第19話 処分の結果に疑問視した。

 五味ごみ葛生くずおの処罰が決まった。


「甘くね?」

「甘いね?」

「甘いわね」

「甘すぎる」


 学校としてもあまり表沙汰にしたくない事案だったためか停学六ヶ月の刑に処された。

 退学とせず停学だ。それも刑事罰にはならない罰が下されたのだ。理由を見るとPTAが動いたとあり生徒会の判断ミスを突いてきた。

 まぁあれだ、PTA会長が五味の親だったわけだ。親がクズなら、子供もクズってな。


「というかPTA会長の教育が悪いと言っているようなものだろ? 善悪の判断がつかない子供だからとか。そんなサイコパスを放つなよ」

「言っているようなものよね。判断ミスは私も認めるけど、初見でその人物の性格なんて見えないわよ。超能力者ではないのだから」

「とりあえず六ヶ月後に登校だと事実上の留年ね。来年度の新入生達が可哀想になるわね」

「そうね。来年の一月以降に顔を出すから、じゅん君達は特に警戒しないといけないわね」

「これのお陰で妃菜ひなの再選は厳しいものね」

「ぐぬぬ」


 処罰が決まるまでおよそ三週間を要したが、その間の職員会議とPTA会議で二転三転した事が分かる。教師は刑事罰を求めたがPTAが厳しすぎると反論した形だろうか。一応、子供が使った金はPTA会長が自腹で返金したので金で解決した風になるのかね、知らんけど。

 すると上坂かみさかが掲示板を眺めつつ呟いた。


「これ、裁判で言うところの執行猶予では?」


 執行猶予か。そういう文章は書かれていないが裏で取り決められていても不思議ではない。


「刑事罰付きの退学、執行猶予は六ヶ月か」

「初犯と生徒会のミスで情状酌量があったと」

「でも、連続で巻き起こった一年生の大問題が解決したと思ったら首謀者が甘々で処されただけって事が何かモヤるわね」


 副会長の言う通り全員が同じ気持ちだ。


「学校も知名度低下を恐れたんでしょうね。来年度の入学希望者が減ると困りますし」

「不祥事なら不祥事で首謀者を学校と無関係にする方が手っ取り早いと思うけどね。私は?」

「再教育で改善出来ると判断したのかもね」


 いや、再教育で改善出来るのか?

 善悪の判断がつかないクソガキだ。


(教育はうるさい癖に放任主義の親だったなら子供の言葉を信じて騙されるだけかもな?)


 で、同じ事を繰り返して親子共々社会的信用が消え去ると。それを相手の所為にするまでがセットなので大変面倒くさい親子である。


「今回は形跡がまるっと残っていたから判明したけど次は消してくるだろうな、きっと」

「次に行うのであれば警戒して行動するでしょうね。ただまぁ次にバレたら刑事罰だけど」

「意外と自信家だからやらかしそうな気も?」

「窮鼠猫を嚙む、か。追い詰められた五味が上坂ちゃんに嚙みつくと。まさに鼠と猫よね?」

「あー、糸目の鼠と猫顔と。言い得て妙ね」

「なんでですかぁ! 嫌ですよ、もう!」

「この六ヶ月の間は警戒して巡君と行動を共にしないとね。女子トイレは除く」


 いや、風呂と客間もあるんだが?

 会長と俺達しか知らないから言わないが。

 ちなみに、今は翌週より行われる期末考査に向けての試験期間である。この期間は部活も生徒会活動も止められておりバイトなども通常より短い時間しか働けなくなるのだ。


「さて、教室に移動しますか」

「そうね。今回こそは妃菜に勝たないと」

「どうかしらね。ワンワン?」

「というか、私が中間考査で泣き喚いてから続く、そのあだ名は止めて欲しいのだけど?」

「泣かないよう頑張ったらいいのよ」

「うぐぅ。この永久絶壁が!」

「永久絶壁って言わないでよ!」

「ところで胸は育ったの?」

「うっ。め、めぐみちゃんの胸だけが育った」

「ちょっと、先輩。何を言って?」

「それなら相変わらず平面のままと」

「う、うっさいわね!」


 女子の生々しい会話が目の前で行われるのだが、これは聞いていて良いものなのだろうか?

 先輩と上坂の素肌を思い出してしまうので、


(いたたまれない!)


 少々、腰が引けた俺であった。

 あれは忘れようにも忘れられないよな。

 生々しくて。薄い人と無い人と。

 その人達が前方と隣を歩いてる。


「どうしたの? 歩き方がぎこちないけど」

「今は聞くな」

「あー、なんというか、どんまい?」

檸檬れもん先輩の気遣いは無用ですって」

「どういう意味?」

「恵ちゃんは純情なままで居てね」

「穢すのは下野しもの君でしょうけど」

「穢す? どういう意味なの?」

「それを俺に聞くな」

「言葉一つで危険だものね?」

「付き合っていても男子はね」

「?」


 上坂って意外と初心なんだよな。

 性教育は受けているのに何処かズレる上坂。


(これは純粋に勉強一辺倒だった弊害かね?)


