13 内通者の疑惑
目的地に異常が生じていることに気付いたカケルは、シャボン玉の手前でホバリングする。
すると、シャボン玉の向こう側から深紅の竜が飛んできた。
「君たち、何故ここにいる?! 他の学生たちは、とっくに引き返して、地上の安全な場所で休息を取っているぞ!」
アロールだ。
彼は、深紅の竜の背から、魔術を使って声を飛ばして来ているようだ。
「ネムルートは墜ちた。
あのシャボン玉の中は、
アロールは、基地の人々の脱出を支援していたようだ。
「あの! 私たち、負傷した竜のクリストファーくんを助けて欲しくて、ネムルート補給基地まで来たんです!」
カケルの背で、イヴが声を張り上げる。
こちらも魔術で声を飛ばしているから、大声でも聞こえるはずだが、気分だろう。
「報告は聞いている。途中で墜落した竜の一隊が遅れていると……無事だったか」
「はい、全員無事です! クリストファーくんは竜の姿のままで、皆で救援を待っています」
「竜の姿のままで?!」
アロールの声に、動揺が混じった。
「それはいけない。
深紅の竜はくるりと旋回、カケルの前に踊り出る。
イヴが方角を指示し、アロールと深紅の竜と共に、カケルは元来た空の道を引き返す。
深紅の竜を追って羽ばたきながら、カケルはアロールに聞いた。
『アロールさん。合同訓練は毎年、こんなに危険なんですか?』
「そんな訳はない!」
アロールの声には、憤りのような感情が現れている。
「数年前までは、
そうか。船体外部修復機械!
カケルは、はっと気付く。
故郷の船団は、竜とまともにやり合うことを諦め、作業用機械を送り込み、壊されても構わない機械を量産する道を選んだのだ。
そして、その物量対策は、エファランを脅かし始めている。
もうすぐ日の入りが近い。
全速力で、オレンジ色に染まった雲の下を翔け抜ける。
夜になる前に、遭難した学生達が待っている場所に辿り着けるといいのだが。
『あれは……?!』
チカチカと陽光を反射して、飛行機械の群れが降下しているのが見えた。
「君たちは、行きたまえ! 私は、この付近で敵を追い払う」
アロールが
彼は続けた。
「イヴくん、カケルくん、オルタナくん! 敵は、この下に負傷した竜がいると確信している! なぜだ? もし敵の目が潜伏しているのなら、見付け出して排除するのだ!」
「っ……了解です」
イヴが頷き「アロールさんも、気を付けて!」と返した。
敵もこちらと条件は同じだ。
安全な場所を探すというコクーン達に、イヴが魔術で目印を付けたように、移動している者を追いかけることは難しい。正確な場所を見付けるには、印が必要だ。
カケルは飛翔速度を落として着陸体勢に入る。
『イヴ、オルト。俺も人間の姿に戻ろうと思うんだけど』
「どうして? 竜の姿の方が安全じゃない」
『敵の目印が付いているなら、たぶんとても小さいんじゃないかな。大きかったら、すぐ気付くよ』
だから自分も探すのを手伝うと言うと、イヴとオルタナが顔を見合わせる気配がした。
『あと、俺たちが敵の目印を探しているっていうのは、秘密にした方が良いと思う』
「裏切り者がいるって言うの?!」
『違う違う。探しているのに気付かれたら、逃げられるかもしれないから』
そう言うと、イヴは「それもそうね」と納得してくれた。
カケルは彼女の言葉「裏切り者」というワードに、一瞬、胸がヒヤリとする。俺は裏切り者じゃないと言っても、もともと敵の側にいたと分かったら、イヴとオルタナは受け入れてくれるのだろうか。
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