満月の誕生日に

坂神美桜

第1話

今日は12月25日。

私の19歳の誕生日。


商店街はクリスマスツリーと門松が入り交じり、なんとも不思議な感じのする場所になっている。


私は小学生になってすぐ、事故で両親をいっぺんに亡くした。

以来、母方の祖父母が親代わりとなり、それはそれは大切に育てられた。


「おばあちゃん、ちょっとお散歩してくるね」

「気をつけてね。あんまり遅くならないように」

「はーい。いってきまーす」

天気予報ではホワイトクリスマスになるかも、なんて言ってたけど、空気は澄み、雲一つない空には綺麗な満月が輝いている。

小さい頃、母から「あなたはとても綺麗な満月の夜に生まれたから『美月みつき』と言う名前にしたのよ」と聞かされていた。


誕生日と満月が重なるのは、19年に一度らしい。

そして今日がその「誕生日と満月が重なる日」なのだ。

私はそんな特別な満月を写真に収めようと、家からほど近い船岡山ふなおかやまと言う場所に向かった。

2分ほど歩き船岡山の入り口にさしかかると、目の前に1羽の真っ白なうさぎが飛び出してきた。

「びっくりした。なんでこんなところにうさぎが...?」

「驚かせてごめんなさい。どうしても君に会わせたい人がいるんだ」

「え...うさぎがしゃべってる?!」

これは夢だ。こんなところで、しかもしゃべるうさぎに遭遇するなんて有り得ない。目を覚ませばベッドの上にいるはず。きっとそうに違いない!

試しに耳を引っ張ってみた。

...うん、痛い。私はちゃんと起きてここに来ているんだ。

「ねぇ美月、お願いだからボクを信じて」

「わかった。でも、変なことしようとしたら、その長い耳、思いっきり掴むからね!」

「ぜ、絶対に変なことなんて、しない...しません...」

うさぎはウルウルの瞳でこちらを見つめ「一緒に来て」と言ってピョンピョンと歩き始めた。


山頂からは京都市内が一望できる。

そして、周りが暗いぶん、空に浮かぶ満月がひときわ明るく見えた。

私がシャッターを切るのに夢中になっていると、うさぎが遠慮がちに声をかけてきた。

「そろそろ会わせたい人を呼んでもいい?」

「あ、そんなこと言ってたね。もう呼んでいいよ」

するとうさぎは短い前足を満月に向かって伸ばした。その瞬間、ほんの一瞬だけ、目を開けていられないほどに強い光を放った満月から、今度はひと筋の光がこちらに向かって伸びてきた。

キラキラと輝く光の道を見つめていると、その上をこちらに向かって歩いてくる2つの人影が見えた。

「うそ...お父さん?お母さん?」

あっという間に私の目の前までやってきた2人。

「美月、元気そうだね」

「大きくなったわね」

「お父さん!お母さん!」

ぽたぽたと流れ落ちる涙のせいで、2人の顔がよく見えなくて、コートの袖でゴシゴシと拭いても、次から次へと溢れる涙が私の視界を奪う。

「美月、あなたを1人にしてしまってごめんね」

お母さんは私を抱きしめ、何度も何度も頭をなで背中をさすってくれた。


それからしばらくの間、3人で話をすることができた。

2人がいなくなってからのこと、学校のこと、将来について。

でも...

「お父さんたちはそろそろ戻らないといけないんだ」

「戻る前にこの光の道が消えてしまったら、お母さんたちもここで消えてしまうの」

そういえば、光が弱くなって道も細くなってきている。

「また、会える?」

「満月の誕生日に、また会えるわ。19年後、あなたはママになっているかしら」

「38歳になった美月に会えるのを楽しみにしているからね」

「うん。絶対に会いに来てね。絶対に...」

「約束するよ」と頷いた2人は、細くなった光の道を歩き始めた。

私は「またね!」と、2人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


「美月。19年後、またボクが呼びに来るから。そのときはもう耳を掴むなんて言わないでね」

「ごめんね。もう言わないよ。2人に会わせてくれて、ありがとう」

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