第四話 ヘスティリア、港探しに奮闘する

 ヴェルロイドにしてみれば、ヘスティリアは望外な人材であった。


 ヴェルロイドがバレハルト伯爵家から嫁を取ろうと考えたのは、まず辺境伯領の窮状をバレハルト伯爵家からの資金援助でなんとかしたいという考えがあったからだった。


 それで強欲だが裕福だという噂のバレハルト伯爵に縁談を持ち掛けた。これは伯爵家にとっても家格の上昇や辺境伯家の帝都での代弁者としての発言力の拡大などの面でメリットがある。


 しかし、それが帝都貴族のバレハルト伯爵家にとっては一人娘を嫁に出す程の利益であるかどうかは微妙だといえた。しかも娘を遠い辺境伯領に送らなければならないのだ。


 しかし、格上のアッセーナス辺境伯家からの申し入れは断り難いだろう。ヴェルロイドとしてはそうなればバレハルト伯爵家が「資金援助はするから娘は勘弁してくれ」と言い出すのではないかと期待していたのだ。


 もしくは嫁入りしてきたバレハルト伯爵令嬢が、ど田舎である辺境伯領に耐えかねて、帝都に逃げ戻るのではないかと予想していた。そうすればヴェルロイドとしてはその婚約者の不実に対して非を鳴らし、引き換えに離縁金代わりの資金援助を要求する事が出来ただろう。


 ところが、バレハルト伯爵家が送り込んで来たのは養女だった。これでヴェルロイドの計算は大きく狂ったのだ。しかもこの亜麻色髪が妙にもっさりとした少女は、太々しくも自分が養女である事を打ち明けた上で「自分を追い返すとバレハルト伯爵家との縁が切れてしまいますよ」と脅してきたのである。


 実際、ヘスティリアが養女である事を隠していたならともかく、養女である事を理由に婚姻を受け入れないのは難しい。事前に「必ずアンローゼを」と指定しての縁談ではなかったからだ。結婚は家同士の結び付きのためのものなのだから、バレハルト伯爵家がしっかりヘスティリアを娘として認定しているのなら、彼女が養女であるかどうかはどうでも良いのだと言える。


 実際、ヘスティリアは伯爵家から持参金を預かっていて、それは予算不足の辺境伯家にとって大変に魅力的だった。元々この持参金を目的に伯爵家に縁談を持ち掛けたのである。持参金さえ持っていれば養女だろうが実子だろうが構わないとさえ言える。


 それでヴェルロイドはヘスティリアを受け入れたのだった、しかしこの前髪が長過ぎるせいで顔がよく見えない少女に、ヴェエルロイドはあんまり興味がなかった。結婚式を先延ばしにしたのは彼女に女性としての魅力を感じなかった事と、純粋に本当に忙しかったからだ。


 ヴェルロイドはほんの半年前に父親の跡を継いだのだが、その後始末がまだ済んでいなかったのである。新領主として家臣達に新たに役職を任命せねばならず、場合によっては土地や報酬の配分も決めねばならない。その過程で予算不足が露呈して、窮余の一策として嫁取りを考えたのだという事情があった。


 それで婚約者を放置する形になったのだが、それでヘスティリアが怒って帝都に帰ると言い出すならそれでも良いか、という気分だったのだ。持参金はもう受け取ってしまった。確かに婚約者を放置したヴェルロイドにも非があるためヘスティリアの非を鳴らす事は出来ず、バレハルト伯爵家の怒りを買って今後の付き合いは無くなってしまうだろうが、当座の資金は手に入って縁談の目的は果たされたから問題ないだろう。


 しかし、ヘスティリアはそんな扱い易い女ではなかった。


 放置されたヘスティリアは勝手に城を出てオルイールの街を探検し始めたのだ。貴族の少女とは思えぬ腰の軽さだが、帝都で集めた情報によれば彼女は平民の商人の娘だという。それならば当たり前かもしれない。


