第23話 やりきれないと思うよね。
その後、
それは俺と
「大嘘つきの大ぼら吹きと内申書に記すと?」
「いえ、もっと軽い処分ね」
「「もっと軽い処分?」」
そう、処分するには証拠が少なく、口頭でのやりとりでもあるため、仮に処分が出来ても厳重注意だけになるようだ・・・解せぬ。
「教師間で信用するなって扱いになったわ」
「それって狼少年みたいな扱いですか?」
「まさにそれね。どんな言葉を発しても他人を蹴落とす内容の時だけは信じるなって。特に私の事とか生徒会活動に関係する内容だけはね」
「なるほど、全員で警戒するって事か」
「それはなんというか、大変ですね?」
「ホントにね」
副会長は勝手に名前が使われた件で許せないと言っていたが、今回は証拠不十分が適用されたため、泣き寝入りする羽目になった。
(証拠でもあれば対処のしようはあるが?)
無ければ無いで作るとなると同類と見做されるので会長としてもそれは選択出来なかった。
「捏造者に捏造で返しても良いこと無いしね」
「あちらにとっては無駄な経験があるだけに」
「分がありますね。困ったもんだ」
何処かの誰かさんみたいに痕跡でも残していれば対処のしようはあるが、これが口頭だけのやりとりだけだと本当に面倒臭いと思った。
「まさに詐欺師ですね」
「「ホントそれ」」
「あちらが得るのは先輩の悲劇だけと」
「性格がひん曲がっているわよね」
「昔からあれですけどね」
「昔からあれって酷いな」
先天性のヤンデレ気質とでもいうのか?
すると店内に一人の女性が顔を出した。
「兄さん居る?」
しかも客なのに厨房へと顔を出した。
え? 兄さん? 誰の事だ?
(そういえばまだ開店前だぞ?)
午後営業前なのに何故入店したのやら?
その人は顔立ちからして上坂なんだよな。
どちらかと言えば年を取るとこうなる的な。
「あっ! 母さん!」
「「母さん!?」」
と、思ったら上坂の母親だった。
そういえば兄さんって言ってたから。
店長目当てで訪れたのか。
この人が母さんの親友で上坂
「そうなると
「「はい?」」
あ、これは本人達も知らなかったっぽい。
上坂の母親は俺達に気づいていたがスルーして店の奥に向かった。何用で店に来たのやら?
『おお、どうしたんだ? 急に? 帰国するとか聞いていないが?』
『
『はい?』
はい? 店長と同じく俺達もきょとんだ。
「離婚?」
「嫌気がさしてって、何したの?」
「さぁ? 私も分かりませんよ」
上坂にとっては寝耳に水。
困惑が顔にありありと出ていた。
『い、一体、どうして?』
『自分の娘じゃないからって、なんで愛さねばならないって。すっごい酷いと思わない?』
『ああ、それで嫌気がさしたと』
は? ちょっと待って?
「え?」
上坂は表情が困惑のまま固まった。
『なので本日より
『き、急だな、おい?』
マジで急だな。
(というか、そうなると?)
上坂改め上野と、響さんの関係は?
「恵って、響さんとは義兄妹か」
「・・・」
信じられないって表情だ。
兄妹だと思っていたからだろうが。
先輩も困惑しているが、
「それってつまり? ああ、気まずい理由が分かったわ。彼、知っていたのね。義妹だって」
例の相談で腑に落ちたらしい。
目の毒的な相談を受けていたもんな。
年の近い女の子が裸でうろうろとか。
流石の俺でも耐えられるか分からない。
「そうなると、義兄に素肌を魅せていたのね」
「ボフッ」
「あらら。首まで真っ赤だわ」
「これは仕方ない。知らないからな」
涙目で真っ赤に染まった上野。
あまりの恥ずかしさに俯いてしまった。
(先輩と名字が被るから今後は恵と呼ぼうか)
利害での交際だから口では名前を呼んでいたが、こうなると思考の方も名前が良いようだ。
『ところで何処に住むんだよ?』
『ここに決まってるじゃない。私の部屋はまだ有るでしょ?』
『あ、有るには有るが・・・』
『恵の事なら心配ないわよ。知ってるでしょ』
『それはまぁ。でも仕事はどうするんだ?』
『明日から本社勤めになるわ』
『本社勤めって、
『理由を話したら、帰って来いって言われた』
『なんだ、知っているのか』
ああ、母さんも離婚に関与していたと。
(というか本社って、母さんの事務所ってそんなに大きかったのか。海外支部があるほどに)
やり手やり手と思っていたが、経営者としてもやり手だったか。油断出来ないな俺の母は。
すると先輩が疑問気に質問してきた。
「
「俺も母さんがやり手弁護士で、事務所を経営してるとしか知りませんよ。事務所を継げとも言われてませんしね?」
「そうなのね」
本当にそれだけしか知らない。
親父の事も元キャリア組だった事までしか知らないし。階級を知ったのは最近だしな。
俺の両親は仕事を持ち帰らない主義だから。
一応、問えば言える範囲で教えてくれるが。
あくまで守秘義務の範疇に含まれない内容までになるがな。俺が当事者だった時は割と教えてくれるが、それ以外は基本、口が堅いから。
すると先輩が思い出したように、
「というか、恵ちゃんって育つのね」
恵に問うた。
真っ赤なまま状況が読めていなかった恵は壊れたロボットのように俯いていた顔をあげた。
「そ、育つ、とは?」
「おっぱいよ! なんなの、あの大きな胸!」
確かに大きかったな。
だが、それだけだ。
「恵ちゃんの将来ってロリ巨乳なの?」
「え? そ、それは、分かりません」
「おかしいと思ったのよね。急に育ったから」
「そ、それでもBですって」
「今後も育つって事でしょ?」
「それは、分かりませんよ」
先輩は何を思ってその話題を振ったのか?
