第4話 再試験
あれから約二週間。
無事に手術も成功して、リハビリ生活を終えて退院。
そして今日から、晴れて学校復帰となった。
俺は、昇降口でローファーを自身の下駄箱へと入れる。
とそこで、下駄箱の中に手紙が入っているのが見えた。
折りたたまれた手紙を開くと――
【怪我の調子はどうですか? 大樹君が学校休んでいるので心配です。早く回復することを心から祈っています】
という文面が書かれていた。
宛先は不明。
一年生の頃から、こうして定期的に下駄箱の中にファンレターと思われる手紙がちょくちょく入っているのだ。
今までの文字の特徴からして、同一人物が書いてくれているのだと思われる。
誰かが密かに俺のこと応援してくれて嬉しい気持ち反面、一体どんな子なんだろうという興味もそそられてしまう。
いつか、直接お目にかかることは出来るだろうか?
「そんなぁぁ!!!」
手紙主に思いを馳せながら、上履きに履き替えたところで、一足先に校舎内へと入っていた梨世が、掲示板の前で頭を抱えながら大声を上げた。
「どうしたんだ?」
「大樹ぃ……これ!」
梨世が指さす先、そこには張り紙が掲示されており、次のような文章が書かれていた。
《下記の三名は、今回の試験にて4教科以上で既定の得点に達していないため再試験対象者とする。
「どうして私が再試験なの⁉ ちゃんと試験受けたのに⁉」
セミショートの茶髪を揺らしながら、納得のいかないといった様子で喚く梨世。
それはお前が勉強しなさ過ぎるからだとは、流石にかわいそうなので言わない心に秘めてでおく。
「梨世がバカすぎるんです!!」
とそこで、せっかく俺が心に秘めていたことをきっぱり言い切る一人の女子生徒がこちらへと近づいてきた。
鬼畜な発言を梨世に放った黒髪ロングでクールな
梨世と同じクラスで、女子バスケ部所属のもう一人の部員である。
夏服指定のシャツに、薄手のベストをピシっと着こなしている姿は、まさに優等生そのもの。
そんなシャキっとした風貌とは
ってかこんな暑いのによくセーター着られるな。
「友ちゃん酷いよぉぉぉーーーーー!!!! 大樹もそう思うよねぇ?」
涙ぐんだ目で肯定して欲しさ全開の視線を送ってくる梨世。
「まっ、梨世は元々勉強そんなに得意じゃないからな。仕方ねぇよ」
「大樹までそっち側なの⁉」
裏切られたと言わんばかりに、梨世が抗議の視線を送ってくる。
そんな幼馴染の視線は無視して、俺は倉田と向き合う。
「よっ、倉田。久しぶりだな」
「久しぶりね。学校に登校できるようになったようで何よりだわ」
「見ての通り無残な有様だけどな」
俺がひけらかすように自身の左足を前に出す。
今も黒い重厚感たっぷりな器具が嵌められている。
「歩けるようになったのだから良かったじゃない。それに、もうこの子の相手するのは面倒だもの」
「ちょ、友ちゃん⁉」
鬱陶しそうな顔を浮かべる倉田は、さらにため息を吐いて話を続ける。
「あなたがいないから、『大樹がいないとつまんない。早く退院しないかな』って、何度話を聞かされてことか」
「そ、そんなことないもん! 一日一回ぐらいしか言ってないもん!」
「授業の休み時間ごとに言ってたわよ」
呆れた口調で倉田は梨世に冷たい視線を送る。
「梨世が面倒を掛けちまってすまん」
「本当よ全く」
倉田はふぁさっとその長い髪を手で靡かせた。
「てか、学校側もあんまりだよなぁ。梨世はともかく、俺はずっと病院に入院してリハビリ生活してたんだから、中間試験ぐらい免除してくれたっていいじゃねぇか」
「学生の本文は勉強でしょ。全く二人そろって何言ってるのかしら」
俺も発言を聞いた倉田は、深いため息を吐いて呆れかえってしまう。
「大樹ぃぃぃぃ……」
「うぉっ、何だよ」
すると、梨世が弱々しい声を出しながら縋りついてきた。
「お願いします。勉強教えてくださいぃぃl」
「またかよ」
これで何回目だよ、梨世に勉強教えてくれって頼まれるの。
俺は少し呆れたような顔をしつつ、
「そもそも、お前は良くそんな成績で川見高校に入学できたよな」
「それはだって、受験勉強は必死に頑張ったもん!」
両こぶしを握り締め、ひょんひょんと跳ねる梨世。
「でもこの子、本番直前の試験判定Eだったのよ? 奇跡としか言いようがないわ。川見高校七不思議のひとつよね」
倉田が長い黒髪を手で靡かせる。
「まぐれでも何でも受かっちゃえばコッチのものなの! というか受験の話は置いといて! 今は中間試験の話! お願い大樹、私に勉強教えて?」
ウルっと潤わせて上目遣いに懇願してくる梨世。
第二ボタンまで開けているため、この角度からだと梨世の胸元が見えてしまっている。
無防備すぎるだろコイツ……。
この天然さや快活さが男子生徒からは好評で、梨世は意外と人気があったりするらしいが、幼馴染として見てきた身としては、さっぱり理解が出来ない。
とはいえ、確認しないのも男として負けた気がするので、一応見ておこう。
うむ、今日はピンクか。
男子にとっては、こういうあざとさも、目の
「ねぇ……ダメ大樹?」
俺の返答がなかったことで、さらにねっとりとした視線を送ってくる梨世。
そしてこの幼馴染は、俺が推しに弱いということも熟知しているのだ。
俺は一つため息を吐いてから口を開く。
「わかったよ。俺も再試験受けなきゃいけないしな。今回は手伝ってやるよ」
「ほんとに⁉ よっしゃぁ!!」
梨世は小さく胸の前でガッツポーズを見せる。
表情はパッと華やいでいて、希望を見出したというな顔をしていた。
やっぱりコイツ、最初から俺を頼る気満々だったな。
「じゃあ放課後勉強な。悪いが倉田も梨世の勉強手伝ってくれ。俺も普通に教えてほしいところあるし」
「仕方ないわね。今回だけよ」
倉田はヤレヤレと言った様子で、腕を組みながら承諾してくれた。
こういう時、意外と優しいのが倉田だったりする。
「ほら、教室へ行きましょ。そろそろホームルームの時間よ」
倉田は恥ずかしかったのは、踵を返して歩き始めてしまう。
「はーい。行こ大樹」
「あぁ……」
勉強の話題で逸らすことが出来て良かった。
俺は昇降口前の廊下から体育館へと続く通路を背に向けて、ゆっくりと歩き出す。
出来るだけバスケの話をあまりしたくなかった。
何故なら、俺がまだ梨世や倉田、航一にも伝えていない大切なことがあるからである。
俺が伝えていない事とは――
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