第21話 上手くいってる時は危険。

 夏季休暇に入った。

 生徒会役員になった私達は定期的に登校して目下の懸念である三年女子の対処に追われていた。今日は夏季休暇中に行われる試験行事に時間が取られているだけだけど。


「当日のスケジュールが出来ました」

「授業内容の確認もお願いします」

「希望者の名簿、ホテルの予約確認も」

「はいはい。順番に見るから少し待って!」


 告知は終業式の前日に行い、一名あたりの参加費は九千円となった。これは男子校の生徒も含む金額であり会場は都会のビジネスホテルだ。

 移動はバスをチャーターして向かう予定だ。


「スケジュールは問題ないわね。先方と顧問にも送っておいて」

「分かりました」


 ちなみに、代金は接待費で立て替えて参加費から回収する事になっている。ここでキャンセルが出たら赤字となってしまうがキャンセルすると教師の心証が悪くなると注意書きを入れているので病欠しない限り参加するだろう。


「授業内容も問題無いわね。こちらも先方と顧問、あとは専科の先生方に送っておいて」

「承知しました」


 それとこの勉強会は専科の先生方も参加する事になり有名校の教師の授業を体験する手筈となっている。教員研修の名目もあるね。

 私達生徒会の面々は自腹での参加するけど。

 主催者として男子校の生徒会と共に代金とかスケジュール管理をしないといけないからね。

 会長は副会長に手渡された名簿を確認する。


「イケメン率が高い学校として有名だからか女子は全員参加ね。それ以外の男子は純粋に男子校の学力が気になっている人達が集まったと」

地利ちり先輩だけは入っていないわよ」

「あらら、地利先輩は含まれていないのね?」

「あの人はいつまでも上坂かみさか先輩一筋だもの。どうしようもないわよ」

「いい加減、横恋慕はやめて欲しいのだけど」


 先輩達が貶している三年女子の先輩。

 地利先輩こと九頭くず地利美ちりみの名前と顔には私も覚えがあった。

 そばかすのある普通顔だと記憶している。


めぐみは知り合いか?」

「どうしたの急に聞いてきて?」

「名前を聞いた瞬間に嫌そうな顔したから」

「ああ、うん。中学の先輩だったからね」

「それでか。何かあったのか?」

「兄さんの周りでちょっとね」


 私の燃えてしまった家に小学生の頃から顔を出していたんだよね。目的は兄さんだった訳だけど大変鬱陶しいストーカー兼ヤンデレ気質が災いして嫌われていた事を覚えている。


「ス、ストーカーだと?」

「兄さんに嫌われているのに好かれていると思っている、お花畑な困った先輩なんだよね」


 高校進学も兄さんを追って生徒会入りしたのち、一期だけの生徒会長になった。

 普通にしていたらまともなのだけど兄さんが絡むとボロボロになり人気は地に落ちた。

 妃菜ひな会長が選挙で勝ったのは、たなぼた感もあるだろう。選挙公約のアルバイトの自由化を掲げた事も要因なんだけどね。


「とんでもない人が生徒会長だったんだな」

「私も兄さんから聞いて知ったけどね?」

「そうなのよね。とんでもない先輩なのよ」

「そうね。先の公約は確か・・・?」

「恋愛の自由化ね。校内での性交渉も可とする公約を掲げたから一部の男子の人気は出たけど二年以外の女子達からは総スカンを喰らって」

「結果的に妃菜の選挙公約に乗った人が多かったわね。あれも連続だったのよね」

「先生が止めろって言っても聞かなかったらしいわ。お陰でお堅い先生が堅くなるだけでね」

「とんでもない人が生徒会長だったんだな」

「大事な事だから二度言ったの?」

「むしろ大事になりかけたって意味で」

「「「そっち!?」」」


 その公約は夏季休暇明けには施行されるようで、上位四十人縛りは事実上無くなるのだ。

 但し、極端に成績が下がったり赤点を頻発する生徒は必然的に除外となっている。

 そうして準備は全て終わり、


「あとは本番に向けて鋭気を養うだけね」

「会長は兄さんの家にお泊まりですか?」


 生徒会室を施錠して昇降口に向かった。

 下野しもの君だけは職員室に寄っているので昇降口で合流する予定だ。


「一応、日帰りのつもりではあるけどね」

「一人だけ温泉いいなぁ」

「ワンワンは彼氏と入浴剤でしっぽりすればいいでしょ? 先輩、帰国してきてるでしょ?」


 へぇ〜、檸檬れもん先輩の彼氏って留学しているのね。初めて知ったかも。


「温泉地の湯に浸かりたいのよ。私って、ほら? 胸が大きいから。肩が凝ってね〜」


 檸檬先輩は胸を張ったのち肩を叩いた。


「お湯に浮かせたいのよ。Eカップの胸を!」

「「カチン」」


 これは喧嘩を売ってるのかな?

