15 愛情表現が分かりにくい

 カケルは内心を顔に出さないように気を付けたが、平静ではいられなかった。


「ごめん、ちょっと食べ過ぎて腹が痛くなってきた」

「大丈夫か?」

 

 コクーンの視線が、こいつ案外頼りないなと危ぶむものに変わる。

 しかし、自身の評判など気にしている場合ではない。

 カケルは焚き火を離れ、一人、森に踏みいった。

 一人で考えを整理したかった。


「どこへ行くの?」

「うわっ」

 

 早速、イヴに見つかったが。

 カケルは無理やり笑顔を作り、イヴに問いかける。


「目印、見つかった?」

「見つかる訳ないでしょう! 物体なのか動物なのかさえ、分かってないのに!」

 

 彼女は、ぷんぷん怒って腕組みする。

 アロールさんも無茶ぶりだよなぁ、とカケルは思った。


「……全員の荷物を確認したが、不審な物は無かったぞ」

 

 足音もなく、オルタナが現れる。

 カケルたちの会話を聞いていたらしい。

 どうしようかな。

 目印を見付けたと言ったら、なぜ分かったか問い詰められて、芋づる式に自分の出自がばれる可能性がある。

 しかし、今のカケルはエファランに存続してもらいたい。侵略機械アグレッサーをそのままにしておけない。


「ちょっと、コクーンと二人きりで話がしたいんだけど」

「奴が内通者か?」

「えっとぉ」

「エファランの外から来たから、その可能性はあると思っていた」

 

 オルタナが鋭く指摘する。

 じゃあ、俺はどうなんだと、カケルは冷や汗をかいた。


「コクーン自身じゃなくて、彼の持ってる物が怪しいんだ」

 

 観念して打ち明ける。


「なんとか、彼の評判に傷を付けないよう、取り上げたいんだけど」

 

 コクーンは被害者だ。

 できれば穏便に事件を解決したい。カケルの出自を隠したまま、ことを済ませられれば恩の字だ。

 カケルの要望を聞いたイヴとオルタナは、そろって不機嫌そうな表情になった。いったい、何が懸念なのだろうか。


「えっと、大丈夫だよ。ちゃんと敵の目印を取り上げて、破壊する。約束するよ」

「そんなことは、気にしてない」

 

 オルタナが地を這うような低い声で言った。


「二人きり? 奴が抵抗したら、どうするつもりだ? お前一人で戦えるのか?」

「もしかして、心配されてる……?」

 

 友人らしく、カケルの身を心配してくれているのだろうか。

 そう期待するとオルタナは端の頭にシワを寄せて「違う」と唸った。そんな嫌な顔をしなくても。


「そうよ!」

 

 イヴが、勢いこんで割り込んだ。


「あなたに何かあったら……今まで無視した分、あなたは今後、私に奉仕しなきゃいけないのに!」

「は?」

「そうよ! あなたなんか、あなたなんか、私のお嫁さんがお似合いよ! 一生、私の言うことを聞く奴隷になりなさい!」

 

 お嫁さん?

 旦那さんじゃなくて?

 意味不明なことを言われて、カケルは混乱する。

 しかし当のイヴも真っ赤になって興奮しており、はたして自分の言葉の意味を理解しているか怪しい。


「オルト、どうにかして……」

 

 友人に助けを求めると、オルタナは険しい表情で言った。


「却下だ」

「!」

「誰が、毎週こいつをバイト先まで連れて行ってると思ってるんだ。こいつは世話された分を俺に返すべきだ! 一生かけてもな!」

「へ?!」

 

 カケルを放置して、イヴとオルタナは睨み合う。

 二人の間に見えない火花が散っているのが、手に取るように分かった。もしかして、意外と好かれているのだろうか……?

 おろおろするカケルを他所よそに、イヴとオルタナは激しく罵りあった後、ふんと互いにそっぽを向いた。


「あの~……」

「私は反対よ」

「俺も反対だ。やるなら、何かあった時のために、竜の姿になる体力が回復した明日の朝にしろ」


 意見が決裂したのではなかったのか?

 疑問符を浮かべるカケルに、オルタナが「ちっ」と舌打ちする。


「二人きりは却下だ。俺が立ち会う。アラクサラも、それで良いな?」


 イヴが眉をしかめて「勝手に決めないでよ」と言ったが、オルタナは強引に続けた。

 

「条件を飲むなら、協力する。お前が何を隠していたとしても、だ」

「!」

 

 オルタナに鋭い目で睨まれ、カケルは息を飲んだ。


「お前が俺たちを信頼していないように、俺たちもお前のことは信頼できない。が、信頼したい。これは、その譲歩だ。飲むか?」

 

 参ったな。

 鋭すぎるや。それに、俺よりもずっと賢い。

 イブも同意見らしく、空色の瞳で真っ直ぐこちらを見ている。

 カケルは敗北を認めざるをえなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る