第2話 SNSではボスママなギフママ

❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁

☆やブクマ等の応援していただけますと、とても嬉しいです!

よろしくお願い申し上げます🙇‍♀️

❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁ 


ミネルヴァ @giftedgirllove 17:33 2023/04/10

「昨夜ギフママ会をしました!

ギフテッドを育てるママ同士、お話が弾んで楽しかったー!

ギフママの友情は固いゾ!」


私はランチの写真を添付して、ツミッタに投稿する。素敵なランチ、特別なギフママたちの集まり。

私の投稿に、すぐにイイネとコメントがつく。私のフォロワーは約1500人。

ギフママ界隈で、私はちょっとした人気者だ。


ゆーまま⭐︎ @IQgifted_mom 17:35 2023/04/10

「楽しかったです!

ランチも美味しくかったー⭐︎

さすがミネルヴァさん!」


♪まき♪不登校を楽しむ親子 @BIGbrave 17:37 2023/04/10

「普通の人とは分かり合えないギフテッドトークで大盛り上がりでしたね!

特別な時間をありがとうございます!」


ランチ会に参加したギフママ達から次々にコメントが書き込まれていく。


アヤカ&脳デカ凹凸子 @AYA&IQ133 17:37 2023/04/10

「ランチ会あったんですか?私も行きたかったー!」


今回、ランチ会に誘わなかったギフママからもコメントが来る。

アヤカさんは最近フォロワーが増えたせいか、付き合いが悪かった。

それなのにランチ会には参加したいなんて、随分と調子の良い人。

ふん、と私が鼻で笑った瞬間、急に手元のスマホからピコン、ピコンとイイネの通知が連続して鳴る。

アヤカさんが焦って、私のポストにどんどんイイネをしているようだ。

そうそう、ツミッタのギフママ界隈は狭いんだから、ちゃんとお付き合いは大事にしなさいね。

弁えていれば、次回は誘われるかもね。

ふん、と再び私は鼻で笑って、スマホをリビングテーブルに置く。


テーブルには「四年三組 PTA学級委員選出の保護者会のお知らせ」と書かれたプリントが置いてあり、スマホを置いた弾みに、ヒラリとプリントの端が揺れた。

プリントに書いてある保護者会の日程は今日だ。



ああ、なぜ小学校にはPTAなどがあるのだろうか。

任意のはずなのにPTA会費は半強制的に徴収される上に、ボランティア活動までやらされる。

しかも学校に通っていない不登校の子どもの親まで参加させられる。

憮然とした顔でドレッサーの前に座っている自分が鏡に映る。

少し太った。

娘が不登校になったストレスのせいだろう。

今日は長い髪を下ろしたスタイルにして、丸いフェイスラインを隠そう。

口紅はトレンドのオレンジ系が良さそうだ。

私は化粧を済まし、憂鬱な思いで学校に向かう。

ツミッタにはギフママ友はたくさんいるが、娘の学校にはギフママなどいないのに。


例年、PTA学級委員の選定はいつも押し付け合いになる。

最初は話し合いと言いながら、保護者全員がだんまり。

役員を決める保護者会に欠席者がいたら、暗黙の了解で欠席者を学級委員にする。

欠席者がいなければクジ引き。

時間の無駄としか思えない保護者会だけど、欠席すると学級委員に選ばれてしまうから行くしかない。


こんな勝手な仕組みを放置する小学校だから、子ども一人一人を大切にしようだなんて思ってもない。

ダラダラと今までのやり方を繰り返すだけ。

娘が知能検査でギフテッドと分かった時も、去年の担任は


「個別に児童に対応をする場合は、医師の診断書等が必要です」


と困った顔をして言うだけだった。

今思い出しても、目の周りが熱くほど怒りが込み上げる。

娘はIQ130を超えているため、普通の子ども達といると浮きこぼれてしまう。

IQは20ほど差があると会話が成り立たないとさえ言われている。

娘は高IQのギフテッドのため、学校で友達を作るのはとても難しいのだ。


娘が一・二年生のときは、仲良しのヒヨリちゃんがいたから通学できた。

ところが三年生のクラスでは、ヒヨリちゃんと違うクラスになってしまい、娘は友達の輪に入れず、不登校になった。


「娘はギフテッドだから、友達作りが難しいんです!四年生のクラス替えのときにはヒヨリちゃんと同じクラスにしてください!」


三年生の三学期の個人懇談で、私は担任に要望した。

しかし担任は診断書を出せという。

うちの子は発達障害じゃないんだから、診断書なんてないわよ!

これだから勉強不足の公立教師は!

