第19話 相沢さんからの提案

「合同チームを作ってみる気はないか?」


「……合同チーム?」

「……合同チーム?」

「……合同チーム?」


 俺が言い放つと、三人が同時にハモって首を傾げた。


「それって、他の学校とチームを組むって事?」

「あぁそうだ。実はな……」


 先ほど相沢さんから提案された話を、俺は三人にも説明していく。


 ◇◇◇


「『合同チームの結成』ですか」

「あぁ、城鶴しろつる高校のバスケ部顧問の方からのお誘いでね。城鶴高校も女子バスケットボール部の部員が規定人数に達していなくて公式戦に出場することが出来ないらしいんだ。そこで、同じく規定人数が足りないうちの女子バスケットボール部と合同チームを作って、来年度まで公式戦に出ないかってお話をもらったのさ」


 相沢さんから提案されたのは、城鶴高校しろつるこうこうとの合同チームを、今年度中は一緒に組まないかという提案だった。


「なるほど、確かに即席で作ったチームじゃ、相手チームに太刀打ちできませんし、一年間同じ学校と提携して合同チームを作れば、練習する機会も増えますし、相手チームと互角に張り合えるかもしれません」

「あぁ、僕も彼女達には試合に出るだけじゃなくて、少しでも勝利の味というのを実感して欲しいと思っているからね」

「ちなみに、向こうの女子バスケ部の人数は何人ですか?」

「こちらと同じ三人だそうだ。練習方法や条件に関しては、こちらに一任してくれるとのことだ」 


 城鶴高校は、川見高校と同じ区にある高校で、元々スポーツが強いことでも知られている。

 そんなチームと組めるなんて光栄だし、川見高校としても鼻が高い。

 俺はしばし顎に手を当てながら考える。


「相沢さんはどう思いますか??」

「僕は悪い話ではないと思うよ。練習方法とかもこちらに一任されてるわけだし、何より、合同チームとはいえ一年間練習を積むことが出来るって事は、お互いの学校にとっても大きなメリットになるんじゃないかなと考えてるよ」

「そうですよね。僕もそう思います」

「ならっ!」

「待ってください。梨世達にもこの話をさせてください。俺だけの判断ではなく、しっかりみんなの意見を聞いたうえで結論を出した方がいいと思うので」


 俺の主張を聞いて、相沢さんはふっと優しい笑みを浮かべた。


「そうだね、彼女たちの意見もしっかり聞いてみた方がいいかもしれないね。じゃあこの話は大樹たちに任せちゃっていいかな? 結論が出たらまた僕に教えてくればいいから」

「はい、分かりました」

「いきなり大変な決断を押し付けちゃってごめんね」

「いえ、大丈夫です。なんだが果然やる気が湧いてきましたから」


 そう言って俺が笑って見せると、相沢さんもどこかほっと胸を撫でおろしているように見えた。


「僕に連絡をくれれば、ずぐにこちらで事務的なことは対応するから。いい答えを待ってるよ」

「はい、頑張ります!!」


 ◇◇◇


「――という感じなんけど、みんなはどう思う?」


 俺が先ほど相沢さんに提案された事をありのままに伝えると、最初に反応したのはティアだった。


「それ、すごくいい話じゃない⁉ 合同で組めば公式戦にも出れてお互いWIN-WINってやつ?」


 どうやらティアは、合同チームを組むことに関して肯定的な意見の様子。

 青い瞳をキラキラと輝かせながら、羨望の眼差しを向けてきている。


「私も、試合に出れるならそれで構わないわ」


 倉田も髪を手でさっと靡かせながら、どちらかというと肯定的な反応を示してくれた。

 あと残るは……


「梨世はどう思う?」


 俺が尋ねると、梨世は神妙な面持ちのまま俯いていた。


「城鶴高校って北条静ほうじょうしずかがいる学校だよね?」

「あぁ、そうだ」


 俺は梨世に生返事を返す。

 そこで初めて、梨世が俺の顔を見つめてきた。


「静は本当にそれでいいと思ってるのかな?」


 梨世は俺にそんなことを質問してくる。


「さあな、顧問は前向きだって言ってたけど、真相は本人に聞いてみないと俺もわからん」

「……そっか」


 俺の答えを聞いて、再び梨世は俯いてしまう。


「その北条静って子が、何か問題でもあるのかしら?」


 倉田が梨世に向かって尋ねる。


「まあ何というか、これは俺と梨世の個人的な問題だよ」


 梨世の代わりに、俺が倉田の質問に対して返答をした。


「何々? すっごい気になるんだけど?」


 今度はティアが前のめりになりながら尋ねてくる。

 俺はちらりと梨世を見つめた。

 梨世は何も言わない。

 後で梨世に怒られることになったとしても、いずれバレる事なので、二人には話しておいた方がいいだろうと思い、俺は一つ息を吐いてから言葉を紡いだ。


「俺と梨世は、城鶴高校の北条静って奴と小・中の同級生なんだ。いわゆる腐れ縁って奴なんだけど、ちょっとばかり因縁めいたものがあってな、それで梨世は考えるところがあるんだよ」

「誰のせいだと思ってるのよ……」


 梨世が小声で文句を垂らした。


「何か言ったか?」

「なんでもないよーだ」


 梨世はべーっと舌を出した後、プイッと不機嫌そうにそっぽを向いてしまう。


「まあとにかく、俺は相手側の気持ちも確認したほうがいいと思っている。だから明日、城鶴高校の女子バスケットボール部の人達に会いに行ってみようと思う」

「はぁ⁉」


 俺が宣言した直後、梨世が大きな声で叫ぶ。

 店内にいたお客さんが、一斉に俺達の方へと視線を向けてくる。


「なんだよ。会いに行って真意を確かめるのが一番だろ?」

「それは、そうかもしれないけど……」


 梨世はどうやら会いに行くのに躊躇いがある様子。


「私は会ってみたいなぁ! 北条静って子がどんな子か気になるもん! それに、同じバスケを嗜むもの! 悪い人なんていないよ!」


 ティアは終始明るい口調で賛同してくれた。

 こっちとしても、ティア明るい反応を示してくれると心が軽くなる。


「そうね、私も一度意見を聞いておくことに異論はないわ」


 倉田も肯定的な意見を述べてくれた。

 これで意見は三対一。


「みんな行くみたいだぞ。梨世はどうするんだ?」


 俺が問いかけると、梨世ははぁっと諦めたように深いため息を吐いた。


「わかった。行けばいいんでしょ行けば!!」


 半ばやけくそに言い放つ梨世。


「ふふっ」

「なに友ちゃん?」

「なんでもないわ。ありがとう梨世」

「べっつにー」


 倉田に感謝の言葉を言われてぷぃっと顔を背ける梨世。

 納得はしていないみたいだけれど、渋々同意してくれたみたいでよかった。


「よし、じゃあ決まりだな。明日みんなで城鶴高校に行って話を聞いてみよう!」


 こうして、俺達は城鶴高校女子バスケットボール部員と合同チーム結成の意見を聞くため、城鶴高校へ向かうことになった。

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