第21話 強豪校が衰退した理由
視線の先、なんとコート上に男子と共にプレーをしている
黒くてきれいなポニーテールを揺らしながら、コートを走り回る静は、男子にも引けを全くとらない堂々たるプレーを見せている。
身長は180センチを超えており、男子部員に混ざっていても全く大差ない。
ちなみに俺の身長が173センチなので、俺よりはるかに高い。
「すごい、男子部員と一緒に練習している⁉」
「しかも、男子のセンターの子と互角にマッチアップしてるじゃない」
ティアと倉田が驚きに満ちた声を上げて、静のプレーを見つめている。
驚くのも無理はない。
あそにいる北条静は、中学時代県選抜にも選ばれたことがあるほどの実力を兼ね備えているのだから。
「ま、ずっと俺と航一の練習にガッツリ付いて来てたもんなアイツ」
「嘘⁉ 大樹くんと同じ実力って、相当なレベルじゃない⁉」
「あぁ、そうだな」
独り言で言ったつもりが、ティアにがっつり聞かれていた。
ちょっと恥ずかしい。
「でも、どうしてそんな実力ある子が地元の高校を選んだの? そんなにずごい選手なら、スポーツ推薦が来てもおかしくないよね?」
そんなティアの疑問に答えたのは倉田だった。
「城鶴高校は、元々県ベスト8の実力がある常連校よ」
「Really⁉ じゃあどうしてそんな強豪校が、部員不足なんかに陥ってるの⁉」
「それは……」
倉田が口籠ってしまう。
その先を汲み取ってくれた古田さんが重い口を開いた。
「去年までいたコーチの方が、問題行為を起こしてしまいましてね……」
「今流行りのハラスメント問題ってやつですよね」
「はい、そんなところです」
古田さんが苦い表情を浮かべながらも話を続けてくれる。
「この問題が公になり、コーチはすぐさま懲戒免職になりました。ですが、問題を重く受け止めた学校側は、女子バスケ部に昨年度すべての公式戦出場停止処分を下したのです」
「そんな⁉ 部員の子は何も悪くないじゃないですか⁉」
「学校のイメージを崩さないためにも必要な犠牲だったとのことです」
「酷い……」
古田さんから話を聞いたティアが、口元を抑えて今にも泣きだしそうな表情になってしまう。
もちろん、ここにいるティア以外の人はこの件を知っている。
俺はネットニュースで知ったのだが、この記事を観た時、目を疑ったのを今でも覚えている。
「試合に出れない以上、学校に残る意味はありません。実力がある選手は皆、他校へ編入していってしまいました」
処分が下された後、城鶴高校のバスケ部がどんどんといなくなっていったという噂として聞いていた。
一緒にプレーしていた部員達がいなくなっていくのをただ眺めることしか出来ない古田さんの心情はどれほど辛い事だったのかは計り知れない。
「気付けば、部員は北条さんだけになっていまいました。今年度からは、試合出場も可能になり、新しい一年が加入すれば問題ないと考えていたのですが……」
そこで、古田さんが言葉を詰まらせる。
「風評被害、ですか?」
言葉の続きを、梨世が心苦しそうに答えた。
「……その通りです」
古田さんがため息を付きながら頷いた。
ニュースに取り上げられてしまった以上、世間で悪評が出てしまうのは当然のこと。
バスケットを高校でも続けていきたいと考えている受験生にとっては、悪評が出回っている高校へわざわざ進学する人などいないに決まっている。
「一応、頑張って勧誘活動は行いましたが、一度悪い噂がついた女子バスケ部に入ってくる新入部員は黒須さんと小林さんしかいませんでした」
「でも良かったじゃないですか。そんな風評被害がありながらも、二人入部してくれたんですから。幸運ですよ」
「はい、ですが……」
そこで、古田さんはちらりと黒須さんと小林さんの方を見つめて、少々困ったような表情を浮かべた。
「先生、別に私たちは構いませんよ。元からそのつもりで入部していますから」
「そーゆーこと! 気にする必要なんてないってこと!」
古田さんがいいずらそうにしていることを察したのか、二人は促すような言葉を掛けた。
それを聞いて決心がついたのか、古田さんは頬を引きつらせながら、俺達に向かって言い放ったのである。
「実は――」
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