【ショートストーリー】思索し、詩作する
藍埜佑(あいのたすく)
【ショートストーリー】思索し、詩作する
いつもの窓辺の僕はいる。
日が暮れると一日の喧噪は静まり、すっかりと静寂が広がってく。
町の音はもうすっかり聞こえない。
ただひとつ、窓の外に広がっているのは、無数の星々がちりばめられた天空の海だけだ。
いくら眺めても、そこには終わりなどない。
僕の部屋だけが、ほっとする場所として存在し、心地いい灯りに満ちている。
部屋の壁に柔らかな影を投げかけている照明が、ささやかではあるが何とも落ち着ける静けさを生んでいる。
光は手元を照らし、白いノートのページを浮かび上がらせる。
まだ何も書かれていないというのに、紙一枚に宿る無限の可能性が僕の想像を掻き立てる。
手馴れた形状のマグにはまだ熱々のコーヒーが注がれており、湯気が立ち上っている。香りは室内に広がり、不思議と気持ちを安定させる。
コーヒーの香りはその場所が僕の領域であると再確認させ、僕はそこで過ごす時間を大切にすべきだと感じている。
僕、そしてペン、そして紡ぎ出される物語、みんなが一つになってこの時間を過ごす。
夜と僕は一体となり、この瞬間を大切にし、思考は現実と夢の間で織りなされる。
目の前に広がるノートのページは、新雪のように真白で、未知の可能性が秘められた海が広がっている。
ペンが紙に触れる瞬間、紙面が少しだけ揺れ、一筆一筆が未来へ続く道を示す。それはまるで、ミニチュアの冒険のようでもある。
リズムよく思考はペンから紙へとあふれ出し、形をなし、新しいアイデアを次々に生み出す。それらの文字は命を受けて、ページ上で力強く存在を主張する。
窓の外からまばらに都市の生活音が聞こえてくる。遠くで行われる活動の鼓動は、僕とは対照的に生々しい存在感を放ち、それらの音はそれぞれが独自のストーリーを紡いでいる。
窓を見上げて月を眺めてみると、雲間から柔らかな月明かりが射し込む。
闇に浮かぶ月光が微かな輝きを与え、静かな印象を与える。
それこそが、宇宙の大きさ、その無限への広がりを教えてくれる。
その美しさに思わず息を呑み、僕はこの安らぎを心に深く刻む。
この瞬間の静寂、そしてその美しさが心を満たす瞬間、それは人生で数少ない特別な時なのだ。
そしてふと思う。僕が追い求めている美しいものとは、もしかしたらこういった身近なものなのかもしれない。
日々過ごす日常の中にひそかに存在し、ふと覗き見る独特な瞬間こそが、僕たち一人一人が紡ぎ出す物語における重要なピースなのかもしれないと。
(了)
【ショートストーリー】思索し、詩作する 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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