第12話 騒がしさは外でも内でも。
私の家に空き巣が入った。
犯人はクラスの問題児達だった。
事情聴取後、家の中を見て回ると洗濯篭からパンツだけが消えていた。自室に戻ると荒らされた跡があり化粧品と貴金属が無かった。
その代わり、教科書やノートの類いは無事だった。中身は破られておらず奇麗だった。
なので鞄の中に必要な物だけは確保した。
そして事情聴取のために残ったパトカーを見送った後、
それは下野君の家に来ないかという提案だ。
私は恐怖と不安、理性と良識の間に挟まれてどうしたら良いのかと思案した。
(恐いと思う。でも、甘えてもいいのかな?)
一応、表向きは私の交際相手だ。
でも、付き合いだして直ぐに同棲とか、ね。
それを考えると顔が熱くなってしまうよ。
先輩にも迷惑をかけられないし。
本気で困った私だった。
すると下野君が大きな溜息を吐いた。
「はぁ〜」
何かあったのだろうか。
空を見上げて困った顔になったから。
「釈放されるか」
「え?」
「こればかりはビジネスだからどうしようもないか」
それってどういう?
私は下野君の呟きの意味が分からなかった。
すると下野君は何処かしらに電話した。
「そうですか。やはり、ええ。連れ出します」
話し声は聞こえないが諦めの色が見えた。
「貴重品は持ち出せよ。来るぞ、報復が」
「ほう、ふく?」
それってつまり、
「奴らが釈放されたらしい。顧問弁護士が帰った後に悪態を吐いたって親父の部下が教えてくれた。だから、逃げるなら今のうちだ」
「え?」
い、一体、何をされるの?
私は困惑しつつも下野君の言う通りにした。
急いで部屋に戻りスーツケースを取り出す。
私服や制服、下着と教科書等を詰めていく。
貴重品も通帳と印鑑、権利書も持ち出した。
金庫の物品で盗られたのは金銭だけだった。
アルバムなども数冊だけ確保した。
兄の私物は手出し出来ないので放置した。
慌てて外に出ると下野君が厳しい表情で遠方を見ていた。
「急ぐぞ!」
「どうかしたの?」
下野君は鍵を閉める私に苛立ちをぶつける。
「複数のスキール音が近づいてきてる。早く逃げないと危険だ」
「は?」
私のスーツケースを担いで自転車の荷台に結ぶ下野君。焦りがあるからか上手く結べず苛立ちが表に出ていた。大きすぎたかな?
「単車だ。金属を叩く音も近づいてきてる」
「えっと、それってつまり?」
「絶滅危惧種が生き残っていたんだな。流石は田舎だと思うぞ」
「絶滅危惧種?」
するとテレビで聞くような金属音とか甲高い音が近づいてきた。下野君って耳がいいの?
「反対側にまわるぞ」
「う、うん」
下野君は自転車を押して音の反対側に向かっていく。音は更に酷くなり家の前で止まった。
そこから先はガラスを割る音が響いた。
「ちっ。近所迷惑も考えていないのかよ」
「あれって?」
「報復だ。珍走団が傘下にあるとか異常だぞ」
「珍走団?」
「暴走族だ」
「ああ、絶滅危惧種って」
そういう意味だったんだ。
しばらくすると近所の人達が出てきて警察やら消防車を呼び出した。え? 消防車?
「火を放ちやがった」
「そ、そこまでするぅ!?」
「奴らは頭の中がお花畑なんだ。思考回路が真面と思う事自体が間違いだよ」
「ああ、非常識集団と」
お陰で私の家が無くなっちゃったけど。
(あ、母さんに連絡しないと)
母さんに連絡すると『
それは父さんも同じ『俺の庭を返せ』ではなかったね。私よりも庭が大事なんだ、ひどい。
ぐるりと回って南側から幹線道路に出る。
そこから喫茶店まで向かい先輩と合流した。
「恵ちゃん! 大丈夫だった?」
「なんとか」
喫茶店の周りも人集りが出来ていた。
するとパトカーが高音を鳴らして、
「ついに捕縛に動いたな」
駅前に向かって走って行く。
それが数台の列を成していた。
先輩は呆れながら車列を見つめる。
「絶滅危惧種をいつまでも残すからよ」
「でも、絶滅危惧種を使った段階で揉み消しが実質不可になりましたね。杜野の親もどうやって収拾させるつもりなんだか?」
「勘当でしょ。親も自己保身に動くだろうし」
「それがベストな選択と」
「それに絶滅危惧種根絶運動の旗頭だし」
「母さんも離れますかね?」
「それは離れるでしょうね」
「はい?」
それってどういう意味なの?
