第9話 やらない宣言
金髪美女の転校生がやって来たという話題は、一気に学校中を駆け巡り、授業合間の休み時間になると、教室には転校生を一目見ようと多くの生徒でごった返した。
もちろん、クラスメイトも興味津々で、形原さんの机の周りには多くの人だかりが出来ている。
俺はそんな様子を、一人遠巻きに眺めていた。
「そんなに気になるなら、行ってくればいいじゃん」
形原さんのことを眺めていると、隣のクラスからやじ馬に来た幼馴染の梨世が、少々機嫌悪そうな様子でそんな事言ってくる。
「うるせぇ。この怪我さえなきゃ、一番乗りで声掛けに行ってるっての」
「やっぱり大樹、あぁ言う金髪美女がタイプなんじゃん」
「ちげぇっての。確かに可愛いとは思うけど、あれはなんというか、レベルが高すぎるだろ」
先月までバリバリ運動部として青春を謳歌していた俺でも分かる。
あの圧倒的オーラは、それ相応の奴でしか釣り合わないことぐらい。
例えば――
「へぇーっ。形原さんってアメリカから来たんだ。マンハッタンとかってどんな感じなの?」
物怖じせずにスマートな笑みを浮かべながら尋ねている、バスケ部のエースである航一みたいなイケメンでなければ……。
てかアイツ、隣のクラスなのによくガツガツ行けるな。
「全く……騒がしくて勉強にも集中できないわ」
すると、げんなりした様子で倉田が梨世の元へとやってきた。
「倉田は声掛けに行かなくていいのか?」
「あれだけ囲まれているのに、これ以上質問責めにするのは酷でしょ? 私があの子の立場だったら、面倒になって追い返しているわよ」
そう言って、倉田は無造作に髪の毛を手で掻き上げる。
「特に男子は、形原さん目当てにぞろぞろぞろぞろと……ほんと場ってものを弁えて欲しいわ。航一君まであの輪に加わっちゃってホント情けない」
倉田が呆れた様子で航一を睨みつける。
そこにはまた別の感情が入り混じっているように見えたけど、なにも言及しないでおこう。
当の航一は、倉田の鋭い視線など気に留めた様子もなく、形原さんにぐいぐい質問をしていた。
「形原さんは向こうで何かスポーツとかやってたりしたの?」
「うん、私、アメリカではバスケットボールやってたんだ」
「マジで? 実は俺もバスケ部なんだよね」
「そうなのー? 奇遇だねー!」
イェーイとお互いにハイタッチを交わす航一と形原さん。
あぁいう軽いノリが合うのかもしれない。
ハイタッチを交わし終えた形原さんは椅子に深く座り込むと、少々複雑な笑みを浮かべながら航一に言い放った。
「でも、私はもうバスケットはこっちではやらないって決めてるの」
「どうして? 勿体ないのに」
「日本に来たからには、心機一転新しい挑戦がしてみたくて!」
「そっか、形原さんがバスケしてるところ、見て見たかったけどなぁー」
「体育の授業とかで見れるっしょ」
「それもそっか!」
それ以上深く航一は言及しなかったけれど、俺と梨世は二人目を合わせてしまった。
つい先日、河川敷の公園で、あんなに楽しそうにバスケをしていたのを知っている二人からすれば、信じられない事だったからである。
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