32 夜明け(side:アロール)

 まったく酷い夜だ。

 喉がからからに渇き、寒風の中なのに背中は汗に濡れている。高速で飛ぶ竜の背中では、常に微弱な防御結界を張る必要がある。アロールは強行軍に慣れているとはいえ、ここ数日は前線に出っぱなしのため、魔術の使いすぎで頭痛がした。

 

「銀色の鳥の動きに惑わされるな! 連携して確実に一機ずつ落とすんだ!」

 

 空軍の味方に指示を送る。

 侵略機械アグレッサーの新種、小型の銀色鳥シルバーバードに撹乱され、前線は崩壊している。

 動きの鈍い飛空丸太フライングログが竜の背後に到達し、エファランの壁に取り付いていた。その排除に一部隊を回したせいで、余計に前線の戦力が足りない。

 このままでは……最悪の事態が思い浮かんだ、アロールの視界のすみを、ふっと蒼い輝きが走った。


「あれは……あの蒼い竜は」

 

 例の学生、カケルという竜の青年だ。

 アロールは前から彼が気になっていた。これは竜騎士と呼ばれる連中の間の噂だが、竜の強さは鱗の色に現れる。まるで磨いたサファイアのように、透明感と光沢を持った蒼い竜の鱗を見て、アロールは彼が強い竜だと確信していた。ひょっとしたら、何かしら異能を持っている可能性すらある。


「いったい何を」

 

 蒼い竜は、侵略機械アグレッサーの後ろに回りこむ。

 すぐに、雷鳴のような重低音が空に響き渡った。

 それまで何も無かった空間に突如、巨大な金属の傘が現れる。

 あの傘は、侵略機械アグレッサーだろうが、見たことのない種類だ。

 傘の機械は、ゆっくりバランスを崩しながら、地上に降下し始める。

 同時に、銀色の鳥の動きが止まった。


「今だ!!」

 

 竜の部隊は、その隙を見逃さず、一斉に火を吹いた。

 小さな銀色鳥シルバーバードは、まるで殺虫スプレーを受けた虫のように、ばたばた燃え尽きて落下していく。

 嘘のような逆転劇だ。


「残党を一掃するぞ!」

 

 仲間から雄叫びのような返事が返ってくる。

 急激に数を減らしていく侵略機械アグレッサーの群れの、背後の空が淡い藍色に染まっていく。

 白い曙光が空を彩った。

 長い夜が、明けようとしている。

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