第18話 心境の変化に戸惑ったよ。
会長と副会長と
(何があったの?)
直前では下野君が不可解な行動を始め、会長達が下野君のスマホを見て激怒していた。
そしてパソコンの前に座り迷惑メールを拾い集めていた。迷惑メールが不可解な行動とどう繋がるのか私には理解出来なかった。
「何があったの?」
「
「寝込むから知らない方がいいわ」
「
「何があったの?」
何故か私には理由を教えてくれなかった。
(私が知ると寝込む事案? 何それ?)
昼休憩は残すところあと二十分。
帳簿を見つめる下野君は大きな溜息を吐く。
「処罰が下ったとしても。事実は覆らないな」
それは横領した生徒、
「会長への責任追及は免れ得ないし」
「どうにも出来ないの?」
「出来ないな。生徒総会で事実をありのままに示さないといけないから。これらの費用は各自の学費から出ているから使途不明金を出した段階で責任問題になる。スカウトしたのも」
「ああ、そうか。会長だから」
「任命責任も生じるんだよ」
「だから」
放心状態で涙がボロボロと流れていると。
告発メールを送っても事実は覆らないと。
今回は早期発見されたから挽回の余地はあるが会長は三年女子が敵だから難しいだろう。
すると下野君が思案気にスマホを見る。
「仮にここで挽回するならば会長の敵を味方につけるしか無いよな」
これは何か思いついたのかな?
会長達もきょとんとしてるし。
「ふぇ?」「はい?」
「敵を味方に?」
「これは大前提として学校が許してくれるのであれば・・・な話になる」
「学校が?」
「そうだ。三年女子を対象とした他校との合コン。正しくは合同勉強会を開くとかな?」
「「「え?」」」
合同勉強会?
三年女子というと受験生だね。
だから合同勉強会を開くの?
「ところで合コンってなんです?」
「恵ちゃんは一生そのままで居てね」
「下野君と結ばれても純情で居てね」
「はい?」
どういう意味なの? それ?
下野君もこれには苦笑気味である。
私は首を傾げつつ疑問を口走る。
「でも、それって受けてくれる学校あるの?」
他校との勉強会だよね。
近場の学校だと直ぐには動けないと思う。
予定が決まっている場合もあるから。
すると下野君は不敵な笑みに変わる。
「俺の伝手を使えばある」
「「「伝手?」」」
「俺の従兄が通う私学が男子校なんだ。その従兄が生徒会長で受け入れてくれるはずなんだ」
な、なんてところに伝手があるの!?
会長は椅子から立ち上がり下野君に近づく。
「
会長の顔が近いですって。キスしそうだよ。
興奮気味の会長と苦笑する下野君。
「都会にある私学ですね。美形と頭が良い奴が多くて。実は女日照りで共学校の女子との合コンの段取りをしろと連絡が届いていましてね」
「てことは、丁度良いから利用してやれと?」
「そんな感じです」
「それよ! それなら是が非でも参加するわ! 学校の許可が下りたら直ぐにでも連絡して貰えないかしら?」
「ええ。構いませんよ」
「よし! やるわよ!」
「あらら、濡れた断崖絶壁が乾いたわ」
「ワンワン、余計なことを言わない!」
それを聞いた会長達はコソコソと話し合いパソコン前に座って一心不乱に企画書を作っていた。どうも試験で行って学力向上が見込めたら定例化する事まで視野に入れているっぽい。
年二回の交流会としてもイケるだろうと。
「私達の時は近所の私学?」
「近所なら公立の方がいいと思うわ」
「そうか。近所の私学はバカが多いわね」
「それもあるから公立の方がマシよ」
あの私学ってバカが多いのか。
それは初耳だったね。
というか下野君がスマホを見ていたのはその連絡がタイミング良く届いていたからなんだね。あちらも昼休みだからかな?
§
昼休憩があと少しで終わる頃、
『一年A組、五味葛生。至急生徒指導室に来るように。繰り返す。一年A組、五味葛生。至急生徒指導室に来るように。逃げても無駄だ!』
生徒指導の先生の厳つい声音が校内放送で響き渡った。逃げても無駄だと怒り気味で流れた声音はスピーカーの音割れを起こしていた。
私と下野君は渡り廊下の死角に隠れて呼び出された五味君の状況を覗き見た。
「あらら。怯えてる」
「あれが五味か。やりそうな顔してるわ」
「やりそうな顔って?」
「糸目」
「糸目? それが?」
「糸目は悪人の定番らしいぞ。知らんけど」
「知らんけどって」
五味君は「何故バレた」と呟きつつ私達の横を通り過ぎる。独り言で自白してるじゃん。
「首謀者、遂に捕まるか?」
「そうなると
「停学は避けられないだろ。一緒に行っていたならな。窃盗の件もあるから余計に」
「ああ。そういえばそうだね」
すると今度は五味君を追うようにファンクラブの女子達が生徒指導室に向かっていった。
「あれは?」
「ファンクラブだね」
「ファンクラブ、だと?」
「信じられない?」
「確かに顔はいいが人格破綻者だろ?」
「顔だけで良いと思う子しか居ないんだよ」
「そういうものか。平凡顔で良かったわ」
「何言ってるの?」
「何って?」
そういえば自分の顔立ちでは卑屈だったね。
性格良し頭良し体格良しなのに自分の顔だけは平凡と言うから始末が悪い。まぁ浮気しないだけまだいいかな・・・何様なんだろうね、私。
生徒指導室では押し寄せた女子達を相手に先生が怒鳴っていた。
『お前等は教室に戻れ!』
『五味君だけを悪者にしないで下さい!』
『だけってどういう意味だ?』
『
はい? なんで私の名前が出るの?
