第37話 羞恥と好意の狭間で困惑。

 じゅん君に見られた。

 何を見られたかって私の背中とお尻と・・・。

 お陰で小さいながら叫んでしまい、慌てた私は部屋に戻って美柑みかんに相談する事にした。

 着替えを持ってお風呂に入って電話して。

 それは当然ながら下宿している事と交際を始めた事、過去の経緯から何からを打ち明けた。

 そうしないと有り得ない事を口走るから。


(それが結果的に許嫁になるなんてね?)


 嬉しい反面、恥ずかしい気持ちも溢れた。

 またもや巡君が有り難そうに拝んだしね。

 自室に戻った私はベッドへと横になる。

 お陰でお風呂上がりだというのに、


(また火照ったよぉ)


 ホテルの時と同じく素肌が敏感になった。

 これは私が嬉し恥ずかしの気分となった時に起きる新たな身体の反応のようだ。

 それを美柑に聞くと『受け入れる準備を始めたんだね』と、理由を伏せたまま語っていた。

 受け入れる、私が巡君を受け入れる準備と。

 何処に受け入れるなんてのは理解している。

 性教育でも習ったしね。その準備段階までは先生達も教えてはくれなかったけど。

 先日の汗も汗ではないと美柑から言われた。

 私が如何に無知であったか思い知ったね。

 それが巡君のジャージに付着して・・・、


(恥ずかしいよぉ)


 巡君も察して洗濯してきた。

 今思うと申し訳なさで一杯だ。


「こ、これはお詫びしないとね」


 私はベッドから起き上がり、部屋を出る。

 階段を上がり巡君の部屋の扉をノックする。


「巡君、少しいい?」


 ノックすると室内からドタバタ音が響いた。


『ちょ、ちょっと待ってくれ!』


 巡君は凄い慌てようで何かを拭く物音をさせていた。一体、中で何をしているのだろうか。

 すると消臭スプレーを振りかける音も響く。

 異臭の発する何かをしていたのだろうか?

 しばらくして巡君が荒い息のまま顔を出す。


「ど、どうしたんだ?」


 格好は白いTシャツに青い短パン姿だった。


「えっとね。ホテルでのこと、なんだけど」


 私はジャージの件を含めてお詫びした。

 巡君は一瞬きょとんとなるもバツの悪い表情となり左頬を掻いた。


「あ、あれは・・・仕方ないだろ。俺が、その」


 私のお尻を揉んだ事がきっかけらしい。

 巡君のマッサージは疲れを取る反面、そういう効果をもたらす事があると打ち明けられた。

 巡君のお父さん直伝でお母さんにも実践しているマッサージだそうだ。それは男性なら元気になる。女性なら色々元気になる行為らしい。


「そ、それって?」

「だから、俺が責任を取るのはあながち間違いではないな。元のめぐみに戻せない状態にしたも同然だから」

「そ、そうなんだ」


 私は例えようのない気分になった。

 大好きだから別に構わないけどね。


(でも、それならそれで教えてほしかった)


 すると巡君は私の表情に気づいたのか、


「実は、俺も今日、気づいて、な?」


 困り顔で言い訳してきた。


「申し訳ない事をしたと思っているんだよ」


 私は当時を思い出し呆れ顔のまま応じた。


「謝らなくていいよ。どうせ遅かれ早かれ」


 こうなっていただろうしね。


「私がお尻に触れていいと許可を出したし」

「それはそうだが」


 交際しているなら、それくらいのスキンシップがあって当然だから。偽の頃は出来ない気持ちが先にあったけど今は気にする必要はない。


「イヤだったらマッサージなんてさせないよ」


 好きだから触れてほしいからお願いした。

 本能の赴くままにお願いしたので冷静になるととんでもない事をしていたと気づくけど。

 私は恥ずかしさで俯き、


「イヤではないから、近日中にまたお願いしていいかな?」


 上目遣いでお願いしてみた。


「お、おう。今日は無理だから後日でいいか」

「うん。それでもいいよ!」


 私は嬉しくなり巡君に抱きついた。


「わぁ!? どうしたんだよ?」


 嬉しいから抱きつきたくなっただけだよ。

 私はその際にゴツゴツとした何かに気づく。


「ん? なにか当たった?」

「そ、それは気のせいだ!」


 巡君は腰を引き、私から距離を取る。

 私はそれで察してしまった。


(あ、そういう)


