2-02b話:反発と忠告と2

 王子の元へ料理を届けたリコリスは、昨日と同様に彼の目の前で味見をする。

 彼女はスプーンですくい取った具沢山スープを、アネモスの口に運んでは彼に食べさせる。


「おいしいね」

「それはよかったです」


 ニコリともしないが返事だけは返すリコリスの様子に、王子は困ったような表情でもう一度彼女に告げる。


「ほんとうに、おいしいよ?」

「分かっておりますよ」


 懸命に自身の意見を告げようとする少年の様子に、リコリスは苦笑した。


(こんなに可愛い盛りの時期なのに、あのひとたち王と王妃の子どもだというのに……。どうして呪われているというだけで、こんな扱いが出来るのかしら?)


 自分自身が抱えるアネモス対する心境は、決して表に出してはならない。

 アネモスに身勝手な復讐しようとしていることも、そして亡き我が子に姿を重ねて接していることも……誰にも悟られてはいけないのだ。

 同僚たちに知られれば、足元をすくわれるだろう。

 そしてアネモス本人にだけではく、暗殺を知られれば阻止するであろうヴァレアキントスにも、決して知られてはならない。


「リコリス?」


 考え事をしているあまりに手が止まりかけていたリコリスは、アネモスの声で我に返った。


「申し訳ありません。さあ、王子。今朝のデザートはぶどうですよ」

「うさぎさんリンゴじゃないの?」


 寂しそうに首を傾げるアネモスはとても可愛らしいと、彼女は思う。

 この子がもし、レンデンスであったなら……。


「それはまた、今度にいたしましょう」

「うん……。またこんど、つくってね」

(今度……? 私はいつまで、ここでこうしているつもりなのかしら……?)


 その思いを断ち切ろうと、彼女は房からぶどうをちぎった。


(私でも、良くわからないわ……。どうしたら良いのかしら。……レンデンス。私の可愛いロゼル……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る