 侍女兼監視役のケーラを引き連れて、それこそ街の裏の裏まで探る勢いでオルイールの街を歩き回っていた。オルイールは田舎街で治安が良い方だとは言え、女二人が娼婦館のあるような裏通りを歩き回るなど豪胆にも程がある。


 ただ、ケーラの報告では少しガラの悪い若者に絡まれたヘスティリアは、その二人の若者を次々と転がしてしまったそうで、護身術の心得があるようだとの事だった。ちなみに、ケーラも実は兵士の娘で短剣をかなり使える。一応は護衛も兼ねているのである。


 そして城の書庫で勝手に領地の情報を読み込み始めた。地図や領地内の産物や交易の情報などは機密情報だと言えるのだが、領主の婚約者なら閲覧の権限はあると言えなくもない。そしてヴェルロイドとしても、この変な女が何をしでかすか、何を言い出すのかに興味があった。それで彼女の情報収集を止めなかったのだ。


 で、出てきた結論が交易の強化と港の建設だ。ヴェルロイドは心底驚いた。


 ヴェルロイドはアッセーナス辺境伯家の嫡男として生まれ、早くから次期当主の自覚を持って生きてきた。なので当地の交易には以前から関心を寄せ、その振興には心を砕いてきていた。しかしながら北の果てにある王国の商人や東の荒野を超えてくるキャラバンは、もう何十年も南のランディスに向かうようになってしまっており、オルイールにやってくる交易商人は数が少なくしかも小規模だったのだ。


 ヴェルロイドにはせいぜい、オルイールで生産される産物を良い物にして交易商人に魅力ある街にしよう、くらいしか思い付かなかったのだが、ヘスティリアは「商人を呼べば街には立地的な魅力があるのだから来るはずだ」と言い切った。


 更に彼女は港の建設を提案した。海があるなら港がなければ勿体ないなどと、ヴェルロイドは考えた事もなかった。しかしながら確かに、海上交易を始められれば高い効果が期待出来る。言われてみればなぜ誰も思い付かなかったのかと不思議に思うほどだ。


 ヴェルロイドは愕然とした。このやぼったい風貌の少女の思考に比べれば、自分のこれまでの考えは白痴も同然。これではアッセーナス辺境伯領が栄えないのも無理はない。


 ヴェルロイドは即座にヘスティリアに賭ける事を決断した。渋るヘスティリアに、彼女が帝都に帰りたがっている事を利用して、帝都に屋敷を手に入れて夫婦で移住するとまで匂わせてやる気を出させたのだった。


 実際、彼女の施策で辺境伯領の経済が上向き、財政状況が改善すれば、辺境伯領を代官に任せて領主夫婦は帝都に居住する事が出来るだろう。帝国貴族としてはそれが普通である。そして帝都で政界に関わらなければ、アッセーナス辺境伯領が帝国において田舎領地と侮られる現状を変えることは出来ない。


 ふむ。この頭の切れる少女を妻として、帝国の社交界、政界に乗り込むのも面白そうではないか。いずれにせよ、領地の経営状況が改善されてからの話で、二、三年は掛かるだろうが。ヴェルロイドはそうほくそ笑んでいたのだが、その計画はヘスティリアのせいで色々変更を余儀なくされる事になるのである。


  ◇◇◇


 ヘスティリアはヴェルロイドと話した翌日には行動を開始した。


「馬を用意してちょうだい!」


「馬?」


 ケーラはこれまでにない要求に目を瞬いた。


「そうよ。馬。それと乗馬出来るズボンね。急いで!」


 ケーラは納得がいかない表情で、それでもヘスティリアに追い立てられるようにして馬を調達しに走っていった。


 ヘスティリアは商人の娘として長旅を繰り返した関係で、馬に乗る事が出来る。なにしろ砂漠で野盗の襲撃を一晩中馬を駆けさせて逃げ切った事もあるくらいなので、かなりの腕前だと自負している。


