2-06a話:アネモスへのおみやげ1

 公爵を王子の部屋に案内したあと、リコリスはシウが用意したお茶を受け取り、王子と公爵の前に配膳した。


「そうだ、アネモス。前回は持ってこれなかったけど、今日はお土産があるよ」

「おみやげ?」


 ヴァレアキントスが、可愛らしいラッピングが施された小箱をアネモスに手渡す。


「あけてごらん?」

「うん」


 目をキラキラさせて受け取った王子が、早速箱を開ける。


「クッキーだね。お花の形してたり、ハートの形してたり、色んな形だね」

「そうだね。これは日持ちするから、少しお腹が空いたら詰まんでごらん?」

「いいの?」

「少しくらいは、専属侍女さんも許してくれるだろう」


 許すも何も、リコリスは侍女であって医師でもなんでもないため、問いかけられたら是と答えるしかない。

 それでも、嬉しそうにクッキーを見つめる少年の姿を見ていると、彼女は不思議ともっと沢山食べさせてあげたくなるような気がした。


「いま食べてもいいかな……?」

「どうだろう、リ……リコリス。昼食まではまだ時間があるから、問題ないと思うのだけれども。それに丁度、お茶もあるからね」


 食べたいけど許可がもらえるか不安になっているのか、チラチラとリコリスを見つめるアネモスの隣で、ヴァレアキントスが問いかけた。


「はい。問題ないと思います。作る量を少し調整いたしますね」

「ありがとう。じゃあちょっとだけ食べようか。お昼ご飯が食べらなくならないように、少しだけね?」

「うん、少しだけね。ごはん食べられなくなっちゃったら、だめだからね」


 王子はサクサクと音を立ててクッキーを頬張り、幸せそうに叔父と会話をする。

 その様子を見守ったリコリスは、そっと部屋を出た。


 リコリスがいなくなったことにアネモスが気づいたのは、それから少しした後。


「あ……リコリス、いないの?」


 少年はきょろきょろと室内を見回すと、専属侍女の姿が見えないことに気づいて寂しそうな表情を浮かべた。


「うん? どうしたんだい?」

「……リコリスと、いっしょにたべたかった……な」

「そうか……」


 ヴァレアキントスはアネモスの頭を優しく撫でて、リコリスが消えた扉の方向を甥と一緒になって眺めた。

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