第3話 「うちの子ギフテッド」と言われ困惑するママ友
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「けんと君ママ!」
夕方のスーパーで買い物をしていると、ユウマ君ママが元気良く声をかけてきた。
(珍しい…ユウマ君ママから声をかけきた…)
きっと普段なら会釈か気づかないふりをして通り過ぎるのに、わざわざ挨拶をしてくれるなんて。
ユウマ君ママとは子ども同士が同い年で同じ保育園だった。
同じクラスになったこともあったが、人見知りなのかママ友付き合いとは縁遠い人。
保育園の参観でたまたま隣同士になったのをキッカケに少し話した程度で、あとはすれ違った時に会釈するくらい。
子ども達は同じ小学校に入ったが、最近は全く関わりがなくなってしまっていた。
しかし、ユウマくんはママ友の中で話題だ。
保育園の頃から、ユウマくんはトラブルメーカーで有名。
今でも保育園のママ友のLIMEグループでは、ユウマ君の問題行動で賑やかになる時がある。
「ユウマくん、また授業中に『お散歩』したって。迷惑ー!」
この「お散歩」とは、授業中にも関わらず、座っていることができずに立ち歩き、さらには教室から出てしまうことを意味している。
「いやよねー、授業中に座ってもいられないなんて」
「躾がなっていない子どもが同じクラスにいると、授業の質も下がるのよね」
ユウマ君と同じクラスの沙羅ちゃんのママが、トラブルを逐一LIMEに報告。
彼女はいつも青色吐息だ。
実は沙羅ちゃんは保育園に行っていた頃、ユウマ君に噛みつかれたことがあった。
歯形がくっきり残り、沙羅ちゃんは痛みで号泣したそう。
しかし保育園の先生は
「保育園で起きた怪我は保育園の責任です。これからは怪我がないように気をつけます!」
と平謝りをして、誰が噛み付いたかについてママに話さなかったのだ。
保育士をしている私の友人は「保育園での安全管理は保育士の責任であり、保護者同士のトラブルを避けるために名前を出さない方針の園がある」と言っていた。
当時、沙羅ちゃんママは青あざに変わっていく歯形を見て、
「痛かったね…誰が噛んだの?」
とまだ5歳だった沙羅ちゃんに尋ねた。
「ユウマ君。お友達のオモチャを横取りしたから『ダメだよ!』って言ったら、キーって怒って噛んだ」
沙羅ちゃんは泣きながら犯人が誰か答えたのだった。
しかし、ユウマ君ママはこの噛みつき事件を知ってか知らずか、沙羅ちゃんママに謝罪も挨拶もしなかった。
園の前でバッタリ会っても無視。
「あんなに派手に噛み付いて、ユウマ君ママが知らないわけないわよね?」
沙羅ちゃんママを始め、他にも引っ掻かれたり、噛みつかれたりしたママ達がユウマ君ママを問題視した。
私も正直なところ、暴力的な子と我が子が仲良くなるのは嫌だと思っていた。
事態を放置しているユウマ君ママと距離を置きたい。
今もそう思っている。
小学校に入学してからも、ユウマ君はトラブルを起こし続けていることが、沙羅ちゃんママのLIME報告でよく分かった。
そして先日は、なんと!
クラスの女の子の顔面を抉り取るように引っ掻いて、病院送りに!
「完全に犯罪者予備軍じゃない!」
LIMEグループは騒然とした。
そんな大怪我をさせるような子が学校にいるのだから、私たち保護者だって気が気でない。
過去に被害にあった沙羅ちゃんのママは、子どもが同じクラスにいるということもあり、真っ青になっていた。
それから半年ほど経った今日。
ユウマ君ママは満面の笑みで私の前に現れたのだ。
「ケント君ママ、久しぶりね!元気だったー?」
ユウマ君ママの元気いっぱいの弾んだ声。
彼女の背筋はピンと伸び、気のせいか歩幅も大きくなっている気がする。
「うん、元気。ユウマ君ママは?」
私は返事をしながら、彼女の人の変わりように驚く。
(もっと寡黙で小柄なイメージだったんだけど…)
ユウマ君ママは私の言葉に乗り出すように答える。
「ユウマに色々あって、ここのところすごく忙しかったのよー!」
(そりゃあ、女子の顔面に大怪我をさせれば大変なことになるでしょうね)
私は思わず心の中で呟いてしまう。
しかし、彼女の顔に悲嘆はなく、ハツラツとしているのである。
「実は!ユウマね、ギフテッドだったの!」
声をひそめて話しているつもりなのだろうが、しっかり店内に響き渡るような大声で私に話すユウマ君ママ。
「ギフテッド?」
私が首を傾げると、彼女は「あ、ほら分かってない」と言わんばかりに、私に哀れな視線を送る。
「ユウマがIQが130を超えているって分かったの!高IQ児だったの!」
ユウマ君ママはウキウキした気持ちを隠せないのか、女子高生のようなキャピキャピした身振りで体を軽く左右に揺する。
(え、ユウマ君が高IQ?ギフテッド?)
