第11話 レイン


「失敗?失敗したと?お前はそういうのか?」


「…………」


 この女偉そうに、とそう思うが、少しの辛抱だと俺は反抗心を押さえつけて、ひたすらに頭を下げる。


「魔術を無効化する護符を用意し、姫を守る護衛の情報を集め、あまつさえ襲撃の計画まで立てたのに、失敗しておめおめと逃げ帰って来た、と」


「そ、それです。それ」


 俺は非難の意味を込めて顔を上げようとするが、すぐに鋭い視線に射ぬかれて、下を向くしかなくなった。辛抱だ、辛抱。


「それ、とは」


「あの、あのですね。事前に頂いた護衛の情報とは別の奴が護衛に居たらしくて」


 俺が直接見たわけでは無いが、そうとしか思えなかった。

 仲間は計画通りにターゲットと護衛を引き離した。そこまでは成功していたし、その後だって問題さえ起こらなければ小娘二人くらい難なく殺れたはずだ。


 だっていうのに、俺の仲間は全滅した。


「それで、その後には情報の無かった奴が旅に加わってまして」


 状況を見るに、そいつが俺たちの邪魔をしたのだ。

 それさえなければ計画は万事うまくいっていた。

 そのはずだったのに。


「つまりは」


 高圧的な声が頭上から降ってくる。


「私の提供した情報に不備があったから失敗したと」


「そ、そうは言ってねえ、です!」


 そういう気持ちはあった。あったが、ここでそれをいう訳にもいかない。


「もう一度言っておこう」


 何度も聞いてる、あの見下した声だ。


「私とお前たちの利害は一致している。だから協力はしよう。私は、あの女の抹殺のため。君たちは、伝承の魔王の復活のため」


 そうだ。だから我慢してるし頭も下げる。

 こんな俺たち亜人を軽蔑してるような奴にだってな!


「だが、使えなければ容赦なく手を切るつもりだ。そうなって困るのは君たちだろう?神託が成り、魔王の出現を阻止されて困るのは」


「……そう、その通りです」


 悔しくて歯噛みする。こんな奴に。

 魔王も、神託も何一つ信じてなんていない奴に、ダシに使われるなんて。


「それで、ですね、今日こちらに来たのはこいつを見て頂くためでして」


 俺は腰の皮袋から一つの破片を取り出す。

 仲間の死体から剥ぎ取ったもの。仲間が残してくれた唯一の足がかり。


「これは?」


「恐らく情報の無かった護衛が使った武器の正体です。なので……」


 図々しいと思われているだろうか?構うもんか。こっちの方が立場は弱いが、これくらいの注文なら聞かざる負えないはずだ。

 向こうだって、目的があるんだから。


「ご用意して頂きたいものが……」





「ふぅ」


 人間の領域から身を隠しながら外に出て、町を眺める。

 安全で、食いものだって豊富で、なにより。

 奇麗で。

 片や俺たち亜人の住む荒野のなんと過酷なことか。


「それでも」


 それは、俺たちの縋ってきた、たった一縷の望み。


「魔王様が俺たちを統一してくれれば。そうすれば」


 そうすれば、俺たちはこんな惨めな思いを抱え続けなくてもよくなる。

 あんな女の言うことを聞く必要だってなくなる。

 

 その、はずなんだ。

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