僕と◯△⬜︎

本田鳥

第1話 僕とお隣さん

 朝。ベッドの上。鳴り響く目覚まし時計。

 僕は時計に手を伸ばし、音を止めた。

 深呼吸をして、起き上がり、リビングに向かう。


 小さなアパートの一室だが、僕はこれで満足している。


 いつも通り、食パンを焼かずに食べる。

 何も付けないのが僕の食べ方だ。

『嘘だろ!?』

 これは誰かの心の声だろうか。

 いや、これは間違いなくお隣さんの声だ。

 小さなアパート。家賃は安い。

 なのでもちろん壁も薄い。

 そしてお隣さんは声がデカい。

 そしてゲームヲタクである。

 そして何か配信をしているのだろう。

 こうした声が聞こえるのは日常茶飯事である。

 あの声はもちろん僕に向けられたものではなく、ゲームに対する文句である。


 そんな事を思いながら、僕は食パンを食べ終え、空になった食パンの袋を丸めて捨てる。

「あっ......」

 今気付いた。食パンの消費期限が2日前だった。

 一瞬色々考えたが、まあ良いかと仕事に向かう準備をし始める。

 今日お腹が壊れたら、疑う事なく、この食パンのせいにしよう。

 そう心に決め、服を着替えに寝室に向かった。


 準備が終わり、玄関に向かう。

 そして部屋を出て、鍵を掛けた。

「あっ......」

 今日はゴミの日だった。

 腕時計を確認する。十分過ぎるくらい時間があるのは、自分が計画的に生きているからだろう。

 ゴミを持ち、玄関に向かう。

 そして部屋を出て、鍵を掛けた。

「あっ、ヤベ」

 お隣さんがゴミを忘れたのか、部屋に戻っていく。

 なぜか僕はお隣さんが出てくるのを待った。

 お隣さんがゴミを持って出てくると、不思議そうに僕の顔を見る。

「あ、おはようございます」

 お隣さんは小さな会釈をし、階段を降りていった。

 それをずっと眺めていた僕は、今日どうかしているのだろうか。

「食パンのせいだ」

 今日は消費期限の過ぎた食パンを食べた。

 疑う事なく、食パンのせいにしよう。


 仕事のお昼休み。

 行きつけのコンビニに入る。

 いつも通り、鮭のおにぎりといくらのおにぎりを取り、レジに向かう。

 そしてレジ横にある揚げ物を頼んだ。

「あっ......」

「あっ......うす」

 レジの店員がお隣さんだった。

 昨日まではこの店にいなかったはず。

 名札を見ると新人の札が貼り付けてある。

「今日から?」

「はい?」

「アルバイト」

「あぁ、そうっす」

「あぁ」

「はい、これ」

「ありがとうございます」

「あざっしたー」




 明日からこのコンビニに来るのやめよう。

 呟きそうになるのを必死に堪えた。


 仕事が終わり、アパートに着く。

 部屋に入り、コンビニで買った弁当を机の上に置いた。

『いただきまーす!』

 これは、ゲーム中なのか。

 僕の部屋に監視カメラでも設置したのか。

 過去で一番怪しい言葉に出会った。

『ゲーム?するよ。その前に飯食ってんの』

 配信中みたいだ。

 安心してため息を吐いた。


 今日も一日やり遂げて、ベッドに入る。

「あっ......」

 食パン買い忘れた。

 明日の朝食は抜きだ。

 朝食の事を考えると少しお腹が空いたような気がして目を閉じた。

『おやすみなさい!』

 目を開ける。

 本当に監視カメラが設置されているのではないだろうか。

『みんな寝るの早いね。おやすみなさい!』

 配信中みたいだ。

 今日は変にタイミングが合う。

「食パンのせいだ」

 そういやお腹は壊さなかった。

「食パンのせいだ」

 今日は消費期限の過ぎた食パンを食べた。

 疑う事なく、食パンのせいにしよう。

『ちょ、ちょっと待ってな。腹いてぇ』

 慌てた足音が聞こえる。

「食パンのせいだな」

 今日の全ての出来事に小さく笑い、目を閉じた。

 というか、お隣さんはいつ寝てるのだろう。

 その疑問に僕は目を開ける。

 今日は僕も眠れないかもしれない。


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