第20話 結果が出てからが忙しい。

 試験期間と期末考査があっという間に過ぎ去った。日々の生活に追われている中での試験勉強は大変だったが下野しもの君の協力もあってか燃えた家で勉強するよりも捗った。


(あれも結局、一人は寂しいってことだったのかもしれないね)


 勉強会では付きっきりで分からないところを教えてくれたり小腹が空いたら焼き菓子を振る舞ってくれたりで大変居心地が良かった。


(卒業まで同じような生活が出来ると思うと不思議と楽しいと思えたよね。幸せっていうか)


 下野君のお父さんも気さくな男性だったし、お母さんも優しかった。どちらも仕事中は厳しい表情をされる方達だけど家では別だった。


(お二人の雰囲気を見て私も同じような家庭を築きたいと思ったよね。夫婦喧嘩は除く)


 夫婦喧嘩は口論から始まり最後は六法全書が下野君のお父さんに飛んでった。それを見て下野君のお母さんは怒らせたらダメだと思った。

 下野君から『あれは鈍器だ』と言われた時は『そういう代物ではないよ!』ってツッコミを入れたよ。でも武器になるのは違いなかった。

 そんな一幕が試験期間で行われ、遂に本日試験結果が張り出される事になった。

 張り出される場所は階段近くの掲示板だ。

 下から順に四十位から名前が出てくる。


五味ごみは欄外か。まぁ仕方ないわな」

「あれだけの悪事をしたからな。生徒会が悪いような言い草があったけど、横領した奴が悪いだろうに。今のPTAは頭がおかしいよな」

「そう言うが、お前も俺も」

「それは言うなよ。俺は一回きりで損したし」

「まぁな。なんであんな馬鹿げた事に手を貸したんだか? 金に釣られたのかね」

「高校生にとっては大金だからな。こればかりはどうにもならんよ。バイトの許可は上位四十名だけだし。成績が落ちたら取り消されるし」

「だな。俺は今回も四十位以下かぁ」


 先んじて結果を見ている男子達は一喜一憂していた。人集りが収まるまでは見られないね。

 上位者の名前は奥に記されているので人が減らないと向かえないでいた。

 すると一緒に登校してきた下野君が何を思ったのか私の右隣から耳打ちしてきた。


「今日はショートパンツを穿いてるか?」

 

 ひゃっ。耳がこそばゆい。

 私は自分の耳が弱いと今知った。

 そうではなくて!

 顔だけで振り返った私は赤い顔で首を横に振った。

 私の反応を見た下野君。

 急に思案気になり、周囲を見回して動いた。


「そうか。まぁいいか。ちょっと失礼するぞ」


 下野君はそう言って私の背後に移動した。

 そのまま屈んで・・・え? 私の両脚の間に頭を突っ込んだ。ちょ、ちょっと、それは!?


「え? え? え?」


 スカートを巻き込んで立ち上がる下野君。

 身体中が真っ赤に染まる私に気づく事なく、


(か、か、肩車って。えーっ!?)


 奥に向かって歩き出した。

 見えないなら見えるように連れて行けばいい的な行動だよね、これ?


(パ、パンツが・・・見え)


 それよりも私の太ももに下野君の両頬が触れていて少しこそばゆかった。


(あ、でも、意外と、嫌じゃ、ない?)


 下野君の肩はガッシリしていて後ろに倒れる恐怖心と心配が消え去った。何より私では見えなかった上位者の名前がはっきりと見えた。

 下野君の背丈でもギリギリの高さだけどね。


「あっ」

「あらら、満点ならず、か。答案が戻ってきたら復習だな、これは」


 結果は二位。一位陥落だよぉ。

 一位は下野君。点差は三十点以上あった。

 結果を知ったあとの下野君はゆっくり屈んで私を床に降ろした。あ、なんか少し寂しい。


「教室行くぞ」

「う、うん」


 すると途中ですれ違った美柑みかん達から私達は揶揄われた。


「朝っぱらからイチャイチャが凄いね?」

「え、イチャイチャ?」

「うん。股座に入るところからバッチリと!」

「み、見てたのぉ!?」

「交際しているから出来る事よね、あれも?」

「だな。交際していなかったらただの変態だ」

「へ、変態? あっ」


 恥ずかしくて顔から火が出そうだよ。

 下野君も何故かそっぽを向いているし。


(あ、耳が真っ赤だ)


 下野君も自分が何をしたか理解したっぽい。

 私は股座に右手をあてがい俯いた。


「うぅ」

「私もされてみたいよ、肩車。ね、充橘あきつ

「お、俺に言うなよ。お前、重いし」


 それは男子のクラス委員。

 美柑の彼氏、真野まの充橘あきつ

 二人揃って柑橘コンビと呼ばれている。

 所属は陸上部で美柑のお尻に敷かれている。

 顔立ちはイケメンの部類に入るだろう。


「重くないよ! 五十キロ未満だし!」

「恥ずかしくないのかよ。自分の体重を人前で晒して? 女子としての品性を疑うぞ?」

「うっ。ア、アンタが言わせたんでしょ!」

「理不尽だ!」


 美柑という彼女が居なければモテモテだね。

 美柑も美少女に類するから例の告白行列の対象になっていても不思議ではなかった。

 だがあれは私が標的だった事案だったけど。

 後から知って半日だけショックで寝込んだのは言うまでもない。なお、私の私物は下着と体液まで含まれていたと知って恐ろしかった。


(私の鼻水ティッシュを奪い合う男子。ゾッとするよ)


