第3話 診断結果
俺は梨世と共に病院へと向かった。
受付を済ませてしばらくすると、俺の番が回ってくる。
診察室へと入り、怪我をしてしまった時の状況を説明していく。
問診を終えると、医者は俺の膝の状態を確認して、顎に手をやった。
「うーん随分と
「今はもう全体的に痛いって感じです」
「腫れが収まるように膝の水を抜いてみようか、もし血が含まれてたら
先生は逐一丁寧に説明しながら対応してくれていた。
発症時より痛みは取れてきたものの、力は全く入らない。
「消毒アルコール問題ないですか?」と看護師の方が聞いてくる。
問題ないですと受け答えをして、アルコール消毒を看護師の人が行っている間、俺は血が出るなと心の中で願いながら膝に
しかし、俺の希望に反して、
結局、注射器2本分の血液を膝から抜き取った。
俺はその事実に絶望すると同時に、色々と覚悟しなければならないと、心の準備を整えていく。
すぐにMRIを取り、医者から告げられた診断結果は、
バスケットボール選手にとって、選手生命にかかわる致命的なケガである。
こんな大事な時期に大けがを負ってしまうとは……本当についていないなと思う。
「一応レントゲンも撮りましょう」
大樹は移動用の車いすに乗せられ、レントゲンを撮影するためレントゲン室へと向かっていく。
その間も、梨世はつきっきりで傍にいてくれた。
幸いなことに、骨に異常は見られないとのことで俺はほっと安堵する。
「診断の結果、
「分かりました……」
やはり手術は免れなかったかとため息を吐いていると、梨世が先生に尋ねた。
「あの、完治するまではどのぐらいかかるのでしょうか?」
「そうですね、個人差があるので一概には言えませんが、おおよそ回復までは約10カ月程度はかかると思っていてください」
「10カ月……ですか」
つまり、怪我が完治して試合復帰できるのは、来年の5月。
俺も高校3年に進級していて、その時にはもう、次のインターハイ予選が始まっている。
今年はインターハイ予選の決勝まで来れたから、先輩たちは7月までバスケを続けられているものの、来年も決勝まで駒を進めるという保証は一切ない。
つまりこれは、俺の高校生活において、バスケ人生が終わりを告げたことを意味していた。
俺の中でめらめらと燃え上がっていた情熱が、すっとじんわりと冷めていく音が聞こえてくる。
「ただ、人によって個人差はあります。1年かかる人もいれば、早い人だと9カ月ほどで実践復帰する人もいらっしゃいます。リハビリを続ければ問題なく痛みも引いてきます。実際にプロの選手でも治療して現役に復帰している選手はたくさんいますので、まずは日常生活に支障がないようにするため、焦らずゆっくりリハビリをして治してきましょう」
「はい……」
先生が優しく声を掛けてくれるものの、声は右から左へと抜けていき、虚空へと消え入りそうなほど小さな返事しか返すことしか出来なかった。
◇◇◇
診察が終わり、待合室へと戻った大樹と梨世は、ソファに座って会計を待っていた。
その間、二人には重苦しい空気が充満していて、とても会話を出来るような状況ではない。
隣に座る梨世もショックなのだろう、明らかに元気がない。
どう俺に声をかけていいのか分からないといった様子にも見えた。
にしても、天国から地獄、
もうバスケが出来ない。
小学生の頃からずっと続けてきたのに……俺の頭は真っ白になり、何も言葉を発することが出来ない。
地面の一点を見つめながら、事態を飲み込もうとする自分、それを拒もうとする自分が頭の中でせめぎ合っている。
次第に、その事実を頭の中で理解し始めると、やるせない気持ちと悔しさがぐっと込み上げてきた。
ぐっと唇を引き結び、心に湧き上がってくる感情を必死に堪える。
なんでだよ……どうしてだよ……今までこんなに頑張ってきたのに……。
ようやく、状況を頭で完全に理解できた瞬間、俺の目から一粒の水滴が
心に溜まっていたダムが一気に決壊してしまい、ついには嗚咽を上げてしまう。
「ぐっ……くそぉ……ちきしょ……っ」
震える声で、悔しさを必死に吐き捨てる。
薄暗い待合室で、俺は鼻をすすりながら涙を流す。
「大樹……」
俺の気持ちを慮ってくれたのか、梨世が背中をさすってくれる。
それが余計に惨めな自分を映しているような気がしてしまい、余計に涙が止まらなくなってきて、ついには嗚咽を漏らしてしまう。
隣からも、鼻をすする音が聞こえた気がする。
ただ今は、梨世を慰めたり気遣ったりする余裕もなく、俺は歯を食いしばりながら泣き続けることしか出来なかった。
「大樹!やったぞ、全国だぞ!!」
そんな中、病院の入口の方から航一がやって来て、歓喜の声を上げながら駆け寄ってきた。
俺に一番に伝えたくて、わざわざ病院まで駆け付けてくれたくれたのだろう。
だがしかし、航一は俺が号泣していることに気が付き、すぐさま勢いを失ってしまった。
それもそのはず、航一の目に広がる光景は、待合室のイスに座りながら号泣している俺と、隣で俺の背中をさすりながら泣いている梨世の姿だったのだから。
「……大樹」
航一はそれから何も言わなかった。
いや、すべてを察したのかもしれない。
何も言わずにただその場に立ち尽くして佇んでいた。
待合室には、三人の沈黙と、鼻をすする音が響き渡るだけ。
バスケットで繋がっていた俺たち三人の関係性に、ガラスのような日々が入った瞬間だったのかもしれない。
こうして俺、
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