第16話 ミス無しなんて不可能だ。
私と
「たちまち、明日からの仕事で何がどうなっているか調べてもらうから覚悟だけはしてね」
「うっす」
「先輩。私は何をすれば?」
「
「分かりました」
生徒会室を出た私と下野君は先輩と廊下で別れ急いで教室に向かう。先輩は施錠後に諸々の手続きがあるようで職員室に向かった。
遅れた英語の授業は先生が気を利かせてくれたようで抜き打ちテストが敢行されていた。
「「「・・・」」」
教室に入ったら全員がカリカリとペンを走らせる物音をさせながら真剣に答えていた。
私と下野君も自分の席に座り机に置かれた問題用紙を解き始める。
「おぅ」
ここで先週の授業の内容が出てくるなんて。
下野君は受けていない授業だったためか一瞬だけ頭を抱えていた。ホント、一瞬だけね。
(えっと、この英文は・・・?)
先生は腕時計を見つめ少し時間を延長した。
(五分延長・・・間に合うかな?)
それまでに答えないといけないから大変だ。
下野君をチラ見すると溜息を吐いたのちペンを置いていた。ちょっと終わるの早すぎない?
(わ、私と同じ時間に始めたよね? ああ、急がないと!)
焦りのままに答えを書いた私は、終了時間ギリギリで何とか解答を終わらせた。ミスが目立ってる気がするけど・・・これは仕方ないよぉ。
(これは、勉強法から何からを教えて貰わないといけないかもね。この分だと
私はテストを回収されながら、勉強会を提案しようと決意した。同じ家に住んでいる以上は出来ない事はないはずだから。
§
教室に戻ると抜き打ちテストが行われていた。俺は上坂と自分の席に座り問題用紙を解き始める。
(おいおいおい。初見じゃねーか!)
俺は一瞬だけ頭を抱え予習した範囲を思い出す。一応、ギリで覚えていたから助かったが。
(あの担任、俺を試しやがったな?)
担任と目が合うと一瞬だけ不敵に微笑んだ。
(これは解ける? と言いたげな微笑みだな)
俺は挑発と受け取って英訳を解き始めた。
一応、遅れたこともあって時間延長していたが、上坂にとって必要でも俺には不要だった。
さっさと解答を終えた俺は担任へと微笑みを向け『ぐぬぬ』という唸りを静かに眺めた。
(母さん直伝の勉強法が本当に役に立つよな)
母さんもこの勉強法を親友から教わったと言っていたから、その親友は相当なまでに頭が良い人だと分かった。旧姓は
上野
(店長の妹だと聞いた時は愕然としたけど)
そう考えると
そんな抜き打ちテスト後、
「遅れてきたのに。いえ、下野君取りにきて」
「はい」
先生が模範解答を用いて点数を付けていた。
そして一人ずつ成績順で呼び出していく。
この呼び出しは他の教科でも同じ対応なのでマニュアルがあるのではと思った俺であった。
次に呼び出されたのはクラス委員。
三番手に上坂が呼ばれていった。
少し気落ちしているのは二番手に入れなかったから、なのかもしれない。成績で優劣が付くのは仕方ないが一喜一憂する前に復習だよな。
(ああ、やっぱり全問は無理だったか)
それでもミスは一つだけ。複数形の見落としだけだ。復習して確実に覚えようと思った。
英語の授業後、昼休憩になった。
上坂が弁当箱を持って俺の元に来た。
「巡君、ご飯行こう」
「少し待ってくれ、準備する」
「うん!」
交際が始まってからは極力共に居る事が増えた。一日目は別々、二日目は女子達が気を利かせて上坂を一人にした。男子達も俺に誘えと言ってきて仕方なく飯に誘ったのだ。本日は上坂が俺の元に来て、中庭で一緒に弁当を食べた。
「明日からは別の場所だな」
「そうだね。それはそれで楽しみだけど」
「俺に何か聞きたそうだな」
「あ、分かる?」
弁当の中身は同じだが上坂のご飯はふりかけ付きだ。上坂の健康管理も俺の仕事だからな。
「チラチラ見ていただろ。答案」
「き、気づいていたの?」
「ああ。分からないところがあったんだろ」
「うん。よく分かったね」
俺は会話しつつも周囲を見回す。
嫉妬に狂った野郎共の殺気が凄まじいな。
「珍しく三番手だったから」
「そこで気づいたんだ」
「まぁな。俺も一つミスってたし」
「え?」
「なんだよ?」
誰がそうなるよう誘導したのか?
C組男子との認識の差が凄まじいよな。
「巡君でもミスするんだね」
「俺だってミスすることはある」
俺をなんだと思っているんだよ。
何処でミスしたのか知らないが、交際したら落ち着くと思っていた野郎共の執着。
それが逆に燃え盛って、嫉妬に狂っているのだから、これをミスと呼ばずして何と呼ぶ?