 今、思い出すだけでもゾッとするよね。


「痛い痛い、やめろって! 髪を引っ張るな」

「仮にハゲても私が責任を持って結婚してあげるわよ。あー、恥ずかしかったぁ!」

「肩車を俺達に見られた、この二人の方が恥ずかしいと思うが?」

「それとこれとは次元が違うでしょ!?」

「単に美柑が自爆しただけだろうが!」

「う、うっさい!」


 ゾッとしたけど隣で乳繰り合うバカップルを見ると途端にアホらしくなるね。

 なので私はお返しとして二人を揶揄った。


「イチャイチャって言葉、そっくりそのまま返すよ。朝から甘ったるい空気、ごちそうさま」

「俺もブラックコーヒーを飲みたくなったわ」

「「あっ」」

「教室に着いたら自販機に行く?」

「そうするか」


 私と下野君が今にも砂糖を吐きそうな素振りをすると美柑達はバツの悪そうな顔になってそそくさと結果を見に行った。


「「し、失礼しました」」


 すると見送った下野君がボソッと呟く。


「あの二人、夫婦漫才か何かか?」

「ぷっ。それを言われるとそうかも。陰では柑橘コンビって呼ばれているし」


 教室に向かいながら美柑達の話題に盛り上がった。


「ほぅ。柑橘コンビ・・・文化祭で漫才させたらウケるかもな、きっと」

「漫才・・・いいね、それ!」

「コンビ名はそのまま柑橘でいいだろ」

「良いと思うよ。軽音部の前座で」

「それなら前説としてもいけるな! クラス委員だし役職持ちとして引っ張りだせるはずだ」

「あとで先輩達にも相談だね?」

「ああ。楽しくなるぞ」


 ちなみに、文化祭の行事も少しずつ決まってきている。それは大まかなタイムテーブルなどを決めたりと忙しくなっているのだ。

 人手はあればあるほど良いのだが目下の懸念は三年女子の動向だけである。文化祭でどのような働きをするかが不可解なんだよね。


(企画書は審議中だし、どうなることやら?)


 どうも妃菜ひな先輩が当選する前に居た三年女子の前会長が陰で動いているようで彼女が妨害行為に及びそうでヒヤヒヤしている。


(風当たりが強い原因は私の兄さんが原因でもあるから他人事では済ませられないよね)


 とはいえ一年生に出来る事など、たかが知れていて、当面は議事録を残す事だけに注視するしか無いだろう。書記としてのお仕事だしね。



 §



 昼休憩時、生徒会室の扉を開けた瞬間に妃菜会長が大声を張り上げてきた。


「企画が通ったわ!」


 俺が従兄から願われて提案した企画だな。

 それを知った俺は詳しい事情を聞いてみる。


「とりあえず、詳細を詰める前に改善事項を確認させて下さい」


 企画を通すだけなら簡単だ。

 合同勉強会を銘打って企画を投げたから。

 会長は固まり、副会長は頬が引き攣った。


「あっ」

「やっぱり気づく?」

「ええ。問題は公序良俗に反しているかいないかの点だけですから」


 真の目的。それだけが俺も気がかりだった。

 相手は私立の男子校。

 多くの現役を送り出した有名校だ。

 それであっても、お堅い教師陣がどうみるかが不確定要素でもあったのだ。

 従兄には企画書を出した事を事前に伝えており男子校ではスムーズに企画が通ったらしい。

 こちらはそうは問屋が卸さない・・・だった。


「女子限定としたのが不味かったみたいでね」

「お堅い先生がどうにかしろって言ってるわ」

「とりあえず、従兄に聞いてみましょうか?」

「そうしてくれる?」


 俺は従兄にメッセージを打つ。


「というか、話が通っていたのね」

「今回は片方だけでは意味が無いので。交流会とするのです、示し合わせは必要でしょう?」

「「確かに」」


 やはりというべきか男子校でも同じ懸念が出ていたらしい。なので異性限定を無くしても良いとの話になっていた。

 純粋に男子との交流も行いたかったようだ。


「問題無いですね。男女問わず交流したいと」

「「それって?」」

「無事に改善が出来ますね」

「「やったぁ!」」


 なお、合コンは仲良くなった後でも可能らしい。タダでは転ばない出来る従兄だと思った。


「直ぐ、修正して再提出ね?」

「企画が通り次第、打ち合わせしないと!」

「参加費も決めないとね!」

「そこはあちらとの協議ですよ?」

「それもそうね!」

めぐみちゃんも手伝って!」

「は、はい!」




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