第28話 戸惑う言葉の応酬に撃沈。
都会のビジネスホテルに着いた。
今日から三日間、このホテル内にて私学の生徒会と共に企画した合同勉強会が開催される。
俺は会長達とホテルのフロント前にて、
「
「おう、久しぶりだな。
先に到着していた従兄こと
夕兄は私立高校の生徒会長であり三年生だ。
夕兄の顔立ちは伯父に似ていて厳ついが、強面顔で笑顔になるギャップを表に出す従兄だ。
今年は受験生ともあって日頃の鬱憤を晴らす目的で今回の合コンを打診してきた主である。
途中から合コンが勉強会に挿げ替わったが、
「今日から三日間、楽しもうな!」
「「「よろしく、お願いします」」」
「堅い堅い。気楽にな! 勉強は勉強、遊びは遊び! 切り替えていかないと疲れるぞ?」
「「「は、はい!」」」
「それなら一度、深呼吸して」
「「「すー、はー」」」
本来の目的を忘れていない大変柔軟性のある従兄だった。俺の見ている目の前で緊張気味の会長達を翻弄していたりな。
会長達が緊張している姿だけは新鮮だが、こればかりはどうしようもないと思う。
(テレビで良く見る教師がずらりだもんな)
中にはファンだという先輩も居るようだ。
従兄達はその先生から学んでいるので、いつもの事として受け流しているが、ウチの学校の生徒達からすれば雲上人のようなものである。
「それじゃあ、大広間に向かおうか」
「「「はい!」」」
「巡も行くぞ」
「はいはい」
ちなみに、夕兄の口調はフランクで年下の俺に対してもタメ口を強要してくる。先生の目がある時だけは真面目な対応に出るが、それ以外は極楽とんぼを絵に描いたような人物である。
顔立ちとのギャップがとんでもないよな。
大広間に着くと三年女子は圧倒されていた。
「イケメンが沢山」
「勉強が先、交流は後」
「でも気持ち、気になっているでしょ」
「うん」
俺の目から見てもイケメンが多いもんな。
「私達も巡君で見慣れているけど」
「ええ、ここまで揃うと壮観よね」
「分かります。その気持ち」
「そうか? 俺なんて平凡だぞ」
「「「ジー」」」
「なにか?」
「相変わらずだな。お前も」
「夕兄まで?」
俺の顔立ちなんて平凡なんだけどな。
俺達生徒会はぞろぞろと前に移動する。
そして夕兄が開式の挨拶を行ったのち、
「勉強会前に一度、昼休憩を入れますので各々で昼食を取ってきてください。近場には飲食店が多く点在しておりますので、事前に配布したしおりを見て選んで行ってください」
会長と共に注意を促していった。
「各自の荷物を預ける部屋は、二人一部屋となります。中にはダブルベッドだけの部屋もありますが、その点は了承してください」
人数が人数だからこの対応は仕方ないのだ。
この時期・・・お盆のシーズンにホテルの全室が押さえられた事が奇跡に近いしな。
但し、高額なスイートルームは除く。
(ホテルとしても満室だからウハウハかね?)
我が校からは二百人、夕兄の学校からは教師を含めて二百人が参加しているので、全室が埋まったとしても不思議ではないのだ。
部屋の割り当ては男子が二階から四階。
女子が五階から八階までとなっている。
九階から上は対象外だが。
俺と夕兄は同じ部屋へと移動して中に入る。
(ビジネスホテルと思ったけど高級ホテルにも見えるよな。ここも夕兄の紹介だからそういう認識で間違いないだろうが)
室内は驚くほどしっかりした造りだった。
ベッドは二つ、シャワートイレ完備。
冷蔵庫とテレビの利用は無料とあった。
中身は別料金で飲む人は自腹となるが。
すると荷物をベッドの端に寄せた夕兄が、ベッドに腰をかけ、ニヤニヤ顔で問うてきた。
「で? いつから付き合っているんだ?」
それは
先ほども『巡は彼女持ちか?』と聞かれたしな。一応と答えたら何故か呆れられたけど。
俺はおおよその時期を思い出しつつ答えた。
「一ヶ月前かな?」
「なんで疑問形なんだよ」
疑問形って恵が俺の家に住みだした頃だし。
それを思い出しただけなんだがな。
「それで、好きなのか?」
「好きではあるか、な?」
好ましい人物であるのは確かだし。
「なんで疑問形なんだよ」
「なんでって」
「じゃあ、俺が彼女に声をかけたらどう思う」
「声を?」
夕兄が恵に声をかける?
(つまり、恵の嫌な事をするって事か?)