到底、信じられる話ではなかった。
ユウマ君は暴力を振るい、「お散歩」をして、友達とその親を恐怖に陥れる子ども。
勉強どころか授業をまともに受けることもできないのに、IQが高いなんてあり得るのだろうか?
こんなことを言ってはいけないのだろうが、ママ友の中には「発達障害」「知的障害」とユウマ君を呼ぶ親もいて、
「あんな危険な子は支援級に隔離すべき!」
という人までいた。
そんなことをしたら、今度は支援級の子どもたちが犠牲になるだけなのだが。
私はユウマママの言葉に、思わず眉をひそめる。
「あ、IQ130以上の子がギフテッドなのね!これはネットでもちゃんと書いてあるの!ギフテッドは知能が高いゆえに、周りの子と合わなかったり、授業が退屈でたまらなかったり…。マイノリティゆえの苦しみがあるのよね!」
ユウマ君ママは私の表情などお構いなしに、マシンガンのように言葉を連射。
興奮しているのか、少し頬が紅潮している。
「でね、この前にユウマが友達を引っ掻いちゃったの。相手のお家に謝罪に行って大変だったー!しかもずっと嫌味を言い続けられてね!『愛情不足なんじゃないですか?』なんて言われたのよ!知ってるかな、加賀谷さんってお宅。そこのパパが若い頃のヤンキーを引きずっているようなDQNでねー。ほんと最悪だった!」
私はユウマ君ママの言い方にイラッと気持ちがざわめく。
(大変?最悪?それは怪我をさせられた子どもの方じゃないの?)
反省の色のない彼女を見て、沙羅ちゃんのママはどう思うだろうかと怒りが湧く。
ユウマ君に心も体も傷つけられた子ども達が何人いると思っているのだろうか?
「それでね、ユウマがちょっと引っ掻いたからって、発達検査を受けろって担任の先生にゴリ押しされちゃって。すっかり問題児扱い!なんならユウマを発達障害児に仕立て上げるつもりだったんじゃないかと思うほどよ!仕事で忙しいのに検査に連れて行けなんて困るよね!…でも、IQテストを受けたらハイスコアが出て!
ユウマを問題児扱いした奴ら、ざまあみろ!って感じ!
うちの子はギフテッドなの!!!!!!」
カッと目を大きく見開いて、大口を開けて高笑いをするユウマ君ママ。
しかし彼女の瞳は私のことなど見ておらず、ただ言いたいことを私に投げつけているだけだ。
ユウマ君ママの勢いに私が黙り込んでいると、急に彼女はしおらしい態度に変わる。
「私ね、今回のことでよく分かったの。ギフテッドって理解されないんだなって…。ギフテッドだから人とは違うことがあるのは当然だし、人と合わないことは仕方ないのに!海外では莫大な国家予算をかけてギフテッド教育をするのに、日本は『型はめ教育』ばかり。こんなんじゃギフテッドのユウマは社会に潰されてしまうわ!」
ユウマ君ママは目をうるませる。
(知的能力?ギフテッド?どこが?)
私はまだ強い疑いを胸に抱いて、彼女を見据える。
残念ながらユウマ君に天才の片鱗はない。一切ない。
将来、犯罪者になる可能性は感じる。
あんな子がギフテッドなのだろうか?
ギフテッドだから、お友達に暴力を振るって病院送りにするのだろうか?
ギフテッドだから、それは仕方ないことなのだろうか?
あんな子に巨額の資金を費やして、国が教育するものだろうか?
