第三話 ヘスティリア、辺境伯領の再興を決意する

 辺境伯領到着の十日後、ヘスティリアと一緒にやってきたバレハルト伯爵家の家臣達は帝都に帰って行った。


「うううう、私も連れて行って欲しい……」


「何を言っているの。頑張るんですよ? リア」


 侍女時代からヘスティリアを可愛がってくれたアイナーセンは別れを惜しみ、励ましてくれた。


 アイナーセン達が去ってヘスティリアの周囲で帝都の雰囲気が漂う物は持ち込んだ私物だけになった。私物とは言っても嫁入りの為に伯爵家が揃えた品々である。豪奢な家具や部屋の装飾、ドレスや装飾品や小物類で、どれもヘスティリアには馴染みもなく、貴族の社交がないこんなど田舎では使いようが無いものばかりだ。精々出して眺めて。


「はぁ~……」」


 溜息を吐くくらいしか出来ない。既に帰りたい。帝都に戻りたい。二ヶ月だけ経験した貴族生活が懐かしい。


 辺境伯がヘスティリアに付けた侍女はケーラという少女だった。黒髪の少し色黒で小柄な少女だ。年齢は十五歳。平民出身だという。侍女とはいうが、伯爵家で行われていたような行儀作法や主人の世話の仕方などの教育は行われておらず、単に頼んだ事をやってくれるだけだ。


(実情は私の監視員よね。これ)


 ヘスティリアは溜息を禁じ得ない。監視なんてされなくたって、何処にも行きようがないのだ。土地勘のある南部なら兎も角、こんな僻地で逃げたって野盗か野生動物の餌になるだけである。


 辺境伯領に来て既に十日以上。その間ヘスティリアは特に何もしていなかった。何もさせて貰えなかったのだと言って良い。ヘスティリアが客間にいる間に、伯爵家の家臣達がヘスティリアの私室を整えてくれて出来上がったお部屋に入って手直しなどをしていただけだ。


 伯爵家の家臣が帰ってからは、ケーラ一人を付けられただけで放置である。私室に放置。これは酷い。一応は毎晩の夕食はヴェルロイドと共にするのだが、その際にも会話は一切無い。それ以外にはお茶に誘われる事も散歩に誘われる事も無い。完全に放置プレーである。


 ヘスティリアは不思議に思って、辺境伯家の執事であるハイネスという男を呼んで貰った。ハイネスは細身の中背の男で赤茶色のウェーブした髪を少し伸ばしている。


「結婚式の予定などはどうなっているのですか?」


 ハイネスは指先に赤茶色の髪を巻き付けながらしれっとした顔で言った。


「辺境伯閣下もお忙しいので、なかなか予定が立たないのです。ヘスティリア様におかれましてはもう少しこのままお待ち下さい」


 ヘスティリアは呆れかえった。自分が帝都から来ることは二ヶ月前に婚約が調った時に決まって、とっくに分かっていた事の筈だ。そんなに以前から決まっていたことなのだから、到着したら即座に婚礼の儀式を行うくらいでもおかしくはないとヘスティリアは思っていた。それがこの期に及んで「忙しいから待て」とは、遠く遙々やってきた花嫁に対する仕打ちなのだろうか。それなら婚約段階で「忙しいから嫁入りはもう少し待って欲しい」と伝えるべきだろう。そうすれば自分はもっと長くお貴族様生活を楽しめたのに。


 ……これは、あれね。私が養女であるからヴェルロイドは婚姻の儀式を延期しているのだ。要するに私と結婚したくないのだ。ヘスティリアは悟らざるを得なかった。このままずるずると日を過ぎさせて、その内なんやかや言って婚約を破棄するつもりなのだろう。


 それならそれで良いけどね。ヘスティリアとしては来訪時に養女だからダメだと門前払いされないのであれば、彼女がこれから何かとんでもない失敗をやらかさない限り、婚約解消の責を負わされる事はないだろうという計算がある。ヴェルロイドの都合で実家に帰されるのであれば願ったり叶ったりだ。帝都に戻って貴族生活を満喫出来るだろう。それまで待てば良いのだ。