 ヘスティリアは馬に跨がれるようにズボンを履くと、誰の助けも借りずにヒラリと鹿毛の馬に飛び乗った。


「な、何をするつもりなのですか?」


「海岸線を視察します。ケーラは留守番していなさい」


「ま、待ってください! リア様を一人で行かせたら私が殿下に叱られます! 私も連れて行って下さい〜!」


 ケーラが泣いて頼むので(ヘスティリアを一人で行かせたらヴェルロイドに処罰されるのだろう)仕方なくヘスティリアはケーラを自分の後ろに乗せた。


「しっかり掴まってないと振り落とされるからね。それと舌を噛まないように注意すること」


 ヘスティリアはそれだけ言うと、馬に拍車を入れて遠慮なく駆けさせた。ケーラが悲鳴をあげていたがそこまでは面倒を見られない。ヘスティリア的には一日も早くアッセーナス辺境伯領を再興させて。一刻も早く帝都に帰りたいのだから。


 ヘスティリアは馬を駆けさせ一気にオルイールの城壁を潜って街の外に出た。そして北へ、それほど遠くない海岸地帯に向かう。辺境伯領の海岸線は長いが、港を作るのは出来ればオルイールの街の近くが良い。地図を見て何箇所か場所の目星は付けてあった。


 目的の場所に着くと歩いて海岸を視察する。今度は暇つぶしの物見雄山ではない。真剣な視察である。ただ、ヘスティリアの知っている海は南の温かな海なので、北の海の荒々しさには少し戸惑った。


「波が高いし強いわね。これだと、波風を避けられる場所じゃないと港には出来ないわ」


 商人の娘時代、港や船で耳にした情報を思い出す。


 良港の条件は波風が避けられ、大船が海岸になるべく寄れるように水深が深く、座礁を起こすような岩礁が浅瀬が少ない事、だった筈。そういう条件に当て嵌まる場所を探して行く。


 候補はすぐに見つかった。しかし、決め手に欠ける。ヘスティリアとしてはすぐに港として使えるようになって欲しいのだから、なるべく手間なく港に仕上がる場所が良いのだ。


 そうして視察を始めて数日。ヘスティリアはとある入江を視察に来ていた。もう何度か来ていて、何箇所かある候補の中でも有望な場所として目を付けている所だった。


 ……気になる。


 ヘスティリアの見るところ、波や風を防ぐ岬の張り出しといい、水深といい、入江に入るところに岩礁が少ない事といい、申し分ない場所だと思えた。


 気になるのは、なんというか、人の手が入った雰囲気があることだった。海岸に漁師の使っている小屋などがあるのだが、それが石造りで結構しっかりした物だったり、海に向けて石積みが沈んだりしているのだ。


 もしかして、遺跡かもしれない。ヘスティリアは入江を囲む岬の上に登ってみた。風を防げるほど高い岩山なので、登れば入江全体が見通せる筈だ。


 ケーラとともに険しい崖を登って岬の上に上がり、入江を見下ろして驚いた。


 そこには整然と区画された港の姿があったからだ。ただし、ほとんど海の中に沈んでいたが。


 石で出来た桟橋が岸から沖に向かって五つ整然と並んでいて、陸地にも大きな倉庫の跡がいくつも見受けられた。ほとんど砂に埋まっているので近くに行くとむしろ分かり辛いのだが、上から見れば一目瞭然だった。ヘスティリアは驚きを込めて言った。


「古帝国の港だったんだわ、ここ」


 千年前に栄えたという古帝国。現在の帝国よりもはるかに進んだ文明を持ち、はるか北の果てまでをも領地にしていたのだといわれている。そうであれば、北へ向かう船の中継拠点としてこの辺りに港を築いていてもおかしくはない。古帝国が滅んで港の重要性が薄れ、崩れて海や砂に沈んでしまったのだろう。


