第39話 次から次へと噴出するね。
その後、
運動部で悪さをしていたのは陸上部だけだったが、文化系の部活でもあやしい申請をしている部が他にもあった。
「オカ研の部員ってこれだけ?」
「えっと、はい。そうです」
「オカルトらしく幽霊が多いって事かしら?」
「いえ、私達だけですね」
「そう」
それは私達が訪れているオカルト研究部である。現在、ここの部長達は居らず部員達が応対しているけどね。部員数は全部で二人か。
部長と副部長を含めると四人しか居ない。
部の資格は五人以上だから資格無しだね
「入部申請にあった人数と一致する?」
私は書類を取り出して人数を調べる。
「いえ、申請の人数は十人ですね」
「おかしいわね?」
「やはり幽霊でしょうか?」
それを聞いた部員達は青ざめる。
オカ研に居るなら怖がる必要はないよね?
そういう物が好きだから所属するのだし。
「部員数を水増ししたとか?」
「ああ、廃部を避けたいからか」
「部費申請もありますね」
「何を買っているのやら?」
部室にはよく分からない物が多い。
透明な樹脂製の頭骨とか人体模型とかね。
円形の模様が描かれた絨毯とか。
部長の席には〈暗黒の大魔王〉とか変な肩書きが書かれていた。これはオカルトよりも治らない病を患った人達ではないかな?
将来、黒歴史として封印する類いの病持ち。
私は部員の二人に声をかける。
「二人が所属した理由は答えられる?」
「え、えっと」
「その、あの」
急にしどろもどろになる部員達。
リボンの色から察するに一年生だよね。
すると巡君が入部書類を眺めて問いかける。
「
「え、えっと」
「部長達から、宿命だと、言われまして」
「「宿命?」」
名前を聞いた私は反応から察してしまう。
「ん? 弘子と愛実?」
「
「「恵!?」」
今更だけど思い出したよ。
「中学の同級生だね」
「そうなのか」
クラスが変わって関係が変化した友達を。
この二人は中学時代の同級生だった。
地味だったのに少し派手な容姿だけど。
名前を聞くまで思い出せなかったよ。
「なに? 揃って高校デビュー?」
「「うっ」」
容姿は変化しても大人しい性格は変化していないようだ。
「もしかして、言いくるめられた?」
「「・・・」」
「昔から勢いのある人達には弱いもんね?」
「「うっ」」
この反応は無理矢理入部させられたようだ。
我が校は入部に関して強制力が無い。
仮に帰宅部であっても問われない。
私や巡君のように帰宅部も居るしね。
今は生徒会役員だけど。
私は巡君ではないが副会長に進言する。
「副会長、ここは廃部ですね」
「そのようね。
「二年の
「か、肩書きが名前って?」
「まさに厨二病ネームね」
やはり治らない病の主だったようだ。
一先ずの私は弘子と愛実に対して、
「二人は文芸部に入ったら?」
本来所属したかったであろう部を紹介した。
そちらも部員数が少なくて困っていたしね。
文芸部も来年は廃部する可能性があるのだ。
三年が二人、二年が三人、一年がゼロ人。
このよく分からない部よりも堅実だろう。
しかし二人は怯えて抱き合っていた。
「「で、でも」」
「でも?」
「や、止めたら呪うって」
「部長達から言われてて」
それって単なる脅しじゃん。
副会長は呆れのまま透明な頭骨を握りしめ、
「廃部決定! こんなもん置いておくな!」
頭骨を窓に向かって思いっきり投げた。
上空に飛んでった頭骨は野球部のグラウンドに落ち、素振りするバットに当たり、近くを走るトラックの幌で跳ねドブ川に落ちて割れた。
この部室からも見えるって相当だよね。
「何このスイッチ?」
「副会長の幸運にあてられたかね?」
「副会長の幸運そのものがオカルトだね」
「そこ! そういうことは言わない!」
何はともあれ、オカ研の廃部は決定したので鍵を施錠して廃部の文字を窓に貼っておいた。
『部員の水増しを確認。この書面を見た三日後までにこの部室を退出すること。苦情は顧問の
これで文句があるなら生徒会室に来るよね。
「こちらも顧問が丸投げしていたわね」
「頭が固い割におかしな部の顧問してますね」
「望弦先生は割と同類な感じがするけどね」
「「厨二ですか」」
「ええ。素養がありそうよね」
妄言が酷い事でも有名な先生だもんね。
なお、元部員の二人には新しい入部届を手渡して文芸部へと連れて行った。
「「ありがとう、恵」」
「気にしないで。こちらで趣味の百合に走ったらいいじゃない」