「でもユウマ君ママ。ユウマ君は授業中に立ち歩くこともあるみたいよ。発達検査の時に相談した?」
「だ・か・ら!ギフテッドだと授業が退屈なことがあるの!分かっているから一見、不真面目な態度を見せるんだって!これもギフテッドの特徴!あ、『ギフいんふぉ』ってサイトにギフテッドのことが詳しく載っているから見てみて!もっとギフテッドに理解がしてほしい!理解が進めばギフテッドが輝く時代が来るはず!」
ユウマ君ママはフンフン!と鼻息荒くスマホを取り出し、「ギフいんふぉ」とやら
のサイトを見せてくる。
チラッと見た限り、国や医療機関のサイトではない。
広告がベタベタと貼られているページは怪しさ満点だ。
確かに落ち着いた色合いと丁寧な言葉遣いには好感が持てるサイトではある。
でも「信頼性のある情報と思いますか?」と訊かれれば、私なら「NO」と答える。
「ちなみにギフテッドは発達障害と誤診されるのよ!せっかく知的才能に恵まれているのに、なんてことかしら!」
さっきからずっと、感情の起伏激しく話すユウマ君ママのキンキンした声を聞いていて、頭痛がしてくる。
(で、結局、なんでこの人は今日に限ってわざわざ私に話しかけたんだろう…。用件はなんだったのかしら…?)
私がこめかみを抑えながら彼女を見ると、ユウマ君ママはスーパーの店内にある時計を見ている。
「あ!もうこんな時間!今日はこの後、ユウマとマイニクラフトをして遊ぶ予定なの!ギフテッドがハマるゲームなのよ!じゃ、またね!」
ユウマ君ママは買い物がまだ済んでいないはずなのに、そう言ってスーパーを出て行く。
(マニクラ好きなんて、ギフテッドなくても山ほどいるわよ…)
私は一方的な会話に呆然としながら、買い物を済ます。
(一体、なんだったのかしら…)
私は釈然としない気持ちを抱えて家に帰る。
帰宅すると保育園ママのLIMEグループにメッセージが来ていた。
「ちょっと!急にユウマ君ママに話しかけられたんだけど!」
「私も!ギフテッドなんですって言われた!」
「は?『うちの子天才なんです』ってこと?」
「ちょっと…ユウマ君ママ…ユウマ君の暴力で育児ノイローゼになっちゃった?」
「ユウマ君ママもヤバいねー」
私は思わずLIMEでメッセージを送る。
「私もさっき話しかけられた。ギフテッドは理解されなくと、人と違うのは仕方ないって言ってたよ」
私のメッセージがグループで流れると、即座に沙羅ちゃんのママのメッセージが。
「何それ?!高IQだったら何しても良いってこと?怪我させても開き直るんだ!」
「いや、そこまでは言ってなかったけど…でも、やっぱり感じ悪いよね。
ギフテッドはマイノリティでみんなの理解がないから周りに潰されるんだって」
「はあ?他責にもほどがあるでしょ!それって私たちが悪いって言いたいわけ?」
「怪我させた原因は間違いなくユウマ君家族にあるでしょ」
「あ、でもギフテッドは発達障害じゃないんだって。発達障害と誤診されることも多いらしくて…」
「あーそう!発達障害とは一緒にしないでくださいってこと!」
次は心菜(ここな)ちゃんママが怒り爆発。
実は心菜ちゃんは保育園の時から療育に通っている。
軽度の自閉症の疑いがあり、こだわりに苦労しながら彼女は子育てをしているのだ。
「すごいね!ギフテッドなら他責にできるし、何しても許されるし、発達障害の疑いもなくなる!
IQが高いってだけで、イージーな育児で羨ましいわー!」
LIMEの画面越しに、心菜ママの怒りがビリビリと伝わる。
沙羅ちゃんママも「ひどいよね!」と話に乗っかり、LIMEグループはユウマ君の問題行動ではなく、ユウマ君ママの発言に対する非難で溢れかえる。
「ギフテッド様と私たち一般人は相容れないみたいね」
「向こうも私たちとは違うし、合わないって言ってるわけだし」
「二度と相手になんかしない!」
「えー、それを言うなら、ギフテッド様に相手にしてもらえない、じゃない?」
「それなー!」
メンバーの1人がドッと笑うスタンプを送って、私たちのトークは落ち着きを取り戻す。
一通り情報を共有し、感情を吐き出して、私たちは満足したのだ。
最後に沙羅ちゃんママのメッセージが届く。
「ギフテッド様、ギフテッドママ様は別格らしいから、一般人の私たちが関わることはないわよ」
LIMEメンバー全員がスマホの画面に向かって頷いている気がした。
(ギフテッド様と違って、IQが高くなくて悪うございました!)
そう思いながら、私は「いいね」のスタンプを送り、スマホを置いた。
※ユウマ君ママおすすめのギフテッドサイト「ギフいんふぉ」の恐ろしい実態は
「第10話 ギフテッドビジネスとギフママ」
で明かされます!
https://kakuyomu.jp/works/16817330668984024709/episodes/16818023214039006151
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