「これ、修理できれば工期と工費の大幅な節約になるよね」


 桟橋も、石積みをもっと高くすれば使えそうだし、倉庫も砂を取り除いて補修し、屋根を掛ければ使えそうだ。そうすれば意外な速さで港が開港出来るかもしれない。


「やったー! やったわ! 古帝国の皆さんありがとう! 大事に使わせてもらいます!」


 ヘスティリアは思わず歓喜の叫びを上げて、ケーラの手を取ってクルクルと踊り出してしまった。


 一番の懸案であった港の場所の選定と設計、建設が意外な速さで進みそうな事にヘスティリアは喜びを隠せなかった。その日の夕食で彼女はヴェルロイドに喜び勇んで報告した。彼は意外な報告に目を丸くしている。


「古帝国時代には港があったのか」


「そう。今よりもずっと進んだ技術を持っていた古帝国の港だもの。場所も設計も問題ない筈よ! 早速手配して改修工事をしなくちゃ!」


 ヘスティリアは食事をしながらもウキウキと顔を緩ませていた。髪に半ば隠れた紫色の瞳が楽しそうに細められている。ヴェルロイドは思わずまじまじと見てしまう。彼はこれまでヘスティリアの容姿にはあまり関心を払っていなかったのだが、そうして明るく笑っている彼女は、なんというか、思ったより美しいようだった。


 ヘスティリアは早速、執事のハイネスを引っ張って港の予定地に向かい(流石に馬車で行った)岬の上に登って遺跡を見せる。そして彼女の構想を語って聞かせた。ハイネスは目を白黒させて戸惑う。


「こ、ここを修繕して港にすると仰るのですか? 結構な大工事になりますが……」


「当たり前じゃない。それでも一から港を建設するよりずっと楽な筈よ」


 大型船が横付け出来る桟橋など、海底に木杭を何百本も打ち込む必要があるのだから、下手をすると何世代も掛かるような大工事になってしまう可能性がある。なのでヘスティリアの最初の構想では、大型船は少し沖に停泊してもらい、そこから小型船で荷揚げする形式の港を想定していたのだ。それが古帝国のお陰で頑張れば一年二年くらいで桟橋が築けそうなのだからヘスティリアの喜びも分かろうというものだ。


「古帝国の建物はもの凄く頑丈だから、直せば使えるわ。桟橋も上の石積みが剥がれているだけでもう一度積み直せば問題無い筈よ」


 古帝国の遺跡は帝国にも南の辺境にも沢山残っていて、現在でも補修の上で再利用されている建物は沢山ある。今では再現出来ない石と石を接着させる白い漆喰みたいなもの凄く頑丈な物質があって、金槌で叩いても簡単には割れないくらい丈夫なのだ。この港もその物質で頑丈に石を繋いであるからそのまま使える部分は多いだろう。


 ハイネスはヘスティリアの話を聞いて理解は出来たが、そもそも彼にはヘスティリアが港を重要視する理由がよく分かっていない。アッセーナス辺境伯領の人間にとって、港とは漁港の事で漁師が使う場所の事なのだ。しかしヘスティリアは潮風に吹かれながら楽しそうに言った。


「良い港よ! 出来上がればここに遙か西の聖王国の船もやってきて荷を下ろす事になるでしょう! 楽しみね!」


 聖王国が何処にあるのかすら、ハイネスには分からなかった。ヘスティリアの構想が自分よりも遙かに壮大である事を、ハイネスは納得するしか無かった。この紫色の瞳を持つ少女は、ちょっと自分の理解を超えて気宇壮大な人物だったようだ。


 この場所にハイネスを連れてきたのは、港の補修の指揮を任せるためだった。


「だって私にはこの土地の人間を集めて支持して、物資の手配、搬入の手配、給金の手配をするなんて無理だもの。貴方が詳しいのよね?」


 確かにハイネスは城の執事であり、同時にヴェルロイドの腹心である。この領地の宰相のような役目をしていると言って良い。しかしなぜそれをヘスティリアが知っているのだろうか?


