13 内通者の疑惑

 目的地に異常が生じていることに気付いたカケルは、シャボン玉の手前でホバリングする。

 すると、シャボン玉の向こう側から深紅の竜が飛んできた。


「君たち、何故ここにいる?! 他の学生たちは、とっくに引き返して、地上の安全な場所で休息を取っているぞ!」

 

 アロールだ。

 彼は、深紅の竜の背から、魔術を使って声を飛ばして来ているようだ。


「ネムルートは墜ちた。侵略機械アグレッサーの工場にされる前に取り返したいが、今は戦力が足りない。皆でエファランに撤退する!」

 

 あのシャボン玉の中は、侵略機械アグレッサーに占領されているらしい。

 アロールは、基地の人々の脱出を支援していたようだ。


「あの! 私たち、負傷した竜のクリストファーくんを助けて欲しくて、ネムルート補給基地まで来たんです!」

 

 カケルの背で、イヴが声を張り上げる。

 こちらも魔術で声を飛ばしているから、大声でも聞こえるはずだが、気分だろう。


「報告は聞いている。途中で墜落した竜の一隊が遅れていると……無事だったか」

「はい、全員無事です! クリストファーくんは竜の姿のままで、皆で救援を待っています」

「竜の姿のままで?!」

 

 アロールの声に、動揺が混じった。


「それはいけない。侵略機械アグレッサーは、負傷した竜を執拗に狙うのだ。嫌な予感がする。君たち、私を彼らのもとまで、案内したまえ!」

 

 深紅の竜はくるりと旋回、カケルの前に踊り出る。

 イヴが方角を指示し、アロールと深紅の竜と共に、カケルは元来た空の道を引き返す。

 深紅の竜を追って羽ばたきながら、カケルはアロールに聞いた。


『アロールさん。合同訓練は毎年、こんなに危険なんですか?』

「そんな訳はない!」

 

 アロールの声には、憤りのような感情が現れている。


「数年前までは、侵略機械アグレッサーが地上に降りる前までに撃墜していたのだ。しかし、奴らの機械は年々小型化し、我々の迎撃をすり抜けるようになった。四年前に北の都市ガリアが陥落してから、侵略機械アグレッサーの数は増え続けている」

 

 そうか。船体外部修復機械!

 カケルは、はっと気付く。

 故郷の船団は、竜とまともにやり合うことを諦め、作業用機械を送り込み、壊されても構わない機械を量産する道を選んだのだ。

 そして、その物量対策は、エファランを脅かし始めている。




 もうすぐ日の入りが近い。

 全速力で、オレンジ色に染まった雲の下を翔け抜ける。

 夜になる前に、遭難した学生達が待っている場所に辿り着けるといいのだが。


『あれは……?!』

 

 チカチカと陽光を反射して、飛行機械の群れが降下しているのが見えた。


「君たちは、行きたまえ! 私は、この付近で敵を追い払う」

 

 アロールがおとりになって迎撃すると言う。

 彼は続けた。


「イヴくん、カケルくん、オルタナくん! 敵は、この下に負傷した竜がいると確信している! なぜだ? もし敵の目が潜伏しているのなら、見付け出して排除するのだ!」

「っ……了解です」

 

 イヴが頷き「アロールさんも、気を付けて!」と返した。

 敵もこちらと条件は同じだ。

 安全な場所を探すというコクーン達に、イヴが魔術で目印を付けたように、移動している者を追いかけることは難しい。正確な場所を見付けるには、印が必要だ。

 カケルは飛翔速度を落として着陸体勢に入る。


『イヴ、オルト。俺も人間の姿に戻ろうと思うんだけど』

「どうして? 竜の姿の方が安全じゃない」

『敵の目印が付いているなら、たぶんとても小さいんじゃないかな。大きかったら、すぐ気付くよ』


 だから自分も探すのを手伝うと言うと、イヴとオルタナが顔を見合わせる気配がした。


『あと、俺たちが敵の目印を探しているっていうのは、秘密にした方が良いと思う』

「裏切り者がいるって言うの?!」

『違う違う。探しているのに気付かれたら、逃げられるかもしれないから』


 そう言うと、イヴは「それもそうね」と納得してくれた。

 カケルは彼女の言葉「裏切り者」というワードに、一瞬、胸がヒヤリとする。俺は裏切り者じゃないと言っても、もともと敵の側にいたと分かったら、イヴとオルタナは受け入れてくれるのだろうか。

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