 しかし、とりあえず暇過ぎる。無口なケーラはほとんど話し相手になってくれないし、石積みがむき出しの部屋は持って来た装飾で飾っても絶望的に殺風景だし、元が要塞の一室なので窓が小さくてしかも目の前には城壁があって、眺望を楽しむわけにもいかない。丸一日そんな部屋にいて、お茶を飲んで(ケーラには淹れられないから自分で淹れる)おやつを食べ(この地では砂糖が貴重品なので木の実だ)てゴロゴロしていたら、二日で飽きた。飽き飽きした。


 ヘスティリアはえいやと起き上がった。部屋の隅で椅子に座ってコックリコックリと居眠りをしていたケーラが何事かと目を覚ます。


「出掛けるわよ! ケーラ!」


「へ? お出かけ? 何処にですか?」


「とりあえずは街ね」


 ヘスティリアはドレスを脱いで、これは平民時代に買った本物の私物であるところの平民服を着た。明るい青のワンピースの上に茶色いボディスを着け、白い前掛けをする。平民としては普通の服である。亜麻色の髪の上からスカーフを被り、これで平民版ヘスティリアの完成だ。


 ちなみに全て自分で着替えた。ケーラはほーっと見ているだけだった。


 ケーラの案内で部屋を出て、迷路そのものであるお城の中を歩く。ケーラが振り向いて言った。


「殿下に言わなくていいんですか?」


 この城の者達はヴェルロイドの事を殿下と呼ぶのだ。王族時代の名残だろう。


「いいのよ」


 放置してるってことは何しても良いって事だろうからね。監視役のケーラも連れているのだし、文句を言われる筋合いは無い筈だ。


 二人は城の正門から外に出た。門番は何も言わなかった。平民服で歩いている女性がまさか城主の婚約者だとは思わなかったに違いない。跳ね橋を歩いて空堀を渡り、城壁の門を潜って坂道を降り切ってようやく領都の街に到着した。


 アッセーナス辺境伯領都の建物はほとんど全てが黒い石で出来ており、この素材は城や城壁の素材と同じである。近くで容易に採取出来た事もあるのだろうが、これは城や街を囲む城壁と同時に街の建物が建てられた事を意味している。つまり、この街は計画都市なのだ。流石は旧王都である。


 ちなみに、王族時代のアッセーナス辺境伯家の家名はオルイールであり、アッセーナスは帝国編入時に皇帝陛下に授けられた家名なのである。この街の名前はその王族としての家名を取ってオルイールという。

 

 オルイールの街は、馬車から見た印象と全く変わらず、ヘスティリアを大層がっかりさせた。


「寂れ切ってるわね」


 ヘスティリアが言うと、ケーラは不思議そうな顔をした。


「えー? そうですか? これでもオルイールはこの辺りでも一番人が住んでる所なんですよ?」


 そうでしょうね。だからこそがっかりなのだ。貴女にも帝都の賑わいを見せてあげたいわ! ヘスティリアはそう思いながらも、一応はそれなりの面積のあるオルイールの街を見て回った。繁華街らしき通りや、どうやら月に三回ほど市が立つ通りも見付けた。


 しかしもう圧倒的に人が少ない。悲しいくらいに人がいない。ただ、ケーラに言わせれば祭りでもない日の昼間に、街中にそんなに人がいないのは当たり前だとの事で、確かに職人街では多くの人が黙々と仕事をしていた。真面目な人が多い土地柄なのかもしれない。


 健脚な二人はテクテク歩いてオルイールを見て回った。結局この日だけでは見切らず、それから何日も掛けてヘスティリアはオルイールの街を隅々まで調べたのだった。暇なので良い時間潰しになった。その結果、ヘスティリアは考え込んでしまった。ふむ。なるほどね。