 それはホテルで見てしまった育ったアレ。

 なので揶揄うつもりで問うてみた。


「それって、もしかして私で?」

「・・・」


 巡君は沈黙した。

 それが答えだと示すように。

 私は巡君に対して微笑んであげた。


「ありがとう。お礼に、はい!」

「!? お、お礼で、それは!」


 Tシャツを捲って薄く膨らんだ胸を晒した。

 パンツだけは、その、魅せられないけども。


「何度か魅せてるし、今更でしょ?」

「それはそうだが。少しは羞恥心を持てよ?」

「巡君にだけ魅せるからいいもん!」

「お、俺だけって」


 Tシャツを着直した私は微笑みつつ巡君の首に腕を伸ばす。


「お、おい?」

「今は、その、雰囲気じゃないから。これで」


 巡君の右頬に顔を寄せてキスをした。


「え?」


 本当なら口が良かったけど部屋の前ではね。

 ファーストキスは雰囲気を作りたいし。


「今度は寝技でしてあげるね」


 私はそう言って階段を駆け下りた。


「寝技でって」


 呆然とする巡君を廊下に放置して。



 §



 部屋のベッドに戻り、我ながら大胆な事をしたと思った。


「抱きついて、胸を見せて、キスをして」


 火照りも相俟って大好きでたまらない感情に振り回された。これが私の嫌悪していた恋愛脳と気づいても、気づいた以上は嫌悪も消えた。


「人を好きになるってこういう感情なんだね」


 つい、突き動かされてしまうから。

 巡君に見て貰いたい、触って貰いたい気持ちに心と身体が占有されてしまう。

 受け入れる準備運動を始めた私の身体。

 私は美柑に聞いた通りに触れていった。


(あ、これは・・・)


 もうね、病みつきになってしまったね。



 §



 翌朝、目覚めと共に勉強してみた。

 ホテルの時と同じく公式が頭に入ってきた。


「これって、ストレス解消になったから?」


 ただ単に感じる状態で触れだけなのにね。

 そのお陰で学習意欲に繋がるなら適度に楽しもうと思った。但し、やり過ぎは後始末が困るので限度を設けようと思ったけれど。


「パンツが何枚あっても足りないよね」


 夜中に洗濯機を回すのは失礼だしね。

 コインランドリーに向かうのも恐いし。

 洗面所で洗ったあと部屋に干したしね。


「でもまぁ、それはそれで、いいかぁ」


 勉強を終えると部屋の外に出る。

 巡君は起きていてジャージに着替えていた。


「おはよう」

「おはようさん」

「何処か行くの?」

「持ち回りの当番だよ」

「当番?」


 それは一体なんなのだろうか?

 巡君はラジオ片手に玄関に座る。

 スニーカーを履いて立ち上がった。


「小学生の面倒だな」

「ああ、ラジオ体操!」

「そういうことだ」


 この地域ではそういう当番もあるんだね。

 私の地元ではそんな当番は無かったけど。

 北中の学区と南中の学区で扱いも異なると。


「じゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 私は巡君を見送るとリビングに向かった。

 キッチンでは巡君のお母さんが朝食を作っていた。


「おはようございます」

「はい、おはよう。朝食は少し待ってね」

「分かりました」


 この雰囲気、とってもいいな。

 私もいつか料理を手伝おうかな?

 将来、この家に嫁ぐわけだしね。



 §



 ラジオ体操の当番で近くの公園に着いた。

 小学生が沢山居ると思いきや疎らだよな。


「当番だから仕方ないが」


 すると公園の奥から美柑が来た。

 隣には充橘あきつも居るな。

 あの二人も当番として参加するようだ。


「あ! 恵の旦那だ!」

「おいおい。下野しものって呼べよ」

「旦那なのは間違いないじゃん」

「それはそうだが」


 元気なのは美柑だけか。

 充橘は低血圧なのか眠たそうだ。


「おはよう」

「おはよう!」

「おふぁ〜よう」

「眠そうだな?」

「実際に眠い」

「相変わらず朝が弱いんだから。朝練の時は元気一杯なのにね」

「仕方ないだろ。予選落ちしたんだし。今日は朝練が無いし」


 そういえば陸上部だったな。


「あれは先輩に盛られたからじゃ?」

「それでも予選落ちには変わりない」


 充橘は何気にストイックだよな。

 朝が弱くても朝練に出ているみたいだから。


(というか盛られたってどういう意味だ?)


 俺は疑問に思いつつ美柑に問うてみた。


「何かやられたのか?」

「あー。内部事情だから」

「それ以上は言えない」


 何故か苦笑で誤魔化された。

 外で語ってはダメな内容だったのかも。

 それを聞いた俺は呆れてしまった。


「なんというか部費削減に至る理由が存在していそうだな」

「「!? 部費削減!!」」

「あ、それはこちらの話で」


 生徒会の話なのでそれ以上は言えない。

 言えないのだが、


「どういうこと!?」

「ちょ、それ、聞かせてくれ!」


 何故か大興奮で詰め寄ってきた。

 俺は仕方なしで二人に問いかけた。


「そちらが言うなら言う」

「「うっ!」」


 事情を聞かずして話せない。

 最初は会長が一割削減としていたが、あれも俺の判断で五割削減を提示した。昨年の利用頻度から部費が残っている可能性を考慮して。

 部員が増えているなら分かるが部員が減っている事も気がかりだった。年々減る部員。

 減る理由は問題を抱えているからだろう。

 二人は逡巡しつつも相談し合う。

 理由を語り始めたのは困り顔の美柑だった。


「じ、実は部長の派閥は長距離走優先の派閥でね。他の競技の部員を蔑ろにしているの。副部長の派閥は他の競技者にも満遍なく練習させようとしているのだけど長距離優先が伝統で」


 伝統を守って結果が実らずとなったと。

 朝練が出来るのは長距離選手が遠征に出た時だけ。それ以外はグラウンドの使用許可を部長が出さず陸上部の顧問も丸投げ状態だという。


「顧問って誰だっけ?」

堅固けんご先生だな」

「おぅ。それはまた」


 運動と無縁そうな顧問が就いていた件。

 部長様がお殿様になって好き放題かよ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る