サンシャイン!

ねこしぐれ

美奈と奈美

 みんなには、いますか?

 一緒にいると心がポカポカして、ホッとする、大切な人。

 わたしもいるよ。

 たった一人の友だちがいるの。

 その子は、朝起きた後から夜寝る前まで、暗い時以外は、ずーっとそばにいてくれる。

 とっても優しくて、可愛い仕草の女の子なんだ。


 今日も、わたし達は学校へ行く。

 まずは、友だちの奈美ちゃんに挨拶しなきゃね。

 家でも、奈美ちゃんはそばにいてくれるけれど、わたしが奈美ちゃんに挨拶すると、お母さんが怒るんだ。

 ひどいよね。わたしは、友だちに挨拶しているだけなのに。

「奈美ちゃん、おはよう!」

 返事は返ってこない。

 奈美ちゃんは、無口なんだ。

 わたしと友だちになってから、一度もお話したことがないの。

 奈美ちゃんと、ちゃんと話してみたいな。

 でも、無理じいはしないよ。

 だって、奈美ちゃんの気持ちを一番大切にしたいから。

「あっ、美奈ちゃん、おはよ〜」

 あれ? 後ろから歩いてくるのは……クラスメイトの女の子だ。

 名前はなんだっけ? 忘れちゃった。

 でも、いいんだ。

 だって、わたしには奈美ちゃんがいるんだもん。

「……また、やってたの?」

 クラスメイトの女の子は、わたしを心配そうに見た。

 あれって、なんだろう?

 わたしは、奈美ちゃんと話しているだけだよ。 

「美奈ちゃん。それ、やめたほうがいいと思う。みんな、気持ち悪いって言ってるんだよ……?」

 なんの話か、全然わからないな。

 “それ”って、なんのことだろう?

 ちゃんと言ってくれないと、わかんないよね。

 わたしが奈美ちゃんを見ると、奈美ちゃんもわたしを見た。

「奈美ちゃん、走って学校行こう!」

 わたしは、奈美ちゃんに言う。

 奈美ちゃんは、今にも走り出しそうな格好をしていた。

 そうだよね! わたしも、そんな気持ちだよ。

 奈美ちゃんがうなずいたら、せーので走り出そうと思ってたんだ!

「せーのっ!」

 わたしと奈美ちゃんは、一緒に走り出す。

 奈美ちゃんは、鏡の向こうにいるみたいに、わたしとは対象な動きをする。

「それだよ、それ! やめたほうがいいって!」

 後ろから、女の子の声が聞こえたけど、うまく聞き取れなかった。

 でも、大丈夫! わたしには、奈美ちゃんがいるから!


 ✡


 放課後、いつもどおり、わたしは奈美ちゃんと下校する。

 奈美ちゃんは、夕方になると背が高くなるんだ。

 ぐ〜んって、背が伸びるの。

「奈美ちゃん、今日も楽しかったね!」

 今日の昼休みは、奈美ちゃんとバレーをした。

 奈美ちゃんは、一回もボールを取れなかったけどね。

 奈美ちゃんは、ボール遊びが苦手みたい。

 毎回、わたしが取りに行かなきゃいけなかったんだ。

 でも、楽しかったからいいの。

「奈美ちゃん、また明日も遊ぼうね!」

 そう言ったとき、周りが少し暗くなった。

 ……あ。雲が、太陽を隠しちゃったみたい。

 奈美ちゃんを見ると、姿が霞んでいた。

「奈美ちゃん! 大丈夫?」

 わたしが心配すると、奈美ちゃんも、わたしを心配するような仕草をした。

「違うよ、わたしが奈美ちゃんを心配してるんだよ?」

 わたしが首を傾げると、奈美ちゃんも首を傾げる。

 こういうときも、いつもどおりなんだね。

 さすが、奈美ちゃんだなぁ。

「見てみて、わたしの家だよ。これからは、話せないね」

 お家には、お母さんがいるから。

 お母さんは、奈美ちゃんと話すと怒るから。

 あーあ、家でも、奈美ちゃんと話したいなぁ。

「バイバイ、奈美ちゃん」

 わたしは、奈美ちゃんに手を振る。

 奈美ちゃんも、手を振り返してくれた。

「ただいまー!」

 大きな声で、家に入る。

「おかえり、美奈」

 お母さんは、キッチンにいた。

 夕ご飯を作ってたみたいだ。

「聞いて、お母さん! あのね、今日学校で、先生に褒められたよ!」

「あら、良かったね」

 わたしは、お母さんに今日のことを話す。

「……今日は、奈美ちゃんの話はしないんだね?」

 お母さんは、ホッと息をついた。

「奈美ちゃんの?」

「だって、美奈。いつも、自分の影に『奈美ちゃん』って呼びかけてるじゃない。友だちみたいに」

 お母さんに言われて、わたしは足元を見る。

 床の上に、うっすらと黒い奈美ちゃんがいる。

「だって、友だちだもん! 宿題してくるね!」

 わたしは、自室に入る。

 パタン、と扉を閉めて、ため息をついた。

「わたし以外には、奈美ちゃんが見えないんだよね。わたしが友だちをやめたら……奈美ちゃんは、一人ぼっちだ」

 わたしはしゃがみこんで、奈美ちゃんに手を触れた。

「わたしが、奈美ちゃんのたった一人の友だちでいるから、奈美ちゃんも、わたしのたった一人の友だちでいてね。約束」

 わたしは、奈美ちゃんに小指を差し出す。

 奈美ちゃんも、小指を出した。

 その二本の指が触れ合うことは、叶わなかったのでした。


       おしまい

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サンシャイン! ねこしぐれ @nekoshigure0718

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