 歩いている最中に街の人からも話を聞き、オルイールの現状を把握する。その結果様々な事が分かってきた。


 まず、このオルイールの街は辺境伯領というかこの地方最大の都市であり、更に言えばここより北には(帝国外になってしまうが)これ程の規模の都市は無いのだそうだ。なのでこの街には北や東の小国や蛮族が交易にやって来て栄えていた。かつては。


 しかし、帝国が栄え近隣の他勢力を圧倒するようになり、オルイール王家が帝国に帰順してアッセーナス辺境伯家となると、小国や蛮族との関係が悪化。大きな戦争が何度か起こった。結局その戦争は帝国の勝利で終わり、現在では国境は安定しているのだが、その過程で人の流れが変わってしまい、オルイールはこの地方の中心都市ではなくなってしまったのだそうだ。今ではヘスティリアがここに来る時に通過してきた、少し南のランディスという街が物流のハブ都市となっている。


 ふーん。ヘスティリアは城に帰って来てからも城の書庫に行き(ケーラに案内させた。もちろん無許可だ)近隣の地図や産物、耕地面積、街道がどのように通っているかなども調べてみた。紐で縛られた羊皮紙を山のように積み上げて読み耽る。暇だから時間に縛られず、朝から晩まで読んだ。そしてまた街に出掛けて実際にオルイールに集まっている物品や農作物を見て歩く。


 終いにはケーラが音を上げた。


「リア様〜。何時までやるんですか?」


「お城にいても暇でしょ。街にいたり書類読んでいた方が気が紛れるじゃない」


「それはリア様だけですよ〜! お城でお茶を飲みましょうよ〜!」


 自分では淹れられない癖に、お相伴に預かっている内にケーラは舶来のお茶が気に入ったようだった。言っとくけど高いんですからね? あれ。


「お茶が飲みたければ貴女も仕事しなさい」


「荷物持ちとか書類探してとかしてるじゃないですか〜」


 文句は言うもののケーラはヘスティリアから離れられない。ヴェルロイドに命じられているからだろう。ヘスティリアはブーブー言うケーラをあしらいながらオルイールの街の探索と書類の読み込みを続けた。


 おかげで一ヶ月も経つ頃にはヘスティリアはアッセーナス辺境伯領の事にかなり詳しくなっていた。ついでに言えばオルイールの街の人々とも顔馴染みになり、あちこちに茶飲み(お茶とは言ってもこの地方で飲まれる薬草茶だが)友達が出来ていた程だ。街の人々はヘスティリアが領主の婚約者であるとは思っていないのだろうが。