下野君と先輩だけ理解してるの不可解だよ。
すると先輩が苦笑しつつも教えてくれた。
「
「え?」
「俺も先ほど知ったが契約理由は根絶運動だったんだと。でも、これではな?」
「どうあっても離れるでしょうね」
「そうか。仕事上の関係だから?」
「本心では釈放したくないが命じられたらな」
「世知辛いわよね」
それを聞くと政治屋の仕事は、なにがなんでも受けたくないね。自己保身に使われるから。
そんな騒動は火事が鎮火するまで続いた。
私は先輩と下野君の家に向かった。
下野君の家に入ると誰も居らず、
「寝る時は客間を使ってくれ。先輩は」
「恵ちゃんと一緒に寝るわよ?」
「じゃあ、それで。風呂の使い方は」
「教えてもらえる? 私もまだ入ってないし」
「分かりました」
広い客間に荷物を置かせてもらった。
ベッドはダブルサイズだった。
二人でも十分寝られる大きさだ。
風呂場に案内してもらうと大きかった。
(え? 檜風呂? 五人は浸かれるよね?)
その後は洗濯機の使い方も教えてもらった。
「洗濯物は都度洗っているから空いている時ならいつでも使っていいぞ」
「う、うん。ありがとう」
「私は家で洗ってくるわ」
「先輩はそうして下さい」
バスタオルの場所と洗剤の詰め替えの場所。
私はそれらの場所を一生懸命覚えた。
お風呂でばったりだけは避けたいし。
下野君は案内だけ済ませると、
「俺は弁当を作るんで、ゆっくり入ってきて下さい」
「「うん」」
一人でキッチンに移動した。
女子のお風呂を覗く真似はしないよね。
§
「酷い事になったもんだ」
その際に本日起きた出来事を思い出す。
俺と上坂が付き合うに至った原因を作ったのは杜野達だった。その杜野達は上坂の家に不法侵入して金品を窃盗した。警察を呼んで捕まえてもらったが親が命じて母さんが釈放した。
「母さんも仕事とはいえ辛かっただろうな」
後は想定通り報復を宣言して取り返しの付かない事態にまで発展した。近所迷惑も含む。
奴は何処まで報復すると言ったか知らないが絶滅危惧種共は思惑以上に好き勝手動いたと。
「お陰で恵は家無し子。誰が補償するんだか」
上坂の両親もこれには動くだろう。
原因相手に司法の場で大喧嘩するだろうな。
キッチンにて淡々とおかずを作りつつ先々が思いやられる俺であった。
すると脱衣所からドタバタ音が響いてきた。
「聞いて聞いて! 恵ちゃんが!」
「せ、先輩、余計なこと教えないで!」
それは風呂上がりの先輩と上坂であった。
烏の行水かね? 早すぎると思うが?
俺は弁当箱に玉子焼きを詰めつつ振り返る。
「どうしたんだよ、いった・・・いっ!?」
そこには一糸まとわぬ女子高生達が居た。
胸は無であっても女性らしい体型の先輩。
小柄でも出るところが出てる上坂だった。
上坂って髪を解くと腰まであるのか。
「聞いてよ! 恵ちゃんが、恵ちゃんが」
「だから先輩、言っちゃだめぇ!!」
「成長していたの! 私がダブルなのに恵ちゃんはBだったんだよ! 酷いと思わない?」
「言っちゃったぁ。忘れて! お願いだから」
俺は視線を弁当箱に戻し願いを聞き入れる。
「う、うん。忘れるから。絶対に忘れるから」
これは忘れた方が俺の精神衛生上好ましい。
そもそも捗るなんて本人の前で言えないし。
先輩も彼氏が居るのに大丈夫なのだろうか?
(
彼女と妹の裸が隣にあるって地獄だろ。
色々見えすぎて、息子が元気になるし。
俺は腰を引きつつ別の弁当箱を棚から探す。
だが、先輩は気にせず隣で叱りだす。
「絶対って、彼氏なら忘れたらダメよ?」
そんな前のめりにならなくても。
先輩、無いと思ったけど少しはあるか?
(いかんいかん、視線を棚に向けないと)
一方、上坂は隣で騒ぐだけだった。
「先輩、それは忘れて欲しいですって!」
飛び跳ねると小さい胸が揺れるんですが。
本能で追ってしまうから止めてほしい。
「恵ちゃん、時には腹を括る必要があるよ」
「で、でもぉ」
この場合、腹を括る以前の問題だが?
俺は溜息を吐きつつ冷蔵庫の扉を開く。
扉で顔を隠して先輩達に一言述べた。
「それはいいから、何か着て下さいよ!」
「「はい?」」
「あまりの暑さでボケました?」
「暑さ? あ、その、あの、ごめんなさい!」
「せ、先輩? あっ! あ。そ、粗末な物を」
混乱した先輩に続いて上坂も気づきドタバタと脱衣所に走っていった。
おそらく二人は真っ赤に染まって脱衣所へと戻ったのだろう。興奮すると周囲が見えなくなる癖だけは治した方がいいと思うがな。
「ああ、昨日作ったプリンがあったな。風呂上がりに提供するか」
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