「それよりも、飯粒が口元に付いてるぞ?」
「え? 何処? 何処にあるの? 取って」
「女の子なんだから食べ方は気をつけろよ」
「あっ」
おや? 飯粒を取って食べたくらいで野郎共が倒れたぞ? 狂いすぎて血圧が上がったか。
「
「わ、私の人気?」
「横恋慕勢が多いな」
「よこれんぼ?」
上坂は気づいていないか。
告白行列は終わったも同然だしな。
残り香は消える事なく残っているが。
「やはり嗾けている首謀者が健在のようだな」
「嗾けてきて? そ、それって?」
「元締め共はおバカな実行犯だったって事だ」
「実行犯」
大損で盗みに入ったからな。
何をして大損になったのやら?
「先ずは関係者しか知らない事実の流出」
「例の噂?」
「実行犯が誰かバレていたよな?」
「うん」
親父の部下に問うと非公開らしい。
ギャルの親が圧力をかけているからな。
勘当してても親子だとバレるから。
「次に唐突に始まった女子達のいじめ」
「ああ、追い詰められて休んでいる?」
「まだ停学か退学か決まっていないからな」
「遅くとも今週中だったね。結果が出るの」
あれもトカゲの尻尾切りだったのだろう。
ギャル以外の問題児は停学が言い渡された。
生徒指導室に呼び出して事細かく悪事を問い質したそうだ。だが、ギャルだけは呼び出せないので保留となり結論が出せない状態である。
「最後に告白行列の執着が校内で燻っている」
「え? そ、それって?」
「別れろって脅しが届いているな。俺の元に」
「そ、そんな!?」
「何が何でも急降下させたいんだろうな」
「ひどい」
告白行列という賭け事は強制終了した。
なのに引き続き行いたいとする者達が多い。
俺との交際を無かった事にしろと脅すしな。
成立したら報酬が得られるのか?
失敗したら何かが取られるのか?
対象者は一年C組を除く全ての男子。
その目的が上坂の成績急降下だと判明していても、校内を引っ掻き回す意図が分からない。
俺は弁当箱を片付けて上坂の頭を撫でる。
「たちまち、恵に出来る事は成績維持だけだ」
「・・・」
ショックだったのか元気がないな。
「詳しく調査しようにも、何処をどう調べるか判断が出来ないし。隠れ潜む者が相手だとな」
「ぐすん」
ああ、泣いていたのか。
食べ残しに涙が落ちてる。
「泣くなよ。勉強は見てやるから安心しろ」
「え?」
あらら、鼻水まで出ているし。
ポケットティッシュを取り出すか。
「試験期間中に勉強会を開いてやるから」
「ホント?」
俺は喜ぶ上坂の鼻にティッシュをあてがい、
「その前にチーンしろ」
「あっ。うん」
幼子に行うように鼻をかんだ。
上坂は少し恥ずかしそうだ。
「あ、ありがとう」
「ああ、涙も拭けよ」
「うん!」
だが、その表情にドキッとした俺だった。
上目遣い、可愛すぎだろ。
なお、鼻をかんだティッシュ。
弁当蓋に付いたソースを拭ったのち捨てた。
俺は上坂を連れて渡り廊下を進む。
その際に見てはならない者達を見た。
「なあ? 恵」
「どうかした?」
問われた俺は悩んだが口にするのを止めた。
「いや、なんでもない」
これを口にすると上坂に多大なショックを与えてしまうからな。
だが、上坂は気になったのか振り返る。
「なんでもない? 中庭に何かあるの?」
その動きに気づいた俺は上坂を抱き寄せ、
「今は見るな」
「え?」
強引に俺の正面に向ける。
それは俺が捨てたティッシュを野郎共がゴミ箱から漁っていたからだ。上坂が見るとショックを受けるのであえて守った。その様子に気づいた女子達からはサムズアップを受けたがな。
野郎共にはゴミを見る目を向けていたが。
「く、苦しいよ」
「すまん。強く抱きすぎた」
「ううん。少しだけだから」
お陰で嫉妬に狂う野郎共の視線を再度浴びた俺だった。イチャつきやがってって聞こえた。
俺はそれらを無視ししたまま、上坂の肩を抱き寄せ、渡り廊下から教室へと帰っていった。
「午後はロングホームルームだったか?」
「うん。秋に行われる文化祭の内容決めだったかな? 先週は決まらなかったから」
「そうか。何する予定なんだ?」
「えっと、ね〜。喫茶店、たこ焼き、タピオカ屋だったかな?」
「飲食店の三択かよ」
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