山瀬さんを病ませたい

 そもそも、もしかしたら、わたしは未だに本当の山瀬 澄川という女の子のことが分かってないのかもしれない。


 デートの約束をしたとき。

 今までは、


『あなたがデートの予定を組んで、私を楽しませなさい!それがカノジョの役目でしょ!!』


 と言っていた山瀬さん。

 けれど今では、


「あ、あの。つ、次のデートをもしも私としてくれるなら、た、楽しみに待ってて!私、頑張ってあなたの為に最高のデートプランを考えておくから!!」


 と、まるで褒められることを期待しているワンコのように、率先してプランをたててくる。

 これじゃまるで、彼女の言っていた主従関係が、逆転したみたい。

 他にも―――、、、


『寝坊してお弁当を作って来られなかったですって!??じゃあどーするのよ!私のお昼ご飯無いじゃない!!』


「あのねあのね!あ、明日からは私があなたにお弁当を作って持って行ってもいい?私の愛の込もったお弁当、あなたに食べてほしいの」


 他―――、、、


『それなに食べてるの?へぇ、美味しそうなアイスね。私にくれるわよね?』


「ねぇあの、このアイスすっごく美味しいから、一口食べてみない?ほら、あーん」


 その他諸々。

 とにかく山瀬さんのわたしに接する態度は、180°変わったと言っても過言じゃない。

 それも全部、あの日、山瀬さんから胸に秘めた本当の気持ちをぶつけてもらえてからだ。


 彼女に「付き合って」と告白をされた時、わたしは彼女に惚れた。

 そして彼女の本当の気持ちを打ち明けられて、わたしは興奮した。ゾクゾクした。


 あんなにも今までツンツンしていた山瀬さんが、その気持ちをわたしに言葉で表す時だけは、この世の何よりも弱く見えた。

 弱いのが可愛く思えた。

 同時に可哀想にも思えた。

 可哀想が可愛いと思った。


 もっと、もっと山瀬さんの可哀想な姿がみたい。

 けどもう遅いかもしれない。彼女は先程から述べたように、本当の気持ちをわたしに打ち明けた日から態度が変わった。

 ツンは無くなり、極力本音をわたしに話し、甘えてくれる。


 これもこれで心地良さはあるものの、やっぱり物足りない。

 わたしは自分でも気がついていなかったようだけれど、案外と加虐性があるのかもしれない。

 別に暴力を山瀬さんにしたい訳じゃない。カノジョに、暴力なんて考えられない。


 ただそれでも。どうしてもわたしはまた、山瀬さんのどーしよーもなく可哀想な姿が見たいのだ。

 あの『可哀想』こそが、俗に言う『病む』ってこと?いや、それの準備段階みたいなものか。


 ならばわたしは、、、



 山瀬さんを病ませたい。


 ◇ ◇ ◇


「ねぇちゃん」

「っ/// な、なに?」

「あはは。まだ名前で呼ばれるの、恥ずかしいんだ?」

「……だ、大好きな人から呼ばれたら、だ、誰だってこうなるのよ」

「ふーん。そう言えばさ、聞いてもいい?」

「な、なに?」

「澄川ちゃんのツンってさ、一つ一つに照れ隠し的な意味があったの?例えば、デートプランを必ずわたしに考えさせてたこととか」

「い、一応、ある。それは、私って独占欲が強いから、大好きなあなたが私の為に、私と過ごす時間の為だけに、あなたの時間を使って欲しかったの。だから、プランをたててもらってた」

「そっかそっかぁ。じゃああれは?お昼のお弁当をわたしに作らせてたやつ」

「あ、あれは………。純粋に、あなたが私の為に作ってくれたご飯を食べることが、私の生きがいみたいなものだったから」

「あー、なるほどね。それを素直に言うのは恥ずかしかったから、『作るのが面倒くさい』って理由にしてたんだ?」

「う、うん」

「じゃあ、わたしが食べてるもの何でもかんでも横取りしてくるのは―――今までの事を考えると、ただ間接キスがしたかったから、とか?……あはは、流石にないか」

「………」

「澄川ちゃん?」

「………か、間接キス、したかったから、です」

「そ、そっか」

「う、うぅ〜」


 澄川ちゃんは顔を真っ赤にして俯き、呻いている。

 今までツンツンしてた行動の理由を、一つ一つ聞かれ、自身の口で説明させられることが、よっぽど恥ずかしいんだろうね。


 ゾクゾクッ


 あー、可愛い。

 澄川ちゃんと会話をする度に、彼女の言動に見え隠れするドロっとしたものを見つける度に、わたしはゾクゾクと興奮している。


 可愛いね。

 言いたくないこと言わされて、可哀想だね。

 でもそんな表情も、とっても素敵だよ澄川ちゃん。


 これからも、わたしはもっともっと澄川ちゃんをヤンデレにさせて、病ませて、病ませて、わたしにどっぷりと依存させたい。

 そう思ってしまうのは、わたしの愛が重たいから、なのかなぁ?


 これからも、こんな少しおかしいわたしだけれど、よろしくね?澄川ちゃん。

 わたしをこんなにさせたのは、あなたなんだから、ね?♥



(おしまい)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

山瀬さんを病ませたい 百日紅 @yurigamine33ki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画