 俺も似たようなものだけど周りのお陰で知識だけはあるからな。耳年増妃菜先輩と同じく。

 俺達が自分達の教室に着くと、


「「あれ?」」


 ギャルの席に赤縁眼鏡の女子生徒が居た。

 それも奇麗な姿勢で座っていたのだ。

 上坂は先に着ていた檸檬先輩の妹に問いかける。


「おはよう、美柑みかん

「おはよう! 今日も旦那とデート登校?」

「そうだよ。ところでアレは誰?」

「アレ?」

「気のせいだとは思うんだけど、杜野もりのさんかな?」

「多分?」

「多分って」

「私が着た時には居たからさ」


 それがギャルなのか自信がないと。

 すると美柑はコソコソと屈んで、机の真正面で止まり、眼鏡女子の両膝をガバリと開いた。


「!!?」

「紐パンだから杜野で合ってる!」

「他の方法で確認出来ないの!?」

「大開脚が常だったし手っ取り早いかなって」

「いや、それは分かるけどさぁ?」

「・・・」


 杜野は身体がプルプルと震えており、耳まで真っ赤になっていた。羞恥心が復活か?


「白い紐パン、ぐっじょぶ!」

「み、見ないでよぉ」

「見られ慣れてるでしょ?」

「慣れてない。内心、ドキドキ、だったし」

「「「はぁ?」」」

「だ、男性経験は、まだ無いし」

「「「はぁ〜!?」」」


 これにはクラス全員が目だ点だった。

 流石の美柑も机をバンッと叩いて問うた。


「冗談でしょ? 冗談だよね?」


 杜野はビクッとしオドオドと答えた。


「冗談、では、ない、です。五味、君に、脅されて、演じて、いた、ので」

「お、脅されて?」

「私、妾の子なんです。それをネタに脅されていて、父も彼の言う事に聞かざるを得なくて」

「そ、それじゃあ? 普段からの言動って」

「演技です。中間考査は十番台に入ってます」

「それで、単位の脅しに忠実だったんだ?」

「ええ、まぁ。父も私の勘当と同時に暴露したので脅しのネタには使えなくなりましたが」

「それで戻ったと」

「はい」


 やっぱり奴は相当なクズみたいだな。


(これは母さんに問うてみるか? 今は事務所に居る時間だから大丈夫だろ)


 俺はスマホを取り出して簡潔に問うてみた。

 結果は証言通りだった。なんで知っているのと返ってきたので、本人が自白中と返した。

 これには溜息のスタンプが届いたな。

 すると上坂が真剣な表情で問いかけた。


「ところで窃盗は?」


 これは当事者としての質問だな。


「それも指示でした。結局、切り捨てられてしまったので、報復しようと叫んで、父に勘当を提案して・・・」

「暴露したと?」

「そうなります」


 警察もそこだけ切り取ったと。

 悪態を吐いたのはクズに対してだったか。

 絶滅危惧種の動きが早すぎたもんな。

 準備万端って感じだったし。

 報復以前に計画していたのかも。

 裏切りを予測して政治生命を絶たせるつもりで。そうなると、あのクズは一生治らないな。

 これは要警戒しておく方がいいだろう。


(一度嚙みついたら離れない鼠かよ。まさに窮鼠猫を嚙むだな。上坂という猫娘が相手だが)


 結果的に事件の真相が露見して脅された側の処分は無くなり、脅した側の処分だけが言い渡されたと。それも滅茶苦茶甘い罰だから頭痛が痛い状態になりそうだ。間違いをわざと言いたくなるくらい酷いという意味で。



 §



 私は杜野さんと和解した。

 事情が事情なのでどうしようもないしね。

 なお、男子と女子の問題児の残りは停学中なので教室には居ない。居たら裏切り者と叫ぶだろうからね。いじめが起きないよう注意だよ。

 女子達のいじめに関してはファンクラブが行っていたらしい。先のいじめはトイレに入った後にバケツの水をかけられたそうだ。

 次に靴の紛失、体操着破り、水着に穴。

 鞄に蝉の死骸等のいじめに遭っていた。

 財布の中身は奪われクレジットカードも最大まで利用されたそうだ。あの子達も相当な悪党と知った私は別の意味で警戒しようと思った。

 すると美柑が蜜柑を食べながら呟いた。


「ファンクラブというか類友会だよね、アレ」


 早弁するのはいいけど後が辛くなるよ?

 陸上部の部員だから仕方ないだろうけど。


「まぁ犯罪者の巣窟から出られただけ」

「うんうん。マシだよね」

「我が校にはまともな生徒は居ないのかな?」

「居るには居るよ。誘導されやすいだけで」

「それは美柑も含む?」

「そうそう。私も含・・・まないよ!」


 ちっ、乗ると思ったのに。でも、


「途中まで誘導されたから含むでしょ?」

「うぐぅ」


 美柑の言うとおり、男子も女子も誘導に弱い事が判明したね。例外は下野君くらいかな?

 他人とは違う視点で物事を見てるから。


(私も隣に立てるように努力しないと、ね)


 ん? 利害関係での交際のはずだよね?


(なんで、努力を意識しているんだろ、私?)




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