 そんなある日。夕食の際にヘスティリアは対面に座るヴェルロイドに、一ヶ月以上振りに声を掛けられたのだ。


「熱心に領地の事を調べているそうではないか」


 一ヶ月以上も会話が無い婚約者の事は、とっくに置物だと思うことにしていたヘスティリアである。いきなり声を出した置物に戸惑ってしまった。


「……あー。ええ。まぁ、暇ですので」


 ヴェルロイドはなんだか満足そうに頷いた。


「で、どうだ? 我が領地は?」


「は? はぁ。まぁ、良いんじゃないでしょうか」


 ヘスティリアが曖昧に答えるとヴェルロイドが不満そうに眉をしかめた。


「なんだ、何かないのか。あんなに熱心に視察していたのだ。何かあるだろう?」


 別に視察などしていたつもりはない。暇つぶしに散歩していただけだ。それで浮かんだ疑問を解消するために書類を調べたのであって目的があっての事ではない。


 しかしあんまりヴェルロイドがしつこく促すので、ヘスティリアはうっかり口を滑らせた。


「勿体ないと思いました」


 ヘスティリアの言葉にヴェルロイドは驚きを見せる。


「勿体ないとは? 我が領地が何か無駄にしていると言うのか?」


「はぁ。まぁ。色々と無駄にしていますね。この領地は」


 ヘスティリアは頷いて、特に深く考える事もなくつらつらと気が付いた事を列挙する。


「まず、立地が無駄になってますね。そもそもここは交易の要衝で、本来北や東からの交易はこの街を通るべきところを、商人がスルーしている」


「それはランディスに行った方が商人にとって有利だからではないのか?」


「違いますね。本来はオルイールを経由した方が商人にとっても帝国の整備された街道を使えるので楽な筈です。そうしないのは、なんとなくです」


 ヴェルロイドが思わず口を大きく開けてしまう。


「なんとなく⁉︎」


「はぁ、多分。戦争中にランディスに向かうルートが確立してしまって、それからなんとなく改まっていないのでしょう」


 よくあることだ。商人の娘であるヘスティリアは酷い非効率が慣習の名の下にまかり通っている現状を何度も目にしてきた。


「ですから、商人を積極的に呼び込めば、そもそも立地は良いのですし、すぐに商人はオルイールに来るようになる筈です。なのに、商人を勧誘している様子はこの二十年くらいない。だから勿体無いなと」


 ヴェルロイドがうぬぬぬっと唸る。それを見ながらヘスティリアは、ヴェルロイドはあまり商売には明るくないんだなと見て取った。


「それと海ですね」


「海とは?」


 ヘスティリアは頭の中にアッセーナス辺境伯領の地図を思い浮かべる。領地の北側は長い海岸線に面している。


「せっかく海に面しているのに、港が一つもありません」


「漁師が使っている港はある筈だが」


「漁港ではなく、貿易港です。海の交易商人が使用出来るような港がありません。港があれば交易商人が海を越えて来ると思うのに、もったいない事です」


 交易の基本は海運だ。なぜなら、陸路を行くよりも遥かに多くの荷物を容易に、早く移動することが出来る。むしろ海路では運べない土地では仕方なく陸路を選択するくらいのものなのだ。


 北の海に交易船が行き交っていないとは思えない。であれば、帝国の街道と接続出来るこの地に、立派な貿易港があれば、交易商人は先を争って船を繋ぐだろう。


「街を見て回った感じ、職人は良いものを造っていますし、これを北や東に輸出していないのも勿体ないですね。今は帝都に出荷しているみたいですけど、帝都には他からも物資が集まりますからね」


 商売の基本は「在る所から無い所に運んで売る」だ。商品が溢れている帝都で売るよりも、文明度が低いらしい北の果てや東の奥地に運んで売った方が儲かる筈だ。


「まぁ、つまり、アッセーナス辺境伯領は交易面で上手くやれば発展の余地があるという事です。それをやっていないで衰退しつつあるんだから勿体ないな、と思ったのです」


 とヘスティリアは鹿のローストをモグモグと食べながら何という事もなく言った。商人の娘であるヘスティリアにしてみれば、特に奇をてらうでもない商人の常識を言っただけだった。


 ただ、彼女は忘れていた。


 自分の立場を忘れていたのだ。彼女は今や商人の娘ではなく、この辺境伯領の領主であるヴェルロイドの婚約者なのである。


「ではやってみせよ」


 ヴェルロイドが言うのは当たり前だった。分かっていないヘスティリアが目を瞬く。


「は?」


「君が思う通りにやって良い。この領地での交易を再興させてみせよ」


 ヘスティリアは目を瞬いた後、首を傾げた。


「なぜ私がそんな事をしなければならないのですか?」


 ヴェルロイドは呆れたように言った。


「君が私の婚約者だからだ。君はもうすぐ辺境伯夫人になるのだぞ? 辺境伯領の内政は他人事ではない筈だ」


 ……そうでしたっけね。ヘスティリアはもうすっかり忘れていたその設定をどうにか思い出した。しかしそれを言うなら、一ヶ月も婚約者を放置していたあんたに言われたくないわよ、とヘスティリアは言いたい。


「うーん、でも、私は専門家ではありませんし……」


 ヘスティリアは尻込みをした。そんな辺境伯領の改革など、自分の手に余る。そんな事に手を付けて失敗したら、ヘスティリアに全ての責任が降り掛かってきてしまう。そうなればそれは離縁の絶好の口実になり、ヴェルロイドは損害賠償を実家のバレハルト伯爵家に請求する事だろう。


