33 実力主義で助かった?

 敵の中継機を撃破した後、イヴは「ネムルートに行くわよ」と騒いだ。

 しかし、移動する前にアロールに見つかった。


「そこの蒼い竜! 戦闘が終わったら聞きたいことがある! 逃げないように!!」

『職務質問来たー』

「ちょっと、カケル! 逃げなさいよ!」

 

 無茶言わないで欲しい。

 ただでさえ裏切り者のレッテルを貼られそうになっているのだ。これ以上、心証を悪くしたくない。アロールが味方になってくれるかは分からないが、見つかった以上無視して逃げる訳にはいかなくなった。

 カケルは侵略機械アグレッサーの残党の間を飛び回って敵の動きを乱し、エファラン空軍の支援をすることにした。

 その甲斐かいあり、しばらく経って夜明けの空に残っているのは、勝者の竜達だけになった。

 下に降りるように言われ、素直に指示に従う。

 竜部隊は地上に降りると負傷者の看護や、状況把握を始めた。簡易のテントが用意され、その周囲に竜も人も集まる。

 

「君たちのおかげで、助かった」

 

 意外なことに、アロールは開口一番、礼を言った。

 

「外出禁止発令中に、外に出たのは大目に見よう……ホロウくん、後で報告書を上げてくれるかな?」

「はいぃぃぃ!」

 

 上官の指示に、ホロウが畏まっている。

 その様子を眺めるアロールは、怒ってはいないようだった。ただ冷静に、カケル達がなぜここにいるか、現場指揮官として見定めようとしているようだ。

 

「さて。君たちは、どこへ行こうとしていたのかな?」

 

 カケルは答えようとしたが、その前にイヴが進み出て言った。


「私達は、ネムルート補給基地を取り返しに行くところでした!」


 ああ、言っちゃった。

 カケルは、アロールの片眉が跳ね上がるのを見て、宙を仰いだ。子供の先走りと嘲笑されるか、あるいは……


「普通なら、馬鹿な真似はよせと止めるところだろうな」

 

 アロールは静かに言った。


「だが、先ほど我々の窮地を救ったのは、君たちだった。簡単に止めることはできない……グラスラ、酒を飲むな」

「うぃ?」

 

 テントの片隅で、酒瓶を抱えている人間、ヒゲ面の大柄な男性が振り返った。


「彼らに同行して、ネムルート補給基地へ向かえ」

「へ……?」

 

 アロールが突然下した命令に、カケル達も、そのグラスラと呼ばれた男も、驚愕した。


「勘違いするな、君たちの言葉を信じた訳ではない」

 

 アロールは穏やかながら、ちくりと刺のある言葉で、カケル達を制する。


「この世界は、強い者が生き残る。勝った者の言葉は、絶対に正しい。負けた者の言葉になど、誰も耳を貸さない」

「……」

「君たちは、ネムルート補給基地を取り返すと言った。その言葉を実現し、勝者としてエファランに凱旋しろ。そうすれば私も、ここで私の言葉を傍聴している者たちも、皆君たちの味方になるだろう」

 

 ものすごい実力主義だな、この人。

 カケルは、アロールの割りきった考え方に感心した。ある意味、オルタナと同じように、戦いに生きる人種の思考だ。

 周囲にいる軍の竜や兵士も、異論はないようだ。まあ、アロールがここまで言うのだから、様子を見ようと考えているのだろうが。

 そこまで厳しい口調だったアロールだが「ただ」と、少し険を和らげ、優しい口調で言った。


「カケルくんは、先日から飛びっぱなしだろう。ネムルートへは、グラスラに乗っていくといい。君達には、休息が必要だ」

 

 その言葉を聞き、グラスラと呼ばれた髭の男が、残念そうに酒瓶を地面に置いた。


「……俺は万年補欠だと思っていたのに」

「何を言っているのやら。確かに君は鈍重な鎧竜で、小回りがきかなくて動きが鈍いから、侵略機械アグレッサーの迎撃には向かない。しかし、ネムルート奪還では主役だと思っていたよ」

「へいへい。人使いの荒い隊長様だ」

 

 彼は竜らしい。

 補欠として待機していたから、人間の姿だったようだ。

 気だるげな動作でこちらに歩いてくる。

 妙な威圧感を覚えて、カケルは無意識に頭を下げた。


「気張るな、坊主。人の姿に戻れよ。俺がネムルートまで送っていってやる」


 年の頃は、カケル達の二倍以上。年季を感じさせる中年の男は、髭だらけの口元を歪め、ニヒルな笑みを浮かべて見せた。

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