IQ130を超えるギフテッドの悩みなど、凡人の教師には想像もできないのだろう。

そして最悪なことに、四年生の娘のクラスにヒヨリちゃんはおらず、娘の不登校は未だ続いている。




 「お集まりの皆さん、お子さんの名前が書かれた席におかけください」


メガネをかけた前年度のPTA役員が、教室に到着した保護者たちに声をかけている。

教室にはすでにたくさんの保護者が集まっていて、熱気がこもっていた。

席についているママ達の中には、知り合い同士なのか話し込んでいたり、わざわざ自分の席を離れて立ち話までしているママもいる。

私は迷惑にならないようにさっさと娘の席に座った。

娘の机の中は空っぽで、私の膝が冷たい机の裏に当たると妙に軽い金属音がした。


例年通りPTA学級委員の選定は難航し、クジ引きになった。

前年度のPTA役員がガサガサと抽選用の中から、名前が書かれた二枚の紙を取り出して読み上げる。


「渡辺さんと…」


PTA役員が一人目の名前を出すと、


 「ひゃー!」


と小さな悲鳴を上げ、顔を両手で覆い、ガックリと項垂れる女性がいた。

周囲には仲の良いママが何人かいたようで


「当たったねー!」

「手伝いが必要な時は呼んでね!」


と彼女の肩を叩いて笑っている。


「だったら代わりに学級委員やってよ!」


と言いながら、渡辺さんも観念したように笑っている。

PTA役員はクラスが落ち着くのを待ち、二人目の名前を告げる。


「斎藤さん」


シーンと沈黙が流れる。どこからか、


「誰?」


小さな囁きがクラスに響く。

子どものクラスメイトの親の名前を呼ばれて、誰?と言う無神経さ。

常識のない言葉に腹が立つ。


「斎藤さん、いらっしゃいますか?」


PTA役員が教室を見渡す。

私は仕方なく黙って手を上げる。

手を挙げた右手には、旦那と付き合っている時に贈られたカシミール産のサファイアの指輪をはめている。

私は思い切って、


「あの、選ばれた後に申し訳ないんですけど」


と言い、一旦、言葉を切って、ゴクっと唾を飲む。


「その、私の娘は不登校で、手がかかるので、あの、役員をする時間は、ちょっと、取れないと思います」


子どもが学校に通ってないのに、学校やよその子の世話をするなんて、常識的に考えてありえない。

しかしPTA役員は間髪入れずに答える。


「いえ、PTA会則で『諸事情は全ての会員にあるものとして、選ばれた者はペアの委員と協力し、役割を全うする』と規定されています。

フルタイム勤務の方や、介護や障害疾病のある方も、等しく扱っております」


まるで準備していたようにスラスラとPTA役員が反論するので、私は思わず口籠ってしまう。

でも、ここで言い負けると学級委員にされてしまう。


「え、でも、あの、困ります。だって、あの、娘はちょっと特別で…ギフテッドなんです」


私は必死に説明を続ける。


「娘は知的好奇心いっぱいで、いつも知的な刺激を求めているんです。

みなさんのお子さんはゲームをしていたら満足するかもしれませんが、娘はそれではダメなんです。

学校の勉強もレベルが低くて、ハイレベルな塾やお稽古への送迎でスケジュール管理も大変なんです」


私が話終わると、クラスにいる保護者があちこちでヒソヒソ声を始める。


「あの人よ、ギフテッドって言ってる人」

「何?ギフテッドって?」

「IQ高いんだって」

「へー天才なんだ?」

「いや、何が凄いか知らないけど」

「学校に来てないもんねー」

「別室で特別授業しろとか、お気に入りの友達と同じクラスにしろとか、先生に無茶振りしてるって話だよ」

「ええ? そんなことしてるの?」

「で、さらにPTAも免除しろって?」


保護者達の冷めた視線が私に集まる。しまいに、


「へー、あの人、モンペなんだー」


どこからか非常識な発言が聞こえた。

私は反射的に立ち上がる。誰がモンペだ!

ギフテッドを育てる苦しみも知らないくせに!