『どういう意味だ?』
『五味君が手を染めた原因だからです!』
え? 告白を断っただけなのに?
『原因だと?』
『入学式の日にこっぴどく振ったんですよ!』
『ふ、振った事がどう繋がる? それは個人間の問題だろう?』
『個人間であっても一番の原因です!』
何だろう? 私を悪者にしたいだけじゃ?
すると下野君が隣から生徒指導室に向かう。
『はぁ〜。惚れた腫れたっていうのはホントに害悪でしかないな!』
ボリボリと頭を掻きつつ大声を張り上げて。
『なっ!? 何よ! 割って入らないでよ!』
『お前に言われる筋合いは無い! これは学校とそいつの問題だろ? 第三者が口を挟むべき状況は、とうの昔に過ぎ去ってんだよ!!』
あんな怒鳴る下野君の姿、初めて見たかも。
『ぐっ』
『それに、だ。お前等は単に好きな男を守りたいだけだろ? 上坂に振られただ? たかがそれだけで、一人の女子に逆恨みする小さい男の何処がいいんだ? 女子に守られないと恐くて死にそうって言いそうな器の小さい男だぞ?』
『うぐっ』
確かに状況を見たらそうなるね。
庇護欲を掻き立てられる容姿ではないのに。
『そんな男を顔だけで選ぶってどうなんだ?』
『・・・』
『仮に、お前等がナンパ男に襲われたとしてナンパ男にこれが立ち向かうか逃げるか想像してみろ。これは女子をアクセサリーと認識するようなクズだ。要らないからとお前等を捨てて別のアクセサリーを求めるとは思わないのか?』
『それは、え?』
あ、視線をそらした。
つまり、いざという時は女子でも捨てると。
ようは、自分が可愛いナルシストなんだね。
この時点でファンクラブは解散したようだ。
一人、また一人と去っていった。
『お前もお前だ。何か言ったらどうなんだ? 男子達を焚き付けて、俺相手に暴行まがいの行いさせた張本人さんよ? ネタは上がってんだよ! いい加減吐いて、楽になっちまえ!』
『くっ』
流石の下野君も怒り心頭だね。
これはどういう心境で怒ったんだろう?
先輩かな? 私かな? 実に不可解だ。
『悔しかったら言い返してみろ。器の小さいクズ野郎。どうせ出てきても気に入らないからと報復するんだろ。上坂の家を燃やしたように』
『な、何故それを、知って?』
『やっぱりお前が放火の指示を出したのか。絶滅危惧種共に。かまかけで引っかかるとはな』
『あっ』
あらら、主犯は杜野さんじゃないの。
これは罪が重くなったね。どうするの?
これだと杜野さんちも守ってくれないよ。
すると先生が苦笑しつつ物申す。
『下野が
『先生って親父の事、知っているので?』
『俺もここの卒業生で司の親友なんだよ』
『ああ、それで』
『同窓会で聞いたが、一時期は警察庁に所属していたのに現場が良いって言って、地方の警察署に自分から転属した変わり者なんだよな?』
え? そうだったの!?
これには私を始め、五味君も目が点だった。
『!?』
『そこまで知っているんですね』
『ああ。それに今回の件、動くとしたら司だろうからな。少年犯罪を担当するから』
『なるほど』
下野君も担当までは知らなかったようだ。
刑事課だとは言っていたけどね。
そんな中、予鈴が鳴った。
『あとは任せて、教室に戻れ』
『分かりました。よろしくお願いします』
下野君は生徒指導室から離れ私の元に来た。
「巡君、ありがとう」
「気にするな」
「でも、どうして急に?」
「何かイラッとしたから」
「イラッとした?」
「あとは純粋に恵の夢を守りたいと思ったな」
「え?」
下野君の恥ずかし気な横顔にドキッとした。
こ、これって、どういう感情なの?
ドキドキが止まらないのだけど。
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