第18話 部員どうする?

 相沢さんの話を聞き終えて、俺は頭を悩ませながら昇降口へと向かっていた。


「にしても、このタイミングでか……なんというか、幸先よすぎる気がするけど……」


 俺は少々今後への不安を覚えつつも、ひとまず梨世たちに話しに行くことにする。


「きゃっ⁉」

「おっと⁉」


 とそこで、廊下の曲がり角で突如飛び出してきた女子生徒とぶつかってしまう。

 女子生徒は俺にぶつかると、思い切り尻餅をついて倒れ込んでしまった。

 学校主催の特別授業でも受けているのか、両手で教科書を抱えていている。


「いたたたた……」


 セミロングの黒髪をサイドテールに結んでおり、小柄な体格は一年生だろうか?

 転んだ拍子にスカートが捲れてしまい、ピンク色のパンツが見えてしまっている。


「ご、ごめんね⁉ 大丈夫?」


 俺は咄嗟に謝罪をして、女子生徒へ手を差し伸べる。


「い、いえっ! お構いなく!」


 そう言って、女子生徒は俺の手を借りることなく自ら立ち上がると、そそくさと俺の横の通り抜けて走って行ってしまった。


「あっ、ちょっと!」


 怪我をしていないか心配だったが、あれだけ走れていれば問題ないだろう。


「なんだか、嵐のような女の子だったな……」


 そんなことを思いつつ、俺は昇降口へと向かっていくのであった。



 ◇◇◇



 学校を後にして、やってきたのは歩いて15分ほどの所にある国道沿いのファストフード店。

 二階席へと階段を登っていくと、テーブル席に制服姿の三人を見つける。


「あっ、来た! 大樹ー!」


 二階席に上がると、テーブル席を確保していた梨世が声を掛けてくる。

 テーブルを挟んだ向かい側の席には、夏休みの宿題を開いて勉強に興じる倉田の姿と、机に突っ伏して不貞腐れたような顔を浮かべるティアの姿もあった。

 俺は梨世の隣に腰掛け、適当にドリンクを注文してから、改めて咳払いをして居住まいを正す。


「えーっ、では、部員集めの成果報告をしたいと思います」 


 何故俺達が今日ここに集まったかというと、部員集めの結果報告を共有するためである。

 コーチになったのはいいものの、三人では川見高校単体で公式戦に出場することができないため、まずは部員を五人にしようということになったのだ。

 そしてまずは、勧誘活動を始めることになったのだが……


「もーっ! 全然集まらないんですけど!」


 ティアは身体をじたばたとさせながら呻いた。

 全員の報告通り、収穫はゼロ。

 つまり、入部希望者は誰も集まらなかったということだ。


「まあ、元々川見は女子生徒が少ないのだから仕方ないじゃない。しかも、夏休み前のこんな中途半端な時期に部活勧誘しても、集まるわけないのよ」

 

 分かりきっていたと言わんばかりに、髪をさっと靡かせる倉田。

 

「後輩に頼んで一年生にもあたってみたんだけど。やっぱり、ほどんどの子が部活に入ってたり、帰宅部でそもそも部活動する気がない子ばっかりだったよ」


 梨世も頑張って声は掛けてようだが、成果は得られなかったらしい。


「他の部活に入ってる人を除けば、帰宅部の女子ってことになって人数も限られてくる。そして、よりにもよってバリバリ運動部のバスケ部。そりゃ、入部希望するやつなんているわけないよな」

「ま、予想通りの結果ね」


 俺が結論付けると、倉田が冷笑するように肩を竦めた。


「そんな事言ってるけど、倉田もちゃんと勧誘したんだろうな?」

「それは……」


 俺が疑いの視線を送ると、倉田は少し視線を彷徨わせてから、悲壮感溢れる表情を浮かべて苦笑した。


「後輩の人に声を掛けただけで怯えられて逃げられる始末よ。会話すらしてもらえなかったわ」

「……そうっすか」


 倉田さん、あなたどれだけ後輩から恐れられてるの⁉

 逆にどうしたらそんな怯えられる存在になれるわけ⁉

 口にしたら確実に倉田に首根っこを刈られてしまう(物理)ので、心の中に留めておくけれども! 

 俯いてしまう倉田をよそに、梨世が耳元でヒソヒソと話しかけてくる。


「実はともちゃん、男子バスケ部の後輩を廊下で叱ってる姿を見られちゃって。それから『デビル』って一年生の中で恐れられてるんだって……」

「あ、そういうこと」


 恐らく、一年の男子部員が粗相をしたのだろう。

 優等生の倉田が、後輩部員を厳しく叱っている姿が容易に想像できた。


「何か失礼なことを考えている気がするのだけれど」


 俺と梨世が耳打ちしているのを見て、鬼の形相で睨み付けてくる倉田ことデビルパイセン。


「ソンナコトナイヨ! なっ、梨世!」

「だよね大樹! 私たちは至って健全なディベートを行っていただけだもんね!」


 倉田さんマジパネっす。

 怖すぎ。


「てか、私騙されたんですけど。部員が足りてないなんて聞いてなかったんだけど?」


 ティアが俺に叱責の目を向けてくる。


「あんなに私の心を鷲掴みにしておいて、責任取ってよね……」


 突っ伏しながら、色々勘違いしてしまいそうな言をぶつくさ呟くティア。

 心なしか、顔が赤く染まっているように見えるのは気のせいだと信じたい。


「まあ集まらなかったのなら仕方ないじゃない。三人で活動していくしかないでしょ。それよりも、今は来月に控えたに向けて練習することが大切だと思うわ」

「ちょっと待ってくれ」


 倉田が割り切って話を進めようとしたところで、俺は待ったをかける。


「何よ。まだ何かあるワケ?」

「あぁ、実はさっき、相沢さんと話し合ってきたんだけど、一つ提案をされてな……」


 そこで言葉を区切ると、三人が固唾をのんで俺の方を見つめてくる。

 俺は一つ深呼吸をしてから、意を決して相沢さんから受けた提案を口にした。

 その内容とは――

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