「あの!うちの子はギフテッドで、ギフテッドはIQが高い分、脳への負担も大きくて、お友達を作るにも苦労するんです!だから…」


無知な人たちにギフテッドについて教えてやろうと、私が声を大きくした瞬間、


「あ、じゃあ私やります」


私の話を遮るように、さっき学級委員に選ばれた渡辺さんの隣に座っていた女性が手を挙げる。

女性が立っている私の方を見て、座りながら話す。


「斎藤さん、大変なんですよね? 私が代わりに学級委員をやりますよ」


快活な性格アピールなのか、満面の笑みを私に向け、女性はPTA役員の返事を待つ。


「そうですね…、立候補で委員が決まる方が望ましいのでお願いします。斎藤さんもよろしいですね?」


とPTA役員が私の方を見ながら同意を求める。

私は立ったまま黙って頷く。


「ありがとう!」


渡辺さんは飛び跳ねるような嬉しそうな声でお礼を言い、挙手した女性に抱きつく。

遠目ながら、抱きしめ返した女性が渡辺さんに「あれはキツいでしょ」と囁いたように見えた。

いや、そう言ったに違いない。


PTA役員は、渡辺さんと女性に席から立って自己紹介をするように促す。

私は目を伏せて席に座る。

あとから挙手した女性が先に自己紹介をする。


「井上といいます。やるからには楽しいPTA活動にしたいと思います!渡辺ちゃん、一緒に頑張ろうね!」


井上さんが自己紹介をして、頭を下げた後に、渡辺さんとハイタッチをする。

続いて渡辺さんも自己紹介をする。


「渡辺といいます。初めての学級委員ですが、井上さん、あ、普段はイノッチって呼んでいます。イノッチと頑張りますので、よろしくお願いします!」


渡辺さんはクジ引きで決まった時とは別人のように、元気いっぱいにハキハキと話す。

クラスからは自然と拍手が起こる。

PTA役員も拍手をして、取り決めの進行を続ける。




はっ!とんだ茶番だ!!



私はマウントを取られたような気分になった。

まるで私が悪者みたいじゃないか。

井上さんもどうせ学級委員に立候補するなら、最初から立候補すればいいじゃない。

まるで私の顔を潰すように後出しで立候補するなんて。

井上さんってヒーロー願望があるのかしら。

ピンチになるまでずっと傍観してるくせに、良いところだけ掻っ攫っていくハイエナみたいな人。

私は娘の空の机を見つめながら、机の中に悪態を詰め込んでいく。


こんな学校、なくなっちゃえばいいのよ。




ミネルヴァ @giftedgirllove 21:55 2023/04/11

「PTAの役員に他薦多数で候補者にされちゃった。ギフテッド育てながらPTAなんてできないよー」


ミネルヴァ @giftedgirllove 21:56 2023/04/11

「専業主婦の方が時間を有効活用したいとのことで、その方に役員が決まりました。ボランティア精神に感謝!」


ミネルヴァ @giftedgirllove 21:56 2023/04/11

「みんなはPTAの活動どうしてる? 次はPTA会長に推薦されるらしくて恐怖!次のギフママランチ会で話したーい!」


私は帰宅後、すぐにハンドバッグからスマホを取り出し、ツミッタに投稿する。

学校では、保護者会が終わった後、懇親会をしようと新学級委員が保護者に声をかけ始めたが、私は声をかけられる前にさっさと退散した。

私はあんな人たちとランチはしないし、彼女達のお誘いを断るのも可哀想でしょ。

ピコン、ピコンと私のツミッタの投稿に、またすぐにイイネとコメントの通知が来た。


ギフマーマれーど @Highly_marmalade 22:01 2023/04/11

「さすがミネルヴァさん!人望ありますね⭐︎」


ゆーまま⭐︎ @IQgifted_mom 22:01 2023/04/11

「むしろミネルヴァさんが今年度のPTA会長になっては?ギフっ子に優しい学校づくりをしてほしい!」


ほらね、この人達はギフママの大変さも私のことも、ちゃんと分かってる。

凡人には相容れない世界に私たちは住んでいるの。

私の居場所はここ。


アヤカ&脳デカ凹凸子 @AYA&IQ133 22:02 2023/04/11

「次回のランチ会の参加宣言しちゃいまーす!」

 

昨日のギフママランチ会に誘われなかったギフママが必死に参加宣言をする。

誘われてもいないのに、勝手に立候補。

こういうでしゃばりのせいで、気分を害する人がいるって分からないのかしら。


ミネルヴァ @giftedgirllove 22:15 2023/04/11

「ご都合が合いそうな方に、個別にメッセージ送ります!みなさんが喜んでくれそうなお店を探しますね⭐︎」


もちろん、アヤカさんにはメッセージは送らない。


いい気味だわ。




👉斉藤さんは

第八話 SNSの垢バレしちゃったギフママ

https://kakuyomu.jp/works/16817330668984024709/episodes/16818023213285070684

に再登場します!

❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁

☆やブクマ等の応援していただけますと、とても嬉しいです!

よろしくお願い申し上げます🙇‍♀️

❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る