「いいなぁ〜。従妹と知って胸が似ると思ったのに別物なんだもの。上野家の血よ、蘇れ!」
「「そんな無茶な」」
「無茶でもいいの! 少しでも育て私の胸!」
流石の恵も先輩の謎挙動に苦笑した。
真っ赤だった顔も元に戻った。
(なんだ、先輩は空気を変えたかったのか?)
両親の離婚で混乱していたから。
彼氏の妹分が本当の妹分だったから。
先輩の中の庇護欲が働いたのかもな。
俺は「育て! 育て!」と言っている先輩に苦笑しつつ、以前の事案を蒸し返す事にした。
「店長に聞かれたくないから、小声で言いますけど、先輩も少しはありますよね?」
「「ふぁ?」」
「前のめりになった時、膨らみがありました」
これくらいと、片手で大きさを示して。
「え? そ、そう? そんなにあった?」
「というか、なんで覚えてるの?」
忘れたんじゃないの?
というジト目を向けられてしまった。
俺は言ってしまった以上は覆らないと思い開き直る事にした。
「忘れられる訳がない。魅力的過ぎたから」
「「ボフッ」」
今度は先輩も一緒に真っ赤になった。
その後、先輩は自宅からメジャーを取ってきて、恵にお願いして更衣室で大きさを測った。
それは営業時間前だったが、
「育ってた! やったぁ! 蘇ってた!」
「良かったですね。先輩、無事にAですよ」
「うん。うん。良かったよぉ!」
色んな意味で元気になった先輩だった。
おそらく下着を買った時から測っていなかったのだろう。恵も測っていなかったらしいし。
「永久絶壁と呼ばれなくなって良かったぁ」
§
両親が離婚した。
私は父の子では無かった事も知った。
愛情を注がなかった理由はそこにあったと。
「本当の父さんは殉職していたなんて」
私の父は下野君のお父さんや店長と仕事をしていた時に、子供を助けて亡くなったという。
それは私の誕生日であり、母さんもショックだったらしい。年に一回、帰国しては誕生日を祝ってくれたのも墓参りの一環だったようだ。
父の戸籍は
それもあって私の戸籍は上野になるという。
兄さんとの関係も義兄妹と知った。
「まさか他人に裸をみせていたなんて」
気まずい思いをさせていたと知って、お詫びのメッセージを送ったら、気にしていないと返事があった。今後は先輩を介した親戚になるので引き続き付き合っていく事になるだろう。
「巡君に魅力的過ぎたと言われた時は嬉しかったけど・・・やっぱり恥ずかしいよぉ」
こればかりは仕方ない話だが、兄さんが他人と知ってから急に羞恥心が目覚めるというね。
それと翌日から私の姓は上野になる。
学校等の手続きは母さんが行うので丸投げしたが、先輩との関係を問われそうで恐かった。
「義妹、義兄さんの近くに居た女、か」
先輩の耳に入るのは必定で、
「巡君との関係があるから、手出しはしないと思うけど、何が起きるか分からないよね?」
だから余計に油断が出来ないと思った。
「て、今はそれどころじゃないのに、なんでこんな事をいちいち思案しているの、私!」
課題を全部片付けないといけないのにね。
「恵、独り言が多い」
「ごめんなさい」
隣で課題を片付ける下野君から叱られたけど、どうしようもないよね。こればかりは?
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