ゾンビ化しなかった越後さん
越後さんを連れて帰り、事情を説明する。
越後さんは薬師丸さんのところでベルトでしばらく拘束されていた。
「あれから数日……。体に変化は?」
「特にあらへんなぁ。体のツヤも人間やし」
「ふむ、ゾンビ化しない……。越後は偶然ゾンビウイルスの抗体を持っていたと考えるべきか……」
薬師丸さんは顎に手を当てて考えていた。
「それで? 薬師丸はなんかわかったんか?」
「いいや? 残念ながらしばらく研究はできそうにない」
「……なんで?」
「サンプルの不足、そして器具の性能が足りない」
薬師丸さんは机に腰を掛けた。
「私がいた研究所ならいい設備がそろっているが、この研究室はほとんどあり合わせで作られたようなもので限界が来た。これ以上進めるとなると機材が足りん」
「じゃ、それが次の任務やな。さっそく……」
「の前にお前はまだ駄目だぞ。最低でも一週間は拘束する。六道の話だとゾンビ化するのは時差があったというからな。時差……要するに潜伏期間というべきか。それが数時間から一週間、はたまた何か月か……。それがわからない以上、ゾンビに噛まれたあんたを放置もできん」
「えぇー! 動けへんのー!?」
「それはそうだろう。それと、六道。お前もしばらくは私につきっきりだ。もしゾンビ化してもいいようにな」
「あたしも付き合いっすか……」
まだゾンビについて未知の領域である以上、警戒を強めなくちゃいけないってことなのかな。
だから一応のことを考えてあたしをそばに置いて対処できるようにするか。
「現場には私から伝える」
そういって薬師丸さんが出ていったのだった。
取り残されたあたしと越後さん。あたしは暇だから机の上のものを見ていると、薬師丸の研究レポートと書かれた紙が置いてあった。
「これ薬師丸さんのレポートだ」
「まめなやっちゃなぁ。まだゾンビに対しての考察ばかりやのに。結論出てないのにレポートを書く必要があるんかいな」
「まぁ、考えをまとめておくって感じで書いたんじゃないんすか……」
あたしは目を通してみる。
「細菌の確認はできなかった……。サンプルが不足しているが、ウイルス性のものとは思えない。ウイルス性であるならば自我のあるゾンビが生まれるとは思えない……」
「ウイルス性じゃない?」
「詳しく調べないとわからないが、細菌の類ではないって書いてます」
「こういうのってそういうウイルスが原因やないのか?」
「ゾンビ映画ならそうだと思うんすけどね」
いかんせん現実だからな……。
それに、ゾンビの謎だって山ほどあるし……。なぜ起きたのかを突き止めて原因を突き止めなければ。
それに、ウイルス性でないとするならば越後さんがゾンビ化していないのも不思議だ。ウイルスなら抗体を持っている……とかで納得できるけどそれ以外のことは納得が出来んぞ。
「ウイルスではない……となると外国のウイルス研究施設ーとかそういう可能性はなくなるな」
「まだ薬師丸さんの仮定の話でしょ。そう決めつけるのは早計だと思いますけど」
「せやなぁ……。日本でその研究を……しとったら薬師丸が気づいとるか。日本は除外してもええな」
ゾンビ騒動はなぜ起きたのか。
わからん……。あたしらが考えていると扉を開けて薬師丸さんが戻ってきた。
「ん、私のレポートを読んでいたのか」
「薬師丸、ウイルス性でないってどういうことや?」
「その通りだよ。サンプルとして採取させてもらった六道の歯とかを調べてみたが、不審な最近は見つからなかった。歯についていたのは私らにもついているような細菌ばかりだった」
「……」
あたしの歯からは何も得られずってことっすかね。
「だからこそわからないんだよ。越後も。ウイルス性でないとするならば何が原因なのか。原因がわからない以上、対処にも限界がある」
「……」
あたしは少し考えてみる。
「……あの、このゾンビ騒動って最初はどこから起きたんすか?」
「そりゃ……聞いたのは群馬の前橋……やなかったか? 死んでる人間が歩いてるっていう通報があったはずや」
「あたしの勘なんすけど、なぜ起きたかを調べるよりどこで起きたかを調べたほうがいいと思うんす」
「どこで起きたか?」
「だってウイルス性なら最初に起きたところは複数ある可能性もあるわけじゃないっすか。でも、群馬の前橋が最初の報告っておかしくないっすか?」
「まぁ、おかしくないとは言えないが、不審がるほどでもないだろう」
「いや……そうとも言い切れへんのや。そもそも、報告にあった一人は土木作業員で、借金まみれのやつだったそうや。そんなやつが海外とか旅行できる金があるとは思えへんし……」
「それはたしかに妙だな。じゃあ、次の任務は変更になるな。前橋に向かわせよう」
前橋か……。なにがあったんだろうな。
ゾンビになっても君を守ります 鳩胸ぽっぽ @mimikkyu_mimi
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