第14話 調査
ガーランド兄様から頼まれたのは、言わば偵察任務だった。
魔物や悪魔が集まっているところへ向かい、実際に何をしているのか、確認して欲しいって。
そのために、私は今コルスと一緒に、砦の先にある不毛の大地を歩いていた。
「それで、俺と一緒にこんなところまで来たってわけですかい」
「文句ある?」
「いや。ただ、こういう雑用は、普通俺にだけ任せて自分はふんぞり返ってるもんじゃ? あの王子殿下も、そのつもりで頼んでたと思いますがね」
「それじゃあ私の能力の証明にならないでしょうに」
「配下の力も含めての、権力者の力ってもんだと思いますがね」
後ろでグチグチ言ってるコルスは置いといて、私は兄様に指定された地点を目指し歩いていく。
当たり前だけど、ミーミアは置いてきた。
私が行くことに最後まで反対してたけど、こればっかりはやらないといけない。
コルスは、まあ最悪どうなっても構わない枠なのと、素人の私一人だと重要な情報を見落としかねないから……実質、私が護衛でコイツが調査員。
我ながら思うけど、見た目の印象と真逆ね。
「で、そろそろのはずなのよね?」
「地図を見る限り、ここが最初の地点ですがね。……どうにも静か過ぎる」
コルスの言う通り、相当な数の魔物や悪魔が集まってるはずなのに、あまりにも静かだ。
悪魔はちゃんと知性を持った存在だからまだしも、魔物は強大な力を持ったただの獣、じっとしてなんていられないはずなのに。
「……待って、いたわ」
「おっと……」
草木一本生えておらず、風が吹けば砂埃が舞うこの土地は、地割れや地滑りでいくつもの大きな崖や丘が生まれている。
そうやって出来た天然の谷間の一つに、魔物の集団が集まっているのを見付けた。
「たくさんいるわね……それで、これをどう報告すればいいの?」
「姫サマ、そんなことも分からずに請け負ったんですかい……?」
「仕方ないでしょ、勉強したくても、教えてくれる人がいないんだから」
ミーミアからある程度の物事は教わってるし、“一度目”の時も多少は自力で本を読んで勉強したとはいえ、やっぱり専門家の教師がいない問題は大きい。特に、こういった場面に関する知識はほぼゼロだ。
……ルーベルに頼んだら、教師になってくれる騎士を派遣して貰えたり……無理よね、多分。
「ひとまず、大雑把な敵の数の確認と、正確な地点の記録をするとこですね。俺がやるんで、姫サマはやり方覚えてください」
「分かった、ありがとう」
そうだ、コルスに教わればいいじゃない。
単に案内役が必要だからっていう理由だけで拾った男だけど、思ったより役に立つかも。
そんな風に思いながら、バレないように魔物の集団を観察して……ふと、違和感に気付いた。
「ねえ、魔物って、こんなに長時間、規則正しく同じ動きをするものなの?」
「んん?」
確かに、大量の魔物がいて、それを従える悪魔がいる。
でも、それら全てが、どうにも単調で同じ動きしかしていないように見えるのよね。
バレないように距離を取ってるから、コルスには細かい部分までは見えないから、一見すると普通に大人しく野営しているように見えるみたいだけど。
「そりゃあおかしな話だとは思いやすが……って、姫サマ、どうしたんで?」
「コルス、もしこれが私の勘違いだったら、私を置いて一人で逃げなさい」
「は? 姫サマ、何するつもりで……まさか」
「そのまさかよ」
コルスを置いて走り出した私は、手首を爪で切って血を噴き出させる。
そのまま空に跳び上がり、血を翼の形にして飛んでいく。
せっかく剣を訓練したのに、何だか使うのが魔法ばっかりだな……とふと思った私は、魔物達の上空までやって来ると、血で出来た魔法の大剣を作り出す。
自分の身長よりも遥かに大きなそれを振りかぶり……魔力を込めて、振り下ろした。
「《
真紅の魔力が斬閃に沿って放たれ、地上を薙ぎ払う。
谷間を更に深く刻み込んだその一撃に、魔物達は最後まで一切の反応を示すことなく──まるで霞のように、その姿が掻き消えた。
そこに潜んでいた魔物も悪魔も、一匹残らず。
「なるほど、これは予想外ですねえ……まさか、砦の方で把握してた敵影が、魔法で出来た幻だったとは」
「……逃げろって言ったでしょうに。主の言うことくらい聞きなさいよ」
空から降りた私を出迎えたのは、当たり前のように私が血液魔法で吹っ飛ばした爆心地付近まで近付いていたコルスだった。
彼は私の注ぐジト目に対して、すっとぼけるように耳をほじる。
「さて、俺は姫サマが勘違いしてたら逃げろって言われましたが、敵が幻でも逃げろなんて言われちゃいませんね」
「はあ……まあいいわ、それより、こんなご大層な幻まで用意して、敵はどこに言ったのかしら?」
「さて、どこに向かっているかは分かりませんがね、どこへ行ったかというと、そこじゃないですかね?」
コルスが指差した先には、私の魔法に耐え兼ねたように崩れた地面と……その更に奥、地下へと続く道が、ずっと続いてるのが見えた。
「この地下道が続いてる方角は、ちょうど砦の方ですねえ……偶然とは思えません」
「ヤバいじゃないの」
私達は来たばかりで、膠着状態がいつから続いているのかまるで知らない。
でも……このまま地下を通って、いきなり砦を急襲されたのなら、私の知ってる未来へ繋がるのも頷ける。
「まだ確認の途中だけど、急いで戻るわよ。ガーランド兄様に報告しないと」
「了解です」
吸血王女のやり直し〜化け物として討伐された私は愛され王女になって運命を改変する〜 ジャジャ丸 @jajamaru
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