 会長の目もキランって光ったね。


「恵ちゃん?」

「はい、会長」


 私と会長は笑顔で目配せし、


「「要らないなら捥いであげますよ!」」


 両手を前に掲げて指を素早く動かした。


「そこで一致団結しないでよ!」


 要らないみたいな言い方するからじゃん。

 すると職員室から出てきた下野君と目が合った。


「はぁ〜」


 何故か大きな溜息を吐かれてしまった。


「「その溜息は何なの!?」」

「後輩に呆れられる無乳乙!」

「ワンワンが余計な事を言うからでしょ!」

「言っておきますが無は会長だけですから」

「恵ちゃん、急に裏切らないでよ」

「私は会長みたいに永久絶壁ではないです」

「永久絶壁って言わないでよ!?」

「私は貧乳なだけですから!」


 自分で言ってて、すごく悲しいけど。

 すると下野君は首を横に振りつつ、


「違います。顧問が会長をお呼びです」


 意味深な一言を会長に伝えていた。


「私?」

「どうも、のっぴきならない状態みたいで」


 のっぴきならない状態?

 それってどういう意味だろうか?

 会長は怪訝な顔をしつつも職員室に入っていった。下野君は会長を見送ると、私と檸檬先輩に手招きして中庭へと連れていった。

 下野君は難しい顔のまま空を見上げる。


「一体、何があったのよ?」


 焦れた檸檬先輩が問うと、


「どう言えばいいでしょうか?」


 下野君は言葉を選びながら語り始めた。


「勿体ぶらないで教えなさいよ」

「実はですね。以前の打ち合わせ時の事で」

「打ち合わせ時? それって男子校の生徒会長が訪れた日の事よね?」

「ええ、見送りを会長が行ったのですが」

「そうね。私達は忙しかったし」

「それを目撃した者がある事ない事、お堅い先生に告げ口しまして・・・中止になるかもと」

「「はぁ!?」」


 それってどういうことよ!?

 あれだけ苦労したのに中止とか!


「単に打ち合わせしていただけでしょ?」

「外聞が悪い的な告げ口だったんですよ。従兄に確認したら単に手を繋いだだけだったのに」

「手を繋いだだけで外聞が悪い?」

「それは説明したの?」

「しました。ですが、お堅い先生。堅固けんご先生は聞く耳を持ちませんでした。俺が親戚だから守っているとか妄言で返されまして」

「あー、あの行き遅れ共なら、そうなるかぁ」


 我が校の教師で行き遅れは二人居る。

 一人は堅固すう先生。

 三年の数学教師。

 一人は望弦もうげんはな先生。

 三年の英語教師。

 両者共、女性であり頭が堅いことで有名だ。

 私は告げ口した者の名を問うてみる。


「それで誰が告げ口したの?」

「九頭先輩だ」

「マジで? ここで邪魔するの?」

「マジで、退学にならないかしら」


 ヤンデレがお堅い勢に告げ口と。

 私も他人事ではないので関わろうと思った。


「職員室に行ってきます」

「「え?」」


 だって、私の兄さんとイチャラブする会長が他人に興味を持つ訳ないじゃん。

 私はきょとんとする下野君と檸檬先輩を放置して職員室に向かったのだった。



 §



 職員室の一角では会長と行き遅れ先生達が口論していた。


「ですから、それは有り得ません!」

「どう有り得ないのか説明なさい!」

「それが出来ないと許可は出せませんよ?」

「なんでこう会話が成り立たないのかしら?」

上野うえのさんは私達をバカにするのですか!」


 いや、バカじゃん。

 ここまでバカな教師達も居るんだね。

 私は神野こうの先生の近くに移動して口論を眺める。


「何というか、悪い教師の見本ですよね。自分の考えを押し付けて生徒の自主性を奪うって」

「上坂さん。それを言ったらダメよ?」

「でもこれ、本当の事ですよね?」

「それはまぁ、分かるけどね」


 会話が聞かれていて、睨んできたけど。

 なので私は内々の話をここで振る事にした。


「それと先生知ってます?」

「どうしたの?」

「上野先輩って婚約してますよ」

「はい?」

「「!!?」」


 あ、先生達が驚いてる驚いてる。

 暴露された会長は顎が落ちてるね。

 私は畳みかけるように続きを語る。


「私の兄と卒業後に結婚するんですよ。法律でも十六才から結婚出来るじゃないですか? そんな人が他人に懸想するっておかしいですよ」

「それを言われたらそうよね」

「それとですね。異性と握手しただけで不純異性交遊になると伺ったのですが、卒業式の日に兄を含む教え子達と握手した先生方も未成年の男子と不純異性交遊した事になりますよね?」

「確かにそうね?」

「「!!」」


 すると会長も不敵に笑い、話に乗った。


「先生達の理屈を通すとそうなりますよね。卒業前の教え子に手を出すなんて、教師の風上にも置けないですね。教頭先生?」

「我が校には相応しくない教師ですね」

「「なっ!」」


 というかいつの間に教頭先生が?


「一瞬、用務員の先生かと思った」

「園芸部の顧問なのよ。教頭先生って」

「なるほど」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る