 そんな事になったら帝都に戻されたヘスティリアがお義父様にどう扱われるか分からない。少なくとも出戻り娘として安楽な生活を保証される事はないだろう。


 こんな事を引く受ける事はないわね。ヘスティリアはまだ結婚して正式に夫人になっている訳ではないし、ヴェルロイドに何の義理もない。必要の無い責任をわざわざ背負い込む事はない。ここは逃げの一手。どうにか言い逃れて責任を回避し、ヴェルロイドが怒ったら婚約破棄を勧めてみよう。


 ヘスティリアはそんな事を考えていたのだが、のらりくらりと返答を避けるヘスティリアにヴェルロイドはキラッと嫌な感じで目を光らせた。


「そうそう。君との結婚式だがな。ヘスティリア」


 ヴェルロイドの口から初めて結婚式の話が出た。流石にその話は真面目に聞かざるを得ない。ヘスティリアはヴェルロイドのサファイヤブルーの目を見つめる。


「帝都で行おうと思っているのだ」


「帝都で⁉︎」


 ヘスティリアはびっくりだ。それは完全に予想外の事だったからだ。


 と、という事は、帝都に行ける? 帝都に帰れる? ヘスティリアが食い付いた事をしっかり確認したヴェルロイドは大きく頷くと、更に言った。


「ああ。帝都で結婚式を挙げた後は、帝都に邸宅を手に入れてそこに住もうかと思っている」


 な、なんですと! ヘスティリアは驚愕する。


「帝都の皇帝陛下から、そろそろ国境も安定して長いのだし、アッセーナス辺境伯家も帝都に住んではどうかと以前から勧められていたのだ。帝都に明るい妻を娶るのは良い機会だろう」


 そ、そ、そ、それは凄い! ヘスティリアは一気にテンションが爆上がりするのを感じた。


 帝都に帰れる! それだけではなく。今度は自分は辺境伯夫人、つまり大貴族の正夫人として帝都の社交界に出られるのだ。あの華やかで素敵な社交界に、尊重される身分である辺境伯夫人として大手を振って臨めるのである。


 凄い! それは凄い! 感動のあまり手が震えるほどのヘスティリアに向けて、完全にヘスティリアの心を掴んだと確信したヴェルロイドは満足そうに目を細めた。


「しかしな。それには費用が必要だ。現状の辺境伯領の財政では、贅沢な帝都暮らしが出来るとは思えぬ。どうしたものかと悩んでおったのだ」


 ……つまり?


「そこで君の言った交易振興策だ。それで領地が再興し、辺境伯家の収入が増加すれば、侯爵相当の辺境伯家の格に相応しい暮らしを、君がすることも可能になるだろう」


 つまり、帝都で贅沢をしたいのなら、まずはこの辺境伯領を再興して金を儲けろという事だ。確かに、今のしょっぱいアッセーナス辺境伯領の財政状態では、帝都で貴族らしい生活は送れないかもしれない。ヘスティリアだってどうせ帝都に行くのなら贅沢がしたい。


 そのために必要だと言うのなら……。


「分かった! やります! やるわ!」


 ヘスティリアは決断した。


 ここ数日考えた結果からすれば、この領地のポテンシャルは大きく、適切な投資をすれば短期間で大きな収益を上げる事も夢では無い筈だ。


 ましてヘスティリアが帝都に帰り、そこで貴族らしい贅沢な暮らしをするためとあれば、彼女としても全力を尽くすしかないではないか。


 やってやる! やってみせる! ヘスティリアの全ての能力と経験を使って、必ずやこのアッセーナス辺境伯領を再興し、大儲けして辺境伯家の金蔵を溢れさせてみせる。


 そしてヘスティリアは帝都に帰って辺境伯夫人として、豪奢で安楽な生活を楽しむのだ!


 一人でウオーっと盛り上がるヘスティリアは、目の前でヴェルロイドがニヤニヤしながらほくそ笑んでいる事にさっぱり気が付かなかったのだった。

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