45 前に進む理由
黒竜の態度が、心なしか変化する。
今やカケルを対等以上の相手と見ているのが、その金の眼差しから伝わってきた。
『では、伝えよう。旧世界を滅ぼしてなお、いまだ稼働を続ける
「……この世界の
『竜の構築理論以外はな』
船団が宙に旅立った時には、理論だけで実現していなかった。
それから数千年。
宙に旅立った船団と、
船団で稼働している
「見付け出すのは努力してみますが、壊すかどうかは、分かりませんよ」
この魔法の世界を壊すには忍びないと、カケルは思う。
ただ、おそらく
『好きにするがいい。我はもう疲れた。次に起きるのは、世界が終わる時だ』
黒竜はそう言い、水面に沈み始める。
来た時と異なり、静かな動作だった。
竜の角の先が水に浸かり、ぷくぷくと弾ける泡がすべて無くなるまで、カケル達は泉の前で見送った。
「リリーナ、ラクス様の頼み事をこなすには、他の都市に行かなければいけないんじゃない?」
イヴが妙に浮かれた声で言う。
それに、リリーナが「駄目よ」と答えた。
「友達だもの、イヴの考えていることは分かるわ。カケルくんと旅に出たいのでしょう。そんなの、イヴのお父様が許可しないわ」
「……」
「出て行くのは、簡単よ。でも、残された人の気持ちも考えて」
友人に
彼女を見て、カケルの心は揺れる。
一人で出て行けば、誰にも迷惑を掛けずに済む。だから、イヴやオルタナを連れていくべきではないのだ。
しかし、その一方で、一人では何も出来ないのを、カケルは自覚していた。
五年前、竜の姿で一人、荒野をさまよった事を思い出す。
あの時は生き延びることだけしか、考えていなかった。
今は違う。誰かを守りたいと願い、
彼らを失ってしまったら、カケルは前に進む理由をも、失ってしまうだろう。
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