第17話 当事者が空気は仕方ない。
翌日の昼休憩。
俺と
「陸上部は一割削減で柔道部は一割増額ね」
「陸上部を削減? 部長が怒らない?」
「今季は一つも結果が出せていないからね。柔道部はインターハイの出場が決まったから」
「それでなのね。分かったわ」
それは見るからに先輩と同じ二年生だった。
各学年の判別は三年が青、二年が緑、一年が赤のネクタイかリボンで把握が可能だ。
「あれ?
「もしかして知り合いか?」
「女子のクラス委員のお姉ちゃんで
「あの犬系の黒髪ショートボブ?」
「そうそう。ワンワンと犬のように・・・ん?」
「確か男子のクラス委員にべったりだよな?」
「二人は付き合っているからね」
「そうだったのか」
なお、男子はネクタイのみだが女子はネクタイとリボンのどちらかが選べるのだ。先輩はネクタイを上坂はリボンを身に付けている。
もう一人の先輩はリボンだった。
顔立ちはC組のクラス委員と同じく犬系だ。
唯一違うのは髪が栗色でボブカットだった。
(
「ワンワンは残りをお願い」
「はいはい」
席を立って待ちぼうけする俺達の元に来た。
(やっぱりあだ名だったんだな)
ワンワンと呼ばれた先輩は諦観の面持ちで事務作業を行っていた。覆せない感じだが。
「待っていたわ。お弁当は?」
「こちらに」
「ありがとう。適当なところに座ってね」
「「はい、分かりました」」
先輩は弁当箱を受け取ると自分の席に戻る。
俺達は空いている席に隣同士で座った。
すると先輩が目配せして木坂先輩に指示を出す。無表情の木坂先輩は囓りかけのパンを横に置き俺の前に一冊のファイルを持ってきた。
「はい、これ」
「ど、どうも」
木坂先輩は自分の席に戻って続きを行う。
木坂先輩はストイックな性格なのか?
俺が信頼を得ていないからなのか?
諦めの表情以外に笑顔一つ見せないな。
妃菜先輩は苦笑しつつ俺に教えてくれた。
「それが会計帳簿なんだけどね。お弁当を食べながらでいいから精査してくれるかな?」
「精査ですか?」
「帳簿上のね。数字は合っているから問題はないのだけど違和感が拭えないのよ。その違和感の正体を知りたくてね?」
「違和感、ですか?」
俺は弁当を食しながら四月頃から記述されている帳簿の数字を読んでいく。それを少しずつ眺めていき先輩の言う違和感に気がついた。
(ん? 妙だな? 数字は合っているが?)
一旦、弁当を食べるのを止め過去の帳簿と照らし合わせる。筆跡が違うから先輩か?
四月からは一年の会計が行っていたから違っても不思議ではない。だが、途中から存在していなかった項目が突然現れたのだ。
「先輩、質問いいですか?」
「「質問?」」
「ああ、妃菜先輩でした。すみません」
「なるほど。私は会長で、ワンワン・・・」
「妃菜?」
「ごめんて。檸檬は副会長って呼んでね」
「「分かりました」」
副会長だったのか。
妃菜先輩の補佐役なのな。
大変そうだ、色々と。
俺は居住まいを正し改めて問う。
「会長、質問ですが、交際費って何ですか?」
「「交際費?」」
おや? 揃って知らないのか?
過去の帳簿には接待費とあった。
(確か、二月に多額の支出が出ていたな。交流会ってなんだ?)
一応、接待費はその後も出てきていて交際費が新規で増えている事に疑問を持ったのだ。
「いえ、途中から増えていますから」
「「増えている?」」
すると先輩達は席を立ち俺の前に来た。
「それってどの時期からかしら?」
「えっと、出てきたのは五月下旬ですね」
「五月下旬?」
「接待費とは別に存在していまして」
「接待費とは別?」
副会長も厳しい表情で思案している。
妃菜先輩も同じく思案しつつ問うた。
「最新は・・・どうなっているの?」
「最新は・・・ありますね。金額は接待費と同額で記されています」
「「ど、同額?」」
つまり交際費の分だけ多く支出していると。
「内容的に重複している項目で」
「同一金額が記される? というか接待費?」
俺は帳簿を眺めて頭の中でそろばんを弾く。
(現状の予算はこれだけと。やはり項目が増えたあたりから減ってきているな。金額も少しずつ増えているし。このままだと)
生徒会の運営に支障をきたす恐れがあった。
それ以上に重複項目が存在している時点で、
「これ、単純に横領されてません?」
その可能性の方が高かった。
「「「横領!?」」」
あらら、沈黙していた上坂まで驚いた。
俺は帳簿の内容と一致するか問いかけた。
「接待費も少しずつ増えていますし、そこに交際費ですよ? この期間にあった行事って?」
「宿泊研修と中間考査だけになるわね」
「会長、宿泊研修は四月中ですよ?」
「恵ちゃんのツッコミが痛い!」
「はいはい。でも、試験期間中に接待は?」
「ないわね。交流会くらいしか使わないし」
「「交流会?」」
「近隣の公立から生徒を招く行事があるのよ。部活動の交流試合とは別でね。それでも・・・」
「二月だから適用外ね。今の時期に使う項目ではないわ」
帳簿には存在しない行事が記されている。
接待費は準備会、交際費は報告会だった。
会長達が一切関与していない謎の会合だ。
そうなると接待費も無駄な支出であると。
「総額十万円が消えていますね」
「「じゅ、十万!?」」
これには会長達も愕然とした。
「し、使途不明金で十万円」
「これは責任追及が出てしまうわね」
「ああ、来期は出馬出来ないか」
会長達は責任者でもあるもんな。
すると沈黙していた上坂が、
「会長、これは一度顧問に相談しませんか?」
手をあげて提案した。
それが早いだろうな。
生徒だけで判断出来る範疇は超えている。
ここからは教師に委ねる方が無難だろう。
「そ、そうね。発見が早かったから」
「ええ。酷くなる前に止められるし」
「ところで顧問って誰なんですか?」
「
「「ウチの担任!?」」
あの先生、役に立つのか?
