に中学時代の話だし……」
「今現在進行形で抱き付いてたでしょうが!」
「だ、だからこれは除菌で、あくまで医療行為であって」
「そうやっていい訳つけて大樹君に近づいて、梨世ちゃんは小悪魔!」
「まぁまぁ……二人とも落ち着いて」
「大樹は、黙ってなさい!」
「大樹君は黙ってて!」
「は、はい……」
二人に怒涛の勢いで言われてしまい、俺はまたシュンっと背中を丸めることしか出来ない。
「三人で一人の男を取り合って熱いバトル……! いいね! 少年漫画みたいで見てるこっちまで燃えてきたぁぁー!」
柚は一周回ってワクワクしてきてしまったらしく、一人興奮した様子で戦況を見守っていた。
「さてと、私は業務に戻ろうかな……」
古田さんは何も見なかったのように、逃げるようにその場を立ち去っていく。
あの……顧問なら仲裁に入ってくれませんかね?
「静先輩がご迷惑をおかけしてすいません……」
「いえ、こちらの馬鹿共がごめんなさいね」
「はぁ……」
「はぁ……」
亜美と倉田は、お互い謝り合ってから、同時に盛大なため息を付いていた。
どうやら、違う意味で二人の間に絆が芽生えたらしい。
こうして、合同チーム結成は、何ともめちゃくちゃな始まりとなったのであった。
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