「「そうする!」」
この二人は同性で愛し合っている。
容姿は至って普通だが整えれば奇麗になる。
(奇麗になったのに異性に興味無しだもんね)
この二人と仲が良かったのは異性に興味が無かったからだ。ある意味で気があった仲だね。
二人の性格は大変大人しいが、趣味に走った時は逆転する、とんでもな子達でもある。
私からすれば引くような性癖持ちだった。
(遠い目がしたくなるね・・・うん)
§
抜き打ち視察は全て終了した。
生徒会室に戻った私達は分配を会議する。
「本当は部長会議で行うべきなのだけどね」
「でも、私的流用があった以上は他の部に示しがつきませんよ?」
「そこよね。次から次へと問題が噴出するわ」
本当にね。生徒会費どころの話じゃないよ。
陸上部の事案は数年に渡って存在していた。
「伝統って誰が始めたのかしら?」
「持ち帰った帳簿によると
オカ研は一年と少しなのでそこまで気にしても仕方ないだろう。部員の水増しがなければ同好会で維持出来るからね。部費は出ないけど。
(義兄の在学中より続く問題とか相当だよ)
副会長は頭を抱え、スマホを取り出した。
「あー、
婚約者である彼氏に問い合せを行った。
返答は直ぐに返ってきたけどね。
「当時の先輩・・・三年生が始めた事みたい」
今は帰国してるから実家に居るのだろう。
巡君は
「長距離選手の優遇ですか」
「インターハイに出てから図に乗ったのね」
「出ただけだと大した事はないような?」
「そうなんだけどねぇ。優勝したなら話は分かるけど、結果はビリね。トレーニング環境が悪いんだってことになって・・・」
「部内の優遇制度を始めたと」
それって自分の努力不足だよね。
部室を見たけどそれなりに設備があるし。
他部と共通のトレーニングルームもある。
それはウェイトリフティング部だけどね。
使わない時は他部も利用可能になっている。
「結果的に私的流用で部長職の更迭と停学ね」
今回は学校の動きも速かった。
証拠を揃えて持ち込むと臨時職員会議にかけられて即座に三年の停学が言い渡された。
当然、顧問の責任もあるので
その際に『挙式費用!』という叫びも聞こえた。折角、良い出会いを見つけたのに陸上部の部長に邪魔されたもんね。生徒会が動いた事がきっかけでも悪事の放置は出来ないもの。
三年の停学を推したのも堅固先生との事だ。
それは事実上の退学勧告である。
「陸上部の遠征はしばらく中止。今後は副部長の管理下で更生していくしかないわね」
「それしかないですね。部費はどうします?」
「当初の予定通り、五割減ね」
それしかないと。
遠征費を削れば捻出が出来るからね。
「オカ研の廃部のあるから余裕も出るかな」
「たちまちは実績のない部よりも実績のある部に割り当てる必要があるけどな」
「文化系で実績のある部だと何がある?」
「そうですね」
巡君は分厚い紙束をペラペラと捲る。
それは各部が報告した実績表である。
「美術部、コンクールに入選。茶道部・・・は置いといて。天文部、新星を発見。などですね」
「それらは自己申告でもあるから、まともな部に割り当てるしかないわね」
茶道部で言い淀んだけど何かあったかな?
私は隣から紙束を覗き見て呆れてしまった。
(茶菓子コンクールで優勝? それは作る方じゃないの。抹茶の点て方なら分かるけどさ?)
結果的にオカ研に割り当てられる部費は美術部に上乗せされる事となった。これも元々が文化系の部活枠だから仕方ないよね。
「部活問題は終わったから。次は本題ね」
「「そうですね」」
抜き打ち視察があったとしても生徒会の仕事は他にもある。体育祭と文化祭の準備は着々と行わないといけないからね。
「会長不在でも堆く貯まる書類の山か」
「会長の不在だけは仕方ないぞ?」
「決裁する
「副会長、オブラートに包みませんか?」
それ、逆セクハラですよ?
巡君なんて反応に困っているし。
「本当の事だし、気にしても仕方ないわ」
「ああ、会長も一夏の経験をしたんですね」
「したみたいね。下野君もしたの?」
巡君は手を止めて目を瞑って答えた。
「ノーコメントで」
「無表情で・・・恵ちゃんはどうなの?」
「ノーコメントです」
「この反応、何かあったわね?」
ちっ。この副会長、無駄に鋭いね。
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