第21話 ハクロ、邪神、しろどら
初めて会った時、そして家に連れてきた時……どちらも2人きりの空間だった。
オトのように自在に変化ができるわけでも、明日乃様みたいに身を守るすべがあるわけでもない私は、格好の的だろう。
ハクロさんは邪神。私の命なんて簡単に……。
「ん? それなら……どうしてそうしなかったんだろう。チャンスはいくらでもあったのに」
「いくらでも、とは?」
「最初に会ったのが人気のない場所で、家に入れたこともあるんだよね。だから――」
「い、家に入れたぁ!? 何てことしてますの!?」
頬をかく私に大きなため息をつき、「無警戒にもほどがありますわ!」と手を放す。
は、反省してます……。
「あなたの警戒心の無さは置いておくとして……不思議ですわね。その時にコトハを始末してしまえば、今頃ハクロの目的は達成されているはず」
始末……命を奪われていたかもしれないと考えると、ぞわりと寒気がする。
正体を知らないで、ドキドキして話していたあの頃を思い出す。
「『千夜』に行くな」「警告に従うんだ」――「俺は君が大事なんだ」
……これじゃあ、まるで。
ハクロさんの行動の矛盾。それが私をある答えに導いた。
邪神だと知る前なら、きっと納得する答え。
けれど知ってしまった今では、どうしても疑ってしまう。
「コトハ、考えているところ悪いけれど……見てほしい部屋があるのです。よろしいかしら?」
「あっ、うん。どの部屋?」
……この疑問は、一旦置いておこう。
ワタグモを忘れずに頭に乗せて、オトについて行く。
その部屋は上の階にあるようで、らせん階段を上る。
「そういえば、なんで布に化けてたの?」
「この建物を調べるためですわ。万が一、途中でハクロが戻ってきたら大変でしょう? 布なら隙間に入り込むこともできますし、何かと便利かと」
物に化けれるって便利だなぁ、私もやってみたい。
しばらくすると、オトの言う部屋に到着した。
「……開けますわよ、覚悟はよろしくて?」
「ど、どうして無駄に溜めるの、そんなにやばい?」
「さぁ、どうでしょう……と、冗談はここまでにして」
ゆっくりと扉が開かれる。
家具は最低限の、薄暗く不気味な部屋。
そこには、大量の紙が散らばっていた。
「調べているうちに見つけましたの。あなたなら、わかるかと思って」
「……うん、知ってるよ。だって、これって」
落ちている1枚を拾って、書かれている文字を読む。
「『4月〇日 夜のお悩み相談 ※時間が余ったらコメントから拾う』――しろどらの配信に映されているスケッチブックだよ」
どうして、しろどらに言われたことをハクロさんが知っているのか……それがはっきりした。
「しろどらはハクロさんなんだ。…………信者ってもしかして、相談者!?」
祈り、頼られる……それが信仰だと明日乃様は言っていた。
この場合、祈りは相談――「解決策が欲しい」という願いを、お悩み相談の形で叶えて、ハクロさんは信仰心を集めた。
それが人気となって、登録者数も増加。
相談者――信者はどんどん増え、ついに力の封印が破られたんだ。
「視聴者が減っていったのは偶然じゃなくて、信者が生贄として連れ去られたから……!」
点と点が線になっていく。
配信者以前に、インターネットについてあまり知らないオトを置いてけぼりにするわけにはいかないので、判明したことを教える。
全部聞き終えるころには、目を真ん丸にしていた。
「全部理解したとは言い難いけれど、大体はわかりましたわ。さすがにカクリヨや明日乃様も、この方法で封印を解いたとは思い至らないでしょうね……」
昔からいる神様が、まさか配信で信仰を集めてるなんてびっくり。
……ということは、あの突き放すような回答もハクロさんの言葉ってことだよね。
「『元通りの生活をするんだ』、か……」
「コトハ、この紙なのだけれど」
オトが拾い上げ、私に見せてきたのは……配信に映されていたものとは違って、ぎっしりと文字が書かれた紙。
「あ――」
それを見て、ついに確信した。
そうか、だからなんだ。
これまでの彼の行動、それはある感情によるもの。
邪神と呼ばれる存在に似合わないけれど、ハクロさんはそれを持っているんだ。
「ねぇ、オト」
「何かしら?」
「私、分かっちゃったかも。ハクロさんに勝つ方法」
それを聞くと、紙を弄んでいたオトの手が止まる。
「詳しく教えてくださる?」
「……そこでその和歌を使うと。考えましたわね」
「うん、これは私が1番好きな和歌だから」
私が立てた作戦を聞き終えたオトは、少し考えて。
「『歌術の力を引き出すのは感情』……それなら、あなたの想いが重なって効果は絶大になるかもしれませんわ。でも」
「でも?」
「雑なところが多い! 修正させていただきますわ」
「そ、そんなぁ~」
名案だと思ったのに……。
しょんぼりしていると、目の前に手が差し出される。
「歌札と封印札、貸してくださる?」
「わかった。はいっ」
作戦を変更点を話し合いながら、既に決まったところの下ごしらえをしていく。
「……それ、私だけじゃ思いつかなかったかも」
「完璧ではないけれど、あなたのもなかなか良いと思いますわよ……はい、これはお返しします。それと顔をこっちに向けて。残った準備はこれだけですので」
言われた通りにすると、おでこを軽く撫でられる。
うーん、ちょっと違和感があるかも。
ヒリヒリするというか……。
触ろうとするとオトに叱られた。
「術が解けてしまいますわ。我慢しなさい」
「はーい。備えることはもうないし……あとはハクロさんがここに来れば、始められるね」
今頃、地街に私がいないことにハクロさんは気づいているだろう。
もしかしたら、もう空街に来ていたりして……。
「とりあえず大声で呼んでみるなんてどうかしら」
「え、雑じゃない!?」
でも物は試しだ、やってみよう。
部屋の窓を開け、大きく息を吸い込む。
「すぅー……」
「……ワタグモさん、わたくしのもとにいらっしゃい」
ワタグモがオトに飛び移ったその直後。
「ハーーークーーーロさーーーん!!!! 私はここでーーーす!!!!」
身を乗り出して、思いっきり叫んだ。
「……天狗から逃げる時もそうでしたけれど、あなたって叫ぶのがお上手ですわね」
「それ、褒めてるの?」
その時だった。
風が吹き荒れ、地響きがする。
「――来ますわ」
「オト、手を!」
手を繋いで、離れ離れにならないようにする。
旋風が建物を破壊し、私たちは外に飛ばされた。
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