第8話 転校生
無事に再試験も乗り切って、夏休みまであと少しとなり、教室はどこか浮き足立っている。
そんな喧噪の中で、俺は梨世に言われたコーチの件について悩んでいた。
梨世に頼まれたとはいえ、女子バスケ部はそもそも部員が梨世と倉田しかいない。
そんな部活として成り立っているのか分からない女子バスケ部に、俺がコーチになる意味があるのかと。
もちろん、二人の基礎技術向上という面で、専属コーチが付いた方が上達はするだろう。
けれど結局のところ、部員が集まらない限りは、俺や梨世の夢である『全国出場』はおろか、地区予選で勝つこともままならい。
加えて、俺自身のバスケに対するモチベーション的な所もある。
俺は既に相沢さんへ退部届を提出しており、自分の心の中で区切りを付けたつもりだった。
バスケットに対して一度区切りを付けた身で、もう一度今度はコーチという形でかかわるというのが、未練を引きずっているように見えてしまって、自分自身前に薦めていないのではないかと思えてしまうのだ。
何か別のことを見付けて、きっぱりバスケットと決別した方が、将来の自分にとってもいいのではないか。
そんな事を堂々巡りに考えていると、HR開始のチャイムが教室に鳴り響いた。
「お前ら、席付けー」
教室前の扉から担任が教員簿を肩に担ぎながら入室してくると、生徒達は慌てて話を切り上げ、自席へと戻っていく。
日直が号令をして、全員立ち上がり担任に礼をして着席したところで、担任が教卓に教員簿を置きながら両手おいてふっと笑みを浮かべた。
「いいかお前ら、今日からうちのクラスに転校生が来る」
担任が言い放った言葉に、教室中から騒めき立つ。
それもそのはず、もう少しで夏休みに突入するという時期に転校生してくるなんて、滅多にない話なのだから。
「静かにしろ。夏休みまでは残り少ないが、休み明けからもクラスメイトになるんだから、ちゃんと仲良くしてやってくれ。ほら、入って来ていいぞ」
担任が教室の外に向かって声を掛けると、教室前の扉がガラガラと開かれる。
教室に入室してきた転校生を見た途端、俺は唖然としてしまう。
何故なら入室してきたのが、先日河川敷の公園で見かけた、あの金髪美女だったからである。
金色の髪を靡かせながら、川見高校の制服に身を包み笑顔を振りまくその姿はまさに女神そのもの。
教室にいる生徒全員を一瞬で魅了してしまうほどの神々しいオーラを纏っている。
教室のクラスメイト達がその圧倒的なオーラに気圧されている中、彼女はにこやかな笑顔を浮かべて、はきはきとした口調で言い放った。
「Hello Every one! 初めまして! 今日からこの学校で皆さんと一緒に過ごすことになりました、
最後にキランと効果音が聞こえてきそうなほどのウィンクをして挨拶を終えた途端、教室から歓声が沸き起こった。
「うぉぉぉぉぉー!!!!!」
「金髪美女が来たぞぉぉぉぉぉー!」
「俺達は幸運に恵まれている……!」
男子生徒達は喜びの涙を流し――
「えっ、ヤバッ。めっちゃきれいなんだけどぉー!」
「あの髪色って地毛なのかな?」
「いいなぁー。羨ましい」
女子生徒達は羨望の眼差しで形原さんを見つめる。
注目の的とは、まさにこのことを言うのだろう。
それにしても、まさか転校生が河川敷でバスケをしていた少女だったとは。
こんな偶然が合っていいものなのか。
まさにこれは……。
「奇跡だ」
と、思わずそんな独り言を零してしまうほどに、彼女との再会は、俺にとって何か運命的なものを感じてしまうほどに、心打たれるものであった。
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