第12話 事件はまだ終わっていない

「よーしよし、かわいそうに。怖かっただろう」

「遠慮しなくていいのよ? 食べたいものがあるならこのお姉ちゃんに言いな」


 なかなか泣き止まない座敷童たちを「千夜」に連れて戻ると、お客さんたちはそろってなぐさめてくれた。

 あふれ出ていた涙も次第になくなり、今では並べられた和洋様々なスイーツをおいしそうに食べている。

 ケーキ、クッキー、クレープ、みたらし団子にどら焼き……どれもおいしそう! 明日乃様、何でも作れるんだなぁ。


「これ、すっごくおいしい! こんなの、はじめてたべた!」

「ねぇねぇ、おかわり!」

「おれもおれもー!」

「ま、待ってくれ。 ああ、せっかく買い足してもらった食材がものすごいスピードで減っている――!」


 泣き止んだ座敷童たちはすごい勢いで、皿を空にしていく。

 短い付き合いの中で、余裕がなくなった表情を見るのは初めて。

 ドタバタとキッチンと席を行ったり来たりしているんだけど……このまま眺めているのも、かわいそうな気がしてきた。


「……手伝おっか」

「そうですわね」





 しばらくしてスイーツ注文ラッシュが収まると、さっそく事件についてくわしく話してもらうことにした。

 人数が多いうえにいっぱい食べるものだから、私たち三人は、くったくた。明日乃様なんかは、髪がくずれて息を切らしてるし。


「それじゃあ……い、いなくなった人たちの、年齢と性別と、いつから……いないのか、と……ぜぇ……気になった、行動とかあれば、教えて……ほしい……はぁ」

「明日乃様、無理なさらないで。ここからはわたくしたちにお任せを」


 ぼろぼろの明日乃様は「頼んだ……」と、ふらふらした足取りで店の奥へ。

 「千夜」の二階は住居スペースになっていて、そこにオトと明日乃様は住んでいる。だから明日乃様の寝室も二階。

 目が虚ろだったし、うっかり階段から転げ落ちないか不安だよ……。

 



「さ、気を取り直して。教えてくれる?」


 目線を合わせて座敷童たちに質問する。「んーとね」とすこし考えると一人ずつ答えてくれた。

 消えた人間たちの年齢はバラバラ。男女も関係なくて、いなくなったのはここ1週間のこと。

 気になる行動については……。


「うーん、なんかね、いたをみてた。ひかるやつ」

「板?」


 何のことだろう? と首をかしげる。

 横でオトが「ああ、あれのこと」とうなずいていた。知っているみたい。


「あなたも持っているでしょう? 確か、明日乃様もお持ちのはずですわ。ほら、『いんたーねっと』が見れる――」

「……あ、もしかしてスマホ!? スマホなんてみんな見るから、何もおかしくないと思うんだけど……」


 それを聞いて座敷童たちはしょんぼり。ま、まずかったかな。でも本当のことだし……。

 

「他に心当たりはありませんの?」


 オトの質問に一斉に首を横に振る一同。心当たりはスマホだけだったみたい。

 ど、どうしよう……行き詰っちゃった。

 さすがに手がかりが少ないな、どうしよう?


「あのぅ」


 そろりと手を挙げたのは――座敷わらしたちをなぐさめていた1人の、河童のお客さん。

 何だろう?


「みんなが話しているのを見て、思い出したんだけど……この前、おかしな荷物を運んでいる妖怪たちを見つけたんダ」

「おかしな荷物? カクリヨからの宅配便とはちがいますの?」


 カクリヨって宅配便あるんだ。


「いや、宅配ならその会社の羽織を着ているんだけど、そいつらは着ていなかったんダ。あの時は何とも思わなかったけど、今考えると……」

「怪しい、と。運んでいたものの大きさは?」

「担いでいるみたいだったヨ。こうやって、よっこらせって感じ」


 席を立って、工事現場の作業員がするよう持ち方のマネをして見せる河童。

 まるで、大きなものを担いでいるみたい。

 もしかして。


「運んでたのって――人間!?」

「包まれていたから中身はわからなかっタ。けれど狸ちゃんや狐ちゃんくらいの子が入っててもおかしくないと思うヨ」

「場所は? どこに向かっていったのです?」


 河童が場所を教えてくれるそうで、注文に使う紙とペンを手にオトがメモしていく。

 その間私が考えていたのは……犯人について。

 存在がなくなったということは、犯人の目的はきっと天狗と同じで、連れ去った人間を「あの方」への生贄にするため。

 「あの方」が一体誰なのは、今もわかっていない。

 調査も進展なし。今回の犯人はきっと複数人だから、むやみに突っ込むのは危ない。

 ふと思い出したのは、たっちゃんを探して1人で走り回った時のこと。

 怖さと不安でどうにかなりそうだった気持ちを、今でも覚えている。

 あの時転んだ時の傷、もう治りかけだけど、触るたびに心がざわつくんだ。トラウマになったのかな。

 ……この子たちも、きっとあの時の私と同じ。それに座敷童って家に住み着くから、いなくなった人たちは家族同然なんだと思う。

 今はスイーツをお腹いっぱい食べて落ち着いているけれど、すぐにまた、心がざわついてくるはず。

 そんなこの子たちを、すぐにでも助けたかったから――河童から場所を聞き終えたオトの手を握った。


「コトハ?」


 戸惑うのを気にせず、こう言った。


「探しに行くよ、今すぐに!」

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る