少し心配してしまった俺である。
この件は一旦保留とし残りの弁当を食べた。
会長は食欲が消え失せたのか呆けていた。
副会長も同じく天井を見上げ思案中だった。
「
「そうだな。面識は無いが・・・ん?」
俺は上坂と茶を飲みながら話し合ったが何故か腑に落ちた気分になった。
「待てよ? 使途不明金が出たタイミング」
「どうしたの?」
「中間考査から。いや、中間考査前からか」
中間考査前から接待費が記載されていた。
中間考査後から交際費が増えていた。
「きゅ、急に、どうしたの?」
俺はきょとんとした上坂に質問してみる。
「その五味って野郎は恵に告白したか?」
「ふぇ? あ、あー、したかも。入学式で」
「ああ、そうきたか」
「どうしたの?」
時期は不明だが生徒会入りして何らかの悪巧みを、その頃からしていたかもしれない。
俺はスマホを取り出して学校裏サイトにアクセスする。検索機能で日付を入力し、四月時点での掲示板を一覧表示する。
「無いな・・・つか、膨大過ぎる情報量だな」
「どうしたの? スマホなんて取り出して?」
「あ、あった!」
「はい?」
そこには男子のみのお知らせが出ていた。
一年C組以外の男子が対象のお知らせだ。
(うげぇ。ご丁寧に生徒会のメールアドレスを記載してやがる。生徒会も利用されたのか?)
俺は内容をスクショして記録に残す。
『上坂恵を落とそうの会発足! 成功すれば十万円の報酬。失敗すれば三千円の罰金。会員以外の他者に掠め取られた場合、報酬は運営が全没収します。また、別れさせた者にも成功報酬五万円。上坂恵の私物の買い取りも致します』
振られたからってここまでするか、普通?
俺は呆ける会長の前に移動して、
「パソコンの使用履歴の閲覧は可能ですか?」
ちょっとしたお願いをしてみた。
「使用履歴?」
「ええ、あとは役員アカウントの扱いも一緒に教えて頂けますか?」
「構わないけど? どうしたの?」
「これを見たら分かります」
俺は会長にスマホを手渡す。
上坂には酷なので見せられないが。
「「え?」」
会長達もスクショを見るよな?
文字を読むにつれて頬が引き攣るよな?
生徒会のメールアドレスが載ってるからな。
生徒会長が行った風に演じてな?
「なんなのこれぇ!?」
「だ、誰がこんな事を?」
「これは参加者の情報を得るためのメールアドレスですよね? なら、出てきますよね?」
「「あ!」」
「削除されていなければ残っているはずです」
「それなら会長権限でログインしましょうか」
「ええ。役員はゲストアカウントだし」
会長達は生徒会室のデスクトップパソコンから証拠となりうる各種証拠を拾い集めていく。
受信されたメールは迷惑メール行きとなり削除されることなく残っていた。稀に間違えて入るから消せないようになっているようだ。
これらを削除するのは顧問の仕事らしい。
「会長、顧問もメール見てますね?」
「あ、そうね。更迭案は顧問からだし」
「そうなると、これらの証拠待ちだった?」
「でも、横領の件は知らないでしょう?」
「顧問は不審なメールだけで判断したのね」
「メールの私的利用をしていたからか」
そうして全ての証拠が揃ったのち顧問へと横領発覚の告発メールが飛んでいった。
「何があったの?」
「恵ちゃんが知ると寝込む事案?」
「寝込むから知らない方がいいわ」
「
「何があったの?」
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