10 衝動的に飛び降りてしまった
学生の竜たちは、よたよた飛んでシャボン玉の上部の出入口を通り抜けた。これから外部の補給基地に、皆で物資を届けに行く。数時間の短い旅のはずだった。
しかし、学生たちの楽観を嘲笑うかのように、空にいくつかの黒点が現れる。黒点は見る間に広がって、黒雲のようになった。
「
同乗していた、軍の大人が嘆いた。
彼の持っている携帯端末に、アロールから通信が入る。
『私が奴らを蹴散らす! お前たちは学生をネムルートへ送れ!』
「後退した方が安全です!」
『先ほどエファランの非常警報が鳴った。出入口が封鎖されたからには、後退は不可能だ』
深紅の竜が飛翔速度を上げ、黒雲に向かっていくのが見えた。
あの深紅の竜に、アロールが乗っているらしい。
演習で飛んでいる学生の竜は、三頭。いずれも飛ぶことに慣れていないのか、指示されて三角形の編隊飛行を維持するのがやっとだ。
「大丈夫だ。真っ直ぐ目的地へ飛べ」
軍の大人は、怯えている学生の竜を落ち着かせようと、手を尽くしている。
いざとなったら自分も飛ぼうと、カケルは決心を固める。
あの深紅の竜は、敵を全滅させられただろうか。
空を見上げる。
「っ、追ってくる!」
どうやら、アロールの迎撃をすり抜けた機体が、こちらに向かってきている。
敵の機械が放った光線が、一番後ろを飛ぶ竜の翼を貫いた。
その竜はバランスを崩し、失速する。
「!!」
落ちていく竜の背にいる、ストロベリーブロンドの少女と目が合った気がした。
カケルはその瞬間、竜の背から飛び降りる。
目を閉じて、肩甲骨から伸びる翼をイメージした。ちっぽけな人間の体を包むように、蒼い鱗の竜の体が虚空に現出する。感覚が人のものから、竜のものへ切り替わる。
両腕の代わりに翼を動かし、カケルは墜落した竜を追って降下した。
「こんの阿呆竜!」
オルタナは舌打ちすると、自分もカケルを追って宙に身を踊らせた。軽業でも使っているかのように空中を跳躍し、竜に変じたカケルの背に着地する。
「おいカケル! 普通の人間が、竜と竜の間を
『じゃあ、イヴはどうするんだよ!』
傷を負い、大地に落ちていく竜。
乗っている人々は、必死に
なおも追撃を続ける、
カケルは上昇すると、その
そして、墜落する竜の後を追った。
くそ、あの光の道。上昇気流が、落ちていく竜の足元に来たら、落下の衝撃を殺せるのにな。
すると、不思議なことが起こった。
ゆっくり、そう、ゆっくりと、カケルの望みに応えるように、光の道がゆらぎ、竜の下に移動する。
地面に激突する前に、辛うじて間に合った。
空気のクッションに守られて、竜はふわりと着地した。
地面に腹這いになった竜の背で、元気に動く人影を確認した。
乗員は皆、無事のようだ。
安堵したカケルだが、まずいことに気付いた。
『荷物、持ってくるの忘れた……』
着替えも入っているのに。今、人間に戻ったら裸になってしまう。
「俺がついでに持ってきた」
『ありがとう、オルト! 心の友よ!』
「何が心の友だ、突っ走りやがって。だいたい、こっちの竜はどうなってんだ。いざという時のために、人間の姿の竜が同乗すんだろが」
オルタナがカケルの背から飛び降りながら言う。
確かに、空中で不測の事態が起きた時に備え、人間の姿の竜が一緒に竜の背に乗り込んでいるのだ。演習に参加した学生の竜は、六人。三人が竜化し、カケルたち三人は補欠として竜の背に乗っていた。
「さすが、イヴさんは魔術師協会の娘さんやね! 落下中に咄嗟の結界魔術、見事やったわぁ」
「それほどでもないけれど……」
負傷した竜の背から降り、イヴが同乗していた学生と話している。
オレンジの髪の男子生徒は、
「あなた誰?」
「自己紹介が遅れましたね。僕は、タルタルいいます。実家はビックバン商会です。うちの出資百パーセントのビックバンバーガーをよろしうお願いします!」
「ああ、あのでかいサンドイッチね……」
タルタルは、ドン引きするイヴの手をつかみ、上下にシェイクしている。
オルタナは、墜落直後で混乱している彼らに近寄り、カケルの疑問を代弁してくれた。
「軍の奴は、どこにいる?」
エファラン国軍から、護衛かつ引率の大人が一人同乗しているはずだった。
質問を受けて、学生たちは一斉に視線を移動させた。
無言のイヴたちの視線の先に、小柄な男が倒れている。
軍服を着ているが、学生と見間違うくらいに童顔な男だ。
「おい」
オルタナが、男の頬をぺちぺち叩く。
「う、うーん。借金は、明日返すから……はっ」
童顔の男は飛び起きた。
「ここはどこだ?!」
それは、こっちの
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