第42話 近づく距離と震える距離。

 帰宅後、じゅんから打ち明けられた。


「えっと、マジ?」

「マジ」


 まさかあの騒ぎがそんな事態だったなんて。

 それを持ち出される間一髪で巡君が気づいて証拠品として提出したという。結果的に持ち出されているけど、変態に楽しまれるよりは良いと判断して我慢した私である。

 これも結局、見られたら不味いパンツを知られてしまったからなんだよね。バイト前に帰宅して少しの間、えっと・・・黙秘します。

 そのお陰で穿きかえて、たまたまあったお子様パンツを穿いてバイトに出たのだ。


(楽しみだからって元気にならなくてもぉ)


 私は何気にエッチな女の子だと今更ながら思ったよ。美柑みかんに言わせれば普通との事だが、私の価値観でそうなるのは必定だ。

 ともあれ、夕食後のお風呂前ではあるが、


「ま、いいか」

「じゃ。始めるぞ」

「お手柔らかにお願いします」

「善処します」


 巡君に労ってもらった私であった。


(ああ、またお尻を念入りに揉んでるぅ)


 余程、私のお尻が大好きとみた。


(大好きな人の手だからいいけどね、うん)


 マッサージ後はお風呂に入り、一息入れた。


「私も少しずつ、変化していってるのかな?」


 少しだけ。ほんの少しだけ、おっぱいも育ってきている。身長だけは全然変化しないけど。

 風呂上がりは甘いフルーツ牛乳を飲んだ。


(ふぅ〜。まったりだぁ。巡君の自家製フルーツ牛乳。この果物は美柑の家から買って・・・ああ、お爺さんがあの活発爺様だったなんてね)


 意外な所に身内発見だったよ。

 これなら誕生日と言わずいつでも会えそうな気がするけどね。お爺さんは祝いたいそうだから結果的にその日に再会する事になったけど。


(再会は少し違うかな? でも良く買い物に出かけては色々お勧めされていたし再会でいいのかも? それこそ美柑に聞けば・・・やめとこ)


 リビングを出て自室となった客間のベッドで横になり今日の出来事を改めて思い出した。


「抜き打ち視察、ポニーテールと伊達眼鏡でバレなかったね」


 これがいつもの容姿なら声をかけられていたはずだ。


「各部活の視察でもバレていなかったよね」


 むしろ、生徒会書記に新しい子を入れたのかって囁かれていたけど。そんなに違うものなのか不思議でならなかった。


「これって、入学してから変化していないシニヨンと化粧の所為かな? それが私のシンボルめいた何かになっているのかも」


 巡君も眼鏡一つで雰囲気が変わっていた。

 私に初めて告白した時もそうだったけどね。


「その時の告白から・・・本当に大好きになるなんて昔の私じゃ、理解出来ないよね。きっと」


 恋愛脳を嫌悪していたから。


「各部の視察も順調で・・・あそこで再会するとは思わなかったけど」


 それは中学の同級生。

 百合に走っている少々変わった同級生だ。


「二人の雰囲気も変わっていて、私も初見では分からなかったよね。中身は変化なしだけど」


 それを知ると如何に外見が重要視されているか理解出来る。とはいえ中身も重要なので外見だけで告白されても迷惑なんだよね。

 私の何を知っているのかって事だから。

 これから知っていくと言う人も居たけど、


「金銭目的で告白した時点で引くよね」


 何かを知りたいのではなく、ぶら下げられた人参に口を大きく開けていただけなんだから。

 それに関与した首謀者も捕まったけど入学後より続く告白騒ぎ。それがまだ、終わっていないように思えるのは気のせいだと思いたいね。


「全ては新学期に入ってから判明する事かな」


 ああ、あと。


「バイト先でのストーカー騒ぎ、か」


 あれも事情を聞けば、巡君の従姉妹達がストーカー被害に遭っていたからだという。

 そのストーカーが盗撮していて、私の代替パンツが晒されてしまい、巡君に見られた。


「マッサージで晒してしまったから今更かな」


 先ほどのマッサージはパンツ越しに揉んで貰ったのだ。上はノーブラでTシャツ越しに揉んで貰った。おっぱいは流石に揉んでないけど。


「ネコ柄パンツが可愛いと言われたのは嬉しかったけど、恥ずかしかったな」


 ああ、思い出すと火照ってきたよ。

 私は寝入る前に、身体を落ち着かせようと自分の素肌に少しずつ触れていったのだった。



 §



 風呂前の俺は大賢者になった。


「ふぅ〜。ようやく冷静になったな」


 風呂に入って落ち着きつつ先々を思案した。


「明日は午前中から生徒会。妃菜ひな会長は明後日には帰ってくるから、明後日には体育祭の決裁を、文化祭のタイム・・・」


 それと共に夏季休暇明けに行われる部長会議の様相を想定しておいた。


「絶対に荒れるよな。一時的に美術部に割り当てたが、他の部がどう反応するか? 運動部も残り四割を何処に充てるかで騒がしくなりそうだ。それこそ、体育祭での頑張りで獲得して」


 貰う方がイベントとしていけそうだよな?