「だって、街の人は何かがあると貴方に頼んだり、貴方が来てくれて対応してくれると言ってたからね」


 なら貴方に頼むのが適当なんでしょう? とヘスティリアは言った。簡単に言ってのけたが、その洞察力も普通では無い。実際にはハイネスが対応するのは領地の中でも重要な事だけで、他の些細なことは部下に行かせているのだ。街の連中にハイネスの名前が知られているとは言っても、そういう部下の名前も混ざって出て来た筈だ。城の執事であるとしか名乗っていないハイネスに領地経営についての大きな権限があるとは分かっていなかった筈なのに。


「後はヴェルロイドが貴方を信頼していたようだったからね」


 ヴェルロイドとの様子と街の噂を結びつけた上で、彼が領地の大きな事を差配している事を見抜き、自分の目的を最短で果たすにはハイネスを連れて行って直接港の建設工事の指示をするのが一番だ、と結論したのだろう。その洞察力と決断力と行動力は断じてその辺の十七歳の少女に備わっているものではない。


「ちょっとあれは、とんでもない女性かもしれませんね」


 城に戻ったハイネスはヴェルロイドに苦笑しつつ言った。


「たしかに、お前が言った通りになったな。手を出したら手首まで噛み付かれたぞ」


 確かに交易振興策をやってみろ、とは言ったが、僅か数日で港の場所を決めて工事の手配まで始めるとは想定外の行動力だった。しかも古帝国時代の遺跡を再利用するなんて、ヴェルロイドには想像も出来ない荒業で、その港が完成したらどのような事になるのか、既に彼には予測が付かない。つまり、ヘスティリアが描いている未来の絵図面が、既に彼女以外には理解出来なくなっているのだ。


 こうなると、もう全てをヘスティリアに任せるしか無い。あるいは領主権限で全面的に中止するかだが、もちろんヴェルロイドにはそんなつもりは無い。あの彼の理解を超える思考と知識と行動力を持つ少女に、全面的に任せるしか無くなってしまったのだ。


「殿下。楽しそうなお顔をなさっている場合ではありませんよ? あの調子で暴走させたらその内頭まで呑み込まれます。殿下自身がちゃんと統制しなければいけません。貴方はあの女の婚約者なのですから」


「そうだな……」


 ヴェルロイドは痛いところを突かれて考え込んでしまう。こんな事ならヘスティリアがやってきた時点でコミュニケーションを取っておくべきだった。しかし今更仲良くしよう、といってヘスティリアが応じてくれるだろうか?


 ヴェルロイドは実は、あまり女性と親密な関係になった事が無い。彼は領主の息子であったから、奔放に女性と遊ぶわけにもいかなかったのだ。女遊びを楽しめる性格でも無かったし。そもそも、彼の周りにはあまり年の近い女性がいなかったという事情もある。帝都の貴族のように社交界に出て、他の家の子女と交流出来れば良かったのだが、アッセーナス辺境伯は領地住まいだ。辺境伯の家臣は無骨な者が多くて彼らとの交流というと狩りだとか戦の演習だとか、それに伴う宴会などになってしまい、女性、特に未婚の若い女性の出る幕がない。


 しかもヘスティリアは彼がこれまで接してきたような朴訥な女性とは違い、なんというか、都会的な明るさを持つ女性だった。意思表示がはっきりしていて、行動力がある。求めるものがはっきりしていて欲望に忠実なので扱いやすいが、反面下手な事をするとすぐさま機嫌を損ねそうな怖さがある。自分は領主で男性で夫なのだから、と上から扱おうとしても絶対に上手く行かないだろう。

 

 そしてあの目だ。大きく輝く紫色のあの瞳。正直ヴェルロイドはあの瞳に惹かれ始めていた。ある意味、畏れを抱きつつあったと言って良い。あんな瞳の持ち主は他に見たことが無い。あの輝きは一体何なのだろう。そう考える時点で、ヴェルロイドは既に、ヘスティリアに囚われつつあったのである。


「まぁ、追々な。港の建設には時間が掛かるのだろう? ヘスティリアとて港が出来上がるまではこれ以上何も出来まい」


 ……などと呑気な事を言っている場合ではなかった、とヴェルロイドやハイネスが気が付くまでに、それほど時間は掛からなかったのである。

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