恵は一学期の出来事で心が疲弊している。
それが最近では少しずつだが改善してきた。
(俺への遠慮はまだまだ拭えないが・・・)
少なからず男嫌いが治まりつつあるのだ。
そこへ傷を与えるのは何故か嫌だった。
思案した俺はボソッと呟いた。
「それだけは正直、嫌・・・だな」
「そうか」
そうかってどういう意味だよ。
夕兄はベッドから立ち上がり、
「まぁいいや。飯に行こうぜ」
部屋の鍵を持って廊下に出た。
恵の件はこれ以上は聞くつもりがないみたいだな。
「これは先が思いやられるわ」
「何か言ったか?」
「なんでも」
フロントで恵と合流した俺は夕兄と共に近くのラーメン屋に向かう。
その際に恵の表情が芳しくなかった所為か夕兄が思案しつつ呟いた。
「ふむ。これはどちらとも重傷だな」
「「はい?」」
重傷ってどういう意味だ?
俺と恵がきょとんとなると夕兄が表情を改めて問いかけてきた。
「一つ質問いいか?」
丁度、信号待ちでもあったので俺と恵は目配せして頷いた。
「交際しているんだよな?」
「「それが?」」
「息もぴったりかよ」
揃って答えたからって驚くことか?
「じゃあ、互いに好きなところを言ってくれないか? 先ずは巡から」
「恵の好きなところ?」
俺は思いつく限りだが、
「そうだな・・・」
恵の好ましい部分を口にしていった。
やたらと喜怒哀楽が激しいところ。
頭は良いが意外とポンコツなところ。
小柄なのに意外と柔らかいところ。
身体から漂う匂いも俺の好みだった。
その後も思いつく限り口にしていった。
俺が口にする度に恵が真っ赤に染まった。
握っている恵の右手も手汗で濡れていた。
「惚気かよ」
「そうか? 言えと言われたから」
それは思いつく限りの好みだ。
俺が好ましいと思っている部分だな。
だが、この時の俺は、それがどのような意味を持つのか、気づけてすらいなかった。
「まぁいいや。君は飯のあとで聞くわ」
「う、うん」
§
恥ずかしかった。
人が少ないとはいえ、信号待ち中に私の好きな部分を何個も口にされてしまったから。
(表情、地頭の良さまで好みだったなんて)
私の柔らかいところなんて何処の事だろう?
(おっぱいなのかお尻なのか?)
匂いが好みとか言われて反応に困った。
抱き枕としてベッドに置きたいと言われた時は想像して何故か嬉しかったのは内緒だけど。
私達は近くのラーメン屋に入った。
「俺は味噌ラーメンを特盛りで」
「俺はそうだな。豚骨、野菜マシマシで」
「私は豚骨、麺硬め、野菜多めで」
「好みまで同じかよ」
そういえば好みも似てるよね。
常日頃の食事が同じだからっていうのもあるけど、以前から似通っていたのは確かだった。
「そうか? 麺の硬さは普通だが」
「食べるのが遅いから伸びると思って」
「ああ、硬さを調整してもらったと」
私は席を確保してもらうと、
「ちょっと、お花摘みに」
「いってらっしゃい」
「恵、三分で帰ってこいよ」
「そんなウマウママンじゃないんだから」
「善処します」
一人でトイレに向かった。
§
それは恵が戻ってくる前のこと。
「で、あれだけ惚気たって事は好きなのか?」
夕兄がわけの分からないことを問うてきた。
「さっきライク的に好きだって言ったよな?」
「いやいや、あれは明らかにラブだろ?」
「ラブって何だよ?」
「ラブはラブだろ?」
ラブって。俺はライクの方だぞ?
人柄的に好ましいだけなのにラブに結びつけるのはどうなんだ?
「そんな有り得ない事を聞くなよ」
「有り得ないって」
なんで呆れられなければならない?
俺と恵の交際はあくまで偽交際だ。
利害関係で付き合っているだけだ。
夕兄は俺が機嫌を損ねても気にせず問うた。
「お前な、あれだけあの子の好きなところが言えるって事はお前が本気で好きだからだろ?」
「本気で好ましいとは思っている。だが、だからなんだって、話になるんだが?」
「おいおい。あれだけ抱き枕にしたいとか言っておいて、好ましいだけで済ますのかよ?」
「悪いか?」
「お前、まさか・・・本気で言ってるのか?」
「それが?」
「おぅ」
呆れを示す夕兄はそれ以上、俺に突っ込んでこなかった。これ以上聞かれても平行線だが。
すると俺と夕兄の会話を聞いていたであろう隣の女性客が割って入ってきた。
「男同士で恋バナすんな!」
「「
驚き過ぎて俺の機嫌がどこかに飛んでった。
女性客と思ったら夕兄の妹だった。
「私の憩いの場で、下らない会話しないでよ」
「下らなくないぞ? 愚妹よ!」
「愚妹って呼ばないで、愚兄!」
彼女は俺と同年代の従妹である。
近所の公立高校に通っている優等生だな。
(あらら、えらい美人に育ってまぁ)
伯母さんに似てきているんじゃないか?
黒髪ショートヘアにサイドテールは少し子供っぽいが、渚の背丈は恵と同じくらいかもな。
逆に胸と尻は恵以上の体型だが。
「何処見てるのよ」
「育ったなぁって」
「育ちましたよ。身長以外」
「相変わらずだな」
「誰かさんもね」
「うんうん。相変わらずだよな」
「愚兄は黙って」
「うっす」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。