34 告白

 グラスラが竜に変身すると、その姿はまるで山のようだった。

 彼が大き過ぎるので、比較すると他の普通の竜が、まるで子供のようだ。

 その鋼のような鱗は、鉄鎧のように分厚く、竜の四肢は大地を踏み抜きそうに太い。翼を広げると、まるで雲のように太陽を遮る。


『どこでも好きなとこに乗れ。俺は飛行速度が早くないから、快適だぞ~』

 

 なるほど、鈍重。

 カケルは人間の姿に戻ると、イヴ達と共にグラスラの上によじ登った。これだけ背中が広い竜だと、くら要らずだ。

 

「グラスラさんの鱗、普通の竜より硬そう」

『おう。俺は古代種と同じらしいからな。宇宙まで飛べるし、火を吹いたら味方も機械もまとめて消滅させちまえる』

「へぇ~。都市の壁も破れる?」

『もちろん。だからこそ、アロールはエファランの近くでは俺を出撃させない。俺の炎でエファランが壊れたら大変だからな』

 

 理性を失って野をさすらう竜の中には、数百年、あるいは数千年生きている者もいるらしい。

 古代種と呼ばれる彼らは、鋼のような鱗と、超高熱の炎を持っている。人間と交流せず、食っちゃ寝生活を続ける古代種の竜達の生態は、謎に包まれている。

 基本的に積極的に人間を襲わず、機械は目障りなのか眼の敵にするらしい。おかげで最近までは、侵略機械アグレッサーを追い払ってくれる守り神だった。


「なるほど。真面目に竜と戦おうと、大きな戦闘機を発進させて、返り討ちに遭ってたのか……」

 

 カケルは、故郷の船団が竜攻略に手こずっていたことを思いだし、溜め息を吐いた。


「ねえ、カケル。そろそろ教えてくれても良いんじゃない? あなたは何者なの?」

 

 イヴがこちらの顔を覗き込んでくる。

 

「いくら私だって、敵だらけのネムルートへ行って百パーセント皆無事に帰れるという確信は無いわ。それなら今のうちに、あなたのことを聞いておきたい」

 

 カケルは空を仰いだ。

 いざとなったら自分を犠牲にしても、イヴとオルタナは、エファランに帰したかった。

 ちっぽけなカケルが消えたとしても、世界はいつも通り回り続けるだろう。故郷の船団の記録から、逃亡者であるカケルの名前は遠からず消去される。そして、エファランにはカケルの出自を知っている者はいない。死んだら、どこにも存在した記録が無くなってしまう。それは、ぞっとするほど寂しいことに思えた。

 今まで、あんなに隠していたのに、カケルの口からするっと言葉が漏れる。

 

「……俺の故郷は、空の上にあって、侵略機械アグレッサーを作ってる」


 その場に沈黙が満ちる。

 突然のカケルの告白に、聞いた面々は理解するのに時間が掛かっている様子だった。


「黙ってて、ごめん」

「……考えてみれば」

 

 イヴが呆然とした表情で呟いた。


「あの機械って、人が作っているのね?!」

「そこから?!」

 

 カケルは頭を抱えたが、エファランの人々の常識からすれば、自動で動く機械は勝手にポップするモンスターの一種だと錯覚しても仕方ない。


「空の上って、都市が空を飛んでるのか?」

 

 器用にあぐらをかいて頬杖をついたオルタナは、何とかカケルの事情を咀嚼そしゃくしようとしているようだ。

 眉間にシワを寄せて、渋面になっている。


「うん。空の上、星の海の間ね」

「てめえは、なんで空の上からエファランに来たんだ?」

「前にイヴが指摘した通りだよ。故郷から逃げ出して、迷子になって、エファランに辿り着いた」

「逃げ出した?」

「理由は……説明しづらいなぁ。とにかく、身の危険を感じたから脱出したとしか」

 

 司書家ライブラリアンの事など、イヴ達に話しても分からない。歴史の守り手とのたまい、あらゆるデータの管理を独占する、一種宗教の教祖的な家だ。

 その後継と目されていたカケルは、致命的な欠陥が見つかり、処分されそうになって、エファランに逃げてきた。

 

「俺は、故郷に戻るつもりはないよ。戻ったって、殺されるだけだもの。許されるなら、エファランにいたい」

 

 カケルがはっきり伝えると、イヴは急に潤んだ瞳になった。


「殺されるだなんて! カケルあなた、虐められていたの?!」

「い、いや」

「故郷で酷い目にあって逃げてきたのね。それなら、エファランにいなさいよ! 私のお嫁さんになるのよ!」

「だから、お嫁さんって何???」

 

 両手を握られて揺さぶられ、カケルは困惑する。

 その様子を半眼で見つめながら、オルタナが冷静に言う。


「俺らはともかく、敵側出身だとばれたら、痛くない腹を探られるだろうな。アロールの奴の言う通り、戦功を立ててエファランの味方だとはっきりさせた方が良い」

「うん……」


 イヴとオルタナに受け入れられ、ひとまず安堵する。

 だが、オルタナの言う通り、立場をはっきりさせないと、疑われることになるだろう。

 ネムルート補給基地の奪還は、反意が無いことを示す、良い機会だった。なんとしても成功させて、エファランに凱旋しなければならない。

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