 聞けば我が校の体育祭は思ったよりも盛り上がらないとの話らしい。誰もが気が抜けていてやる気のない者が大半との事だ。


「そうなると文化系も同じにした方がいいか」


 人参をぶら下げるだけでやる気になる野郎共だって居るからな。めぐみ相手に大金を得ようと告白してきたのだ。

 帰宅部の生徒は面白くないだろうが、部所属の生徒達は意気込む可能性が高いだろう。


「帰宅部は帰宅部で何か特典があればな・・・」


 あまり金のかかる物は用意が出来ない。

 予算の都合もあるから余計にな。


「あ、推薦枠? いや、これは先生に聞いてみない事には分からないか。だが、もし推薦枠の検討に即した特典となるなら俺でも嬉しいな」


 生徒会とは別口なので職員会議物となってしまうが頑張った分だけ心証も良くなるはずだ。

 腑抜けた生徒へと推薦を与えるほど先生達の心証は甘くないはずだしな。あくまで検討。

 候補入りすると言えば、帰宅部は頑張るかもしれない。あとの頑張りは本人達次第なので候補入りしても推薦が得られない場合もあるが。


「そこは顧問と要相談だな」


 温い風呂で思考を纏めた俺は風呂から上がり脱衣所に出る。


「「あっ」」


 脱衣所では恵が下着を洗っていて・・・。

 視線が下に向かって真っ赤になっていた。


(ああ、通常時までも見られてしまったか)


 俺は慌てて風呂場に戻り湯に浸かる。

 この時の俺の心情は例えようのない物となっていた。恥ずかしいような申し訳ないような。


(つか、恵も何も着ていなかったような?)


 それを思い出して元気になった俺だった。



 §



 えっと、その、あの、何て言うか。


(驚いたよ。あれが、あれで、あれなの?)


 下着を洗い終えた私は慌てて自室に戻った。

 パンツを干しながらまたも真っ赤になった。

 スーツケースから替えの下着を出して穿き、


(ん? 穿き? 待って? み、見られた?)


 脱衣所での私の格好はTシャツを脱いでパンツだけ洗っていた。つまり、裸で遭遇してしまったようである。


(互いに裸・・・恥ずかしい)


 巡君は慌てて戻っていったが、私の上半身は鏡に映ってて、下はともかくお尻が丸見えと。

 それは例えようのない恥ずかしさだった。


「ぬ、布きれ一枚の差なのに、何でこんなに」


 恥ずかしさが異なるのだろうか?

 Tシャツパンツだけなら割と平気なのにね。

 これはやはり行き着くところまで行き着いていないからだろう。

 とはいえ、


「あれが、あれで、あれだよね?」


 ホテルで見た急成長を思い出すとその差は歴然だった。私、受け入れること出来るのかな?

 それを思い返すと不安になった私だった。

 パンツを穿いてTシャツを着て椅子に座る。


「い、今はとりあえず、勉強しよ」


 不安を押し流そうと勉強を始めた私だった。



 §



 風呂から出ると恵は居なかった。

 洗濯篭には恵のTシャツだけがあった。


「やはり、裸だったのか」


 身体の水分を拭い着替えのパンツを穿く。

 パンツだけを手洗いしてきつく絞った。


「これは自室で干すか。一緒に洗えないしな」


 Tシャツに触ると汗で濡れていて妙な匂いを漂わせていた。ここ最近の恵も下着以外は一緒に洗っても良いと言っている。なので俺のパンツを除いた着替え諸共洗濯を始めた俺だった。


(この匂いは少々くるが・・・我慢だ)


 裏返しを元に戻したり、ポケットにゴミが無いか調べたり。その際に恵のスカートから一枚のメモ書きが出てきた。


「これは・・・うたの連絡先か?」


 スカートのポケットに忘れていたようだ。

 そこにはふみの連絡先も書かれていて女子なりの付き合いを行うようである。


「つか、俺に内緒って何なんだろうな?」


 実は俺も文はともかく詩とは連絡を取り合っている。メモ書きを見た瞬間、詩のIDだと判明したからな。何を思ってやりとりするのか知らないが程々の距離感で居て欲しいと思った。

 これが後に別の意味で驚かされる事になろうとは、この時の俺は知る由もなかった。


「あ、スマホまで忘れてやがる。危ねぇな」


 恵は俺のマッサージを本気で心待ちしていたのかもな。それがあったから色々と抜けてしまっていたらしい。そう考えると意外とエッチな女の子なのではと思えてしまった。


(いや、元々が肉食系女子だったわ)


 なぎさと似ているとの話だもんな。

 俺は将来の恵を想像して身震いがした。


夕兄ゆうにいと同じ末路になりませんように)


 